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2周目は鬼畜プレイで  作者: わかやまみかん
6章 アリスへの疑惑編
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第2話  山猫マイカ、山岳国潜入ルポ。

 

 姐さんは獣だ。

 ワタシたち山猫なんかじゃ足元にも及ばないくらいの。

 フォート公のような国を腐らせる小物の害獣じゃない。

 まるで孤高の賢狼のようだ。

 どれだけ女王として綺麗な衣装を身に纏っていても、どれだけ女王に相応しい行動を取っていても、中からにじみ出てくる獣の王を主張する、あの強者の雰囲気を隠すことだけはできない。

 そもそも姐さんはそれを隠そうともしないのだ。

 そこが堪らなく素敵だと思う。

 だからワタシは姐さんに忠誠を誓った。

 ……一匹の山猫として。 



 ワタシはブラウンの馬鹿がエリーズを陥落させたのを確認すると、すぐに別行動を開始した。

 各地で潜伏している破戒僧たちと早急に連絡を取るためだ。

 とは言っても特に手こずることもなく、ファズというおっちゃんの名前さえ出せば簡単に話は通じた。

 エリーズでの戦いの情報もすでに行く先々の街で話題になっていたし、その中に彼らの仲間が参加していたことも当然のように知っていたというのもある。

 彼らに今後の方針として決起の時を待ってもらうこと、待機している間に別の仕事に専念することを伝える。

 ちなみに別の仕事というのはいわゆる情報工作だ。


「……女王国の後ろには帝国がいるから戦わない方がいいらしいよ」とか。

「……あの将軍はこの前の敗戦の責任も取らずに、のうのうと生きているらしいよ」とか。

「……キール教の真言派に味方すると命だけは助けてもらえるらしいよ」とか。


 そういった噂を酒場や市場で撒き散らしてもらうのだ。

 彼らからその了承を得ると、速やかに次の街へと向かう。

 それらを進軍予定の経路を辿りながら繰り返していくのだ。



 そんな感じで、エリーズ攻略から一月後には首都ライオットに潜入することができた。

 だが、ある意味ここからが本番だと言える。

 連絡係が到着するまでに、本格任務に向けての足がかりを……と言いたいところなんだけど。

 なんか、お金が尽きそう。

 必要な分はちゃんと頂いていたんだけどね。

 何でかなぁ……?

 きっと酒代はバカにならないということだろうね。……たぶん。

 手っ取り早く稼ぐには昔取った杵柄というやつで、人様の懐からチョチョイとやるのが楽なんだけど、さすがにそれは姐さんにシバかれてしまうから却下ということで。

 ……仕方ない。アレをやるか。




「ねーちゃん、イイ体してるねー」


 ワタシが腰を振るたびに男たちが興奮したように声をかけてくる。


「もっと激しく!」


 別の男が悶えている。

 ……誤解を招く前に言っておくが、ここはステージの上だ。

 兵士たちが多く集まる酒場で私は激しく情熱的に踊っていた。 

 これでも踊りにはちょっとばかり自信があるのだ。

 より激しく! より艶やかに!

 お客さんからいい反応があれば、それだけ給金も弾む。

 さぁ、興奮しろ! そして恋い焦がれろ!

 彼らの熱い視線を浴びながらワタシは狂ったように踊っていた。

 

 

 

 興奮冷めやらぬお客さんに愛想を振りまきながら、ワタシは悠々とステージを降りた。

 いやー、イイ汗かいた!

 着替えて相場よりも多めのお金を頂いて、気を良くしたワタシはカウンターに座り、まずは一杯流し込む。

 プハーッ! ……この一杯の為に生きている!

 ワタシが気分よく飲んでいると、誰かが音もなく近づいてきてすぐ隣に座った。

 まぁ踊っている最中からその冷ややかな視線を感じてはいたんだけどね。


「……酒場なんか指定してくるから、どうせまた飲んだくれているんだろうなと思っていたんだけど。まさか、踊り子なんてやってるとは思わなかった」


 あきれた感じでパールがボヤいた。


「……お金無くなっちゃったの?」


 彼女がこっちを睨みつけながら訊ねる。


「……まぁね」


「……酒代?」「……うん」


 ワタシが躊躇いながらも小さく頷くと、パールが盛大に溜め息をついた。


「……マイカぁ。もう何でキミはいつもそんな感じなのさ」


「……アンタもやってみればいいじゃん? 絶対ワタシより人気がでるよ。可愛いからね」


 そう言って彼女の柔らかくて触り心地のいい頬っぺたをフニフニと触る。


「ボクはそんなの嫌だよ。……恥ずかしいし、よくあんな薄い布きれみたいな衣装着ちゃえるよね……」


 パールは眉間に皺を寄せながら、ワタシを変なものを見るような目で睨みつけた。


「アンタの服もアレとそんなに変わらないでしょうに……」


 そう言いながら動きやすい服装から剥き出しの太ももをオヤジのように撫でまわす。


「……きゃっ! ……もう、ホントにやめてよ!」


 物凄く嫌そうな顔をしてワタシの肩をバシバシ叩いてくる。

 最近このパールいじりが楽しすぎて困る。

 一応この娘がウチのリーダーなんだけど、年齢は部隊の中で下から数えたほうが早い。

 その中でリーダーとして健気に頑張っている姿が少しだけ山に残してきた妹に似ていて、ついつい構いたくなるのだ。



 二杯目を呷りながら、パールと今後の話をする。

 誰にも聞こえないように、それでいて不自然さを感じさせないように。


「珍しいね、アンタが姐さんの傍を離れるなんて。あっちの方は大丈夫なの?」


「うん。今回はこっちの方が大事だからって」 


 一応ライオットには連絡役があと二人来ているが、彼女たちは街で情報収集と噂を流すことに専念するしい。

 今まで他の街でワタシがやってきたことだな。

 あと数人は王宮とエリーズに残して、残りは全員ポルトグランデに連れて行ったらしい。

 一体何を企んでいるんだか……。

 取りあえず今回はワタシたち二人だけでの潜入ということらしい。

 まぁ未熟な子猫たちがしくじって任務内容がバレては元も子もないという判断だろう。

 ……つまりそれだけ危険だということだ。


「……で、肝心の任務は?」


 パールの話では、エリーズで防衛戦をしている間に王城に潜入して、調べられることは全部調べろという話らしい。

 戦争自体は絶対に勝てるけど、その後どうすればいいかを判断するための情報が欲しいとか。 

 ……それにしても相変わらずの自信。

 絶対に勝てるなんて普通言えない。

 さすが姐さん。そこがシビレる。

 それにしても勝った後どうするのかなんて、ワタシにどう調べろと言うのか。


「……要するに弱みを握れってこと?」


「うん。あと人間関係、力関係かな。……誰が一番力があるのかとか」


「……王様に決まってるじゃん。そんなの」


 ワタシの軽口を受けて、少し真剣な面持ちでパールがさらに声を抑える。


「……誰の首を刎ねれば一番効率が良いのか、ってこと」


「……なるほどね」


 勝つには勝つが、無駄な被害はできるだけ出したくないと。

 勝った後もなるべく穏便に統治したいと。

 ……いかにも姐さんらしい。


「それとアリス様からの伝言。……ハルバート候には絶対に近づくなって」


 あの男ね……。

 堂々と王宮まで足を踏み入れた優男だ。

 まぁ、剣の腕も相当なモノだと思わせる佇まいだったと記憶している。

 でも、そう言われると近づきたくなるんだけどな。……力試しみたいな感じ?

 ……どうしよっかなぁ。




「ブラウンは依然エリーズにて防衛戦の指揮を取っているようです」


「真言派どもが不穏な動きを見せております。おそらくあちらの侵攻に合わせて決起する模様です」


 ジニアス=ハルバートの元には毎日ひっきりなしに情報が入ってくる。

 ……ワタシはキツい警備を掻い潜って彼の執務室の天井裏への潜入に成功していた。

 やっぱり、ね。……やっちゃいました! 

 どうやら彼は姐さんがいつも欲しがっているような情報を集めているみたいで、報告内容がかなり濃い。

 ワタシたち山猫みたいな組織を抱えていることは知っていたけど……。

 これは姐さんクラスの頭脳を持っていると考えてもいい。

 ……ヤるか?

 難しいだろうが、彼の首を落とせばこの戦争は戦わずして勝てるかもしれない。

 ワタシは彼が無防備になる瞬間を探し続けた。

 ……が、世の中そんなに甘いモノではなく、いつまで待ってもその機会が訪れることはなかった。



 潜入して数日後、いつもの様に天井裏に隠れていると珍しい客人が現れた。


「義兄上……」


 入ってきたのはユーノス王だ。

 人払いした後、二人でコソコソと会話を始めたのだが……。

 ワタシは不覚にも、その何ともいえない違和感に動揺してしまったのだ。

 王が質問してハルバートがそれを丁寧に説明しているのだが、姐さんがクロエさんに教えを乞うときとは全然違った。

 完全に上下関係そのものが逆転しているのだ。

 ……それ以前にこれは本物のユーノス王なのか?

 常に堂々と自信に満ち溢れているあの王とは全くの別人のように思える優しげな顔つきと穏やかな声。

 民衆から吊るしあげになっている将軍とその家族の身を案じる姿。

 傀儡……その言葉が頭に浮かんだ。

 そして何よりこのユーノス王の無警戒ぶり。

 完全にこの部屋は安全だと信じ切っているという感じだ。

 一応王とハルバートの人間関係は頭に入っているが、ここまで王が彼に依存しているとは思ってもいなかった。

 本当に驚くぐらいスキだらけだ。こんな機会はきっと二度と訪れない。

 ……今度こそヤるか?

 ワタシは少しだけ身体の重心を傾けた。

 だけど、それが命取りだったようだ。

 今まで潜入がバレなかったのは、部屋に人がいる間は身じろぎ一つしなかったからだ。

 その僅かな気配を感じたのか、ハルバートが頭を跳ね上げるようにこちらを見上げ、間髪入れず腰に携えていた剣をこちらに投げ飛ばしてきた。

 それが天井を突き破りワタシのすぐ近くに突き刺さる。

 ……ちくしょう、最悪だ!

 ワタシは慌てて退散した。


「追え!」


 ハルバートが近くにいた者たちに指示を出すのが聞こえた。

 


 ワタシは城内を必死で走り抜け、何とか裏山に逃げ込んだ。

 この城が山の中腹に建てられていたのが、せめてもの救いといえた。

 山はワタシの主戦場だ。

 すばやく木の上に登って周りに気をつける。

 しばらくすると、ワタシが敢えて残してきた痕跡を追って二人組がこちらに近付いてきた。

 彼らが二手に分かれる瞬間があれば、確実に一人ずつ仕留めることができそうだけど、不用意に動くとバレて援軍を呼ばれたりすると最悪だ。

 じっと息を潜めて彼らの動きを観察する。


 ……!! 

 ……うそっ!?

 

 突如、すぐ近くに新しい気配を感じた。

 本当にいきなりだった。

 でも、この気配の殺し方は多分……。

 ワタシは覚悟を決めて、先に拾っていた小石を適当な木の根元にぶつける。

 追ってきた二人はビクリと体を震わせると、そちらの方へと警戒しながらゆっくりと歩き始めた。

 一人目が下を通り過ぎ、二人目が通り過ぎようとした瞬間、頭上から飛び降り襲いかかる。

 落ちる力を短剣に込めて躊躇なく首筋に突き刺す。

 ……あっけないモノだ。

 彼は悲鳴一つ出すことなく地面に崩れ落ちた。

 しかしその僅かな物音に反応したもう一人が振り向いた。

 こちらを認め、首に下げた笛に手をかけようとしたそのとき、音もなく影が彼に襲いかかった。

 その瞬間、ワタシはふと姐さんの言葉を思い出した。

 いつだったか、酒を飲みながら二人っきりで話した時だ。

『……あの娘は才能あるよ』って。

 敢えて『何の才能っすか?』とは聞かなかったけど……。

 


「バカじゃん!」


 パールに思いっきり怒鳴られた。

 二人で貧民街に用意していたアジトに逃げ帰ってから、早速説教が始まった。


「……ホントごめん」


 ひたすら謝ることしかできない。


「アリス様にアイツだけには近づくなって言われてたじゃん。……ボクもちゃんと言ったよね?」


「言った。ちゃんと言ってた」


「……一応ボク、キミの上司だよね?」


「うん。上司、上司」


 ワタシの返事の仕方が不味かったのか、パールが少し半泣きになる。


「……マイカぁ……ねぇ、ボクのこと馬鹿にしてるでしょ?」


「……してないってば」


 可愛いなとは思っているけど。

 今も拗ねたように頬っぺたを膨らませている。


「……ホントごめん。でもさ、いい情報入ったからさ、許してよ」


「もぉ~。そんなのニセモノかもしれないじゃん!」


 パールが情けない声を出すと、その場でへたり込んだ。


「そんな感じじゃないって。アンタもあの場にいたから分かるでしょ。向こうだって本気で殺しに来てたし。……もし渡していい情報ならこの前のワタシたちみたいに、ちゃんと生きて帰そうとするじゃん」


 前回王都で姐さんのことを探っていたヤツらは、こちらの用意した情報を掴んで帰って行った。


「……それに手に入れた情報はこちらを騙すとかそんなんじゃないと思うけどね……」


 少し思わせぶりに言ってみる。


「……どんなの?」


 ちょっとだけ機嫌が直ったらしく、こちらを見上げながら聞いてくる。

 その上目づかいが、もう何とも言えない。


「明日にでも、落ち着いたらゆっくり話すよ……一杯奢ってくれるなら……」


 あまりに可愛くてまた遊びたくなる。


「バカ! さっき助けてもらってよくそんなこと言えるね! 信じられない!」


 やっぱり怒ってしまった。


「冗談だってば……」


 ……もうパールはホントに可愛いなぁ。

 姐さんがいつもするみたいに彼女の頭を撫でようとするも、彼女は不機嫌そうな顔でその手をペシリと叩き落とす。

 そんな仕草がまるで本物の猫みたいで少し笑ってしまった。

 ワタシの反応が気に障ったのか、彼女はプイっと目を逸らして「……バカ」と呟いた。

 ……うーん。ちょっと遊びすぎたかも。


 

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