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2周目は鬼畜プレイで  作者: わかやまみかん
5章 レジスタンス編
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第10話  トパーズ、少しだけ後ろ暗い思いをする。


 場所が変わり、所属が変わったところで、我々のすることはあまり変わらなかった。

 以前と同じように魔物討伐や反社会的な組織の排除のために西へ東へ。

 確かに移動は少し楽になったような気がする。

 毎回馬車や船はレジスタンス所有のものを使わせて貰っているので、その点に関しては快適さを感じる。

 それとは別に、私は個人的に空いている日だけ練兵の指導員として、素手での武術を兵士たちに教えていた。

 これは構わないのだ。……これは。

 だが何故か、夜警任務まで任されることになってしまったのはどういうことなのか。

 これは各人持ち回りで行っており、いろいろな地域から来た者の交流も兼ねているらしく、我々からも数日に一回は誰かを出して欲しいとケイトが『丁寧に』お願いしてきたのだ。

 ケイトは言い方は悪いが、可愛らしい顔に似合わず相当厄介な人間だと思う。

 本来なら気の乗らないような任務でも、上手く他のメンバーをその気にさせる凄腕交渉人だ。

 案の定、女に弱いクロードが二つ返事でそれを受けたのだが……。 

 夜警任務は女二人には無理がある。

 クロードも魔力を回復しなきゃとか何だと言ってあまり乗り気ではない。

 結局のところ私一択だ。

 それなら何故私に一つの相談もなく簡単に安請け合いするのだお前は!

 マインズの頃からまるで成長していないではないか!

 そう怒鳴ってやりたかったが、空気を悪くするのも良くないと思い、ここは年長者の私が苦言を呈するぐらいに留めておいた。

 夜警に出るため今夜も部屋を後にしたのだが、私が去った部屋で楽しげな笑い声が起きていた。

 ……もう、何とも言えない理不尽さに襲われる。 



 確かに夜警は色々な人間との交流の場だった。

 元からポルトグランデにいた者、余所から移ってきた者、我々のように冒険者をしていてスカウトされた者。

 彼らと様々な地域、勢力などの情報交換をしながら夜警任務に勤しむ。

 短い休憩時間になって、私は彼らと離れて石の階段に腰を下ろした。

 ……私は一体何をやっているのだか。

 思わず溜め息が洩れる。

 国を出て冒険者になり、マインズに流れて、今は帝国で一人夜警任務だ。

 下手なパーティに居ても、ここまで来ることはできなかったとは思うが、それでも何か釈然としない部分があった。


「……あれ? トパーズさんじゃない?」


 そんなことを考えているときに、通りの向こうから声が聞こえた。

 顔を上げると、アリスがこちらに手を振っているのが見えた。



「……何をしているの? 自主練習? 邪魔しちゃったかな?」


 アリスがこちらに渡ってくる。

 何をしているのかと言うのは、こちらのセリフだ。

 いくら治安のいい街とはいえ、こんな夜中に女性一人でふらふら歩くなんて危ないにも程がある。


「……夜警任務です。今は休憩時間で……」


「あぁ、そうなの? いつもご苦労様です」


 そう言って軽く頭を下げる。

 今夜はそういった動きの一つ一つに高貴な何かを感じてしまう。

 ケイトが彼女をアリス様と呼んでいたのが頭に残っていたからかもしれない。

 一体何者なのだろうか。


「……失礼しますね」


 アリスは笑顔で私の横に腰を落ち着けた。

 街灯の明るさのおかげで彼女の顔がよく見えた。

 武器屋や酒場の看板娘をしていたときとは違う、少し大人びた佇まいの彼女に心臓が高鳴る。

 パーティの二人と全然違う女性の魅力がそこにはあった。

 世間話の間、アリスを覗き見ると貴族の女性が着るような服を身に纏っていることに気付いた。

 それが凄くよく似合っていた。

 それに引き替え私といえば相変わらずの軽装だ。……それもところどころくたびれた感じの。

 ここで買える防具で動きの邪魔にならないようの物を選んだのだが、彼女の横にいるとみすぼらしいと言わざるを得ない。

 おまけに武器も無く、相変わらず素手だ。

 ……ただ、武器に関してはこちらでどうしようもない理由がある。

 話も丁度その話題に移った。

  

「……ちゃんとお金は貰っているのよね? もし待遇が悪いなら私が何とか言ってもいいのよ?」


 アリスは別の心配をしてくれたようだ。

 パーティでの収入はある。基本的に私の装備品は後回しだが……。

 それに一応練兵の方でも給金は頂いている。

 ……つまりお金が問題ではなく。


「そもそも拳装具を売っている店が無いですね……」


 結局それに尽きる。

 山岳国ではどこの店にもあったし、聖王国でも王都の大きな店にはあった。

 だけど帝国には無いのだ。

 この大都市ポルトグランデですら売っていない。

 任務先の武器屋も覗くが、やはり売っていない。


「……あぁ、なるほど。こちらには武道家が少ないからね……」


 アリスが納得したように頷くと、いきなり私の拳を撫でまわして何かを確かめるような仕草を見せた。

 ビックリした。物凄く緊張する。

 どうしたらいいものか……。

 私はじっと固まったまま、ただ時が過ぎるのを待っていた。


「……じゃあ、私が貴方の武器を用意してあげるわ」


「……え?」


 いきなりのことで訳が分からなかった。


「知り合いに腕のいい武器職人がいるの。早速作らせてこちらに送ってもらうわ。試作品だからお代はいらないし。……まぁ、使い心地の感想を聞かせてもらえると嬉しいかな」


 ……試作品?

 私が考えている間にアリスは立ち去っていった。

 何か言わなくてはと思っているうちに、アリスは通りの向こうの側で待機させていた誰かと合流してしまった。

 どこかで見たような人物のような気もするが、暗くてよく分からなかった。

 声を掛けそびれたなと考えていると、今度は後ろから声がした。



 気を抜いていた訳ではないが、ビックリした。

 声の方を向くと、ルビーが階段の上から私を見下ろしていた。


「……一人で退屈していない?」


 ……どうやらアリスのことは見られていなかったらしい。

 どこかでホッとしている自分がいた。

 ルビーは石段をトントンと降りてくる。


「……なんか眠れなくて、トパーズいるかなぁって思って来ちゃった。これ、お昼にケイトちゃんから貰ったお菓子ね。……全部食べられないから手伝ってよ」


 そう言って焼き菓子を差し出してきた。

 それを二人で黙々と食べる。

 せっかく様子を見に来てくれたのだから、何か話したほうがいいのだろうか。

 そう思うのだが、何を話せばいいのか全くわからない。

 そうしている間にお菓子が無くなってしまう。 


「……じゃあ帰るね」


 結局これといった会話をすることなく、ルビーは手を振り階段を駆け上がっていった。

 私もそれを黙って見送ることしかできなかった。

 そんな中、またしても後ろに気配。

 今夜は散々不意を突かれていたせいか、思わず反応して拳を出してしまった。

 ……マズい!

 慌てて腕と腰に力を入れ、何とかギリギリのところで止めることができた。

 本当に危なかった。

 そんな私が心の中で冷や汗を滝のように流しているのを知ってか知らずか、目の前の男は口元に笑みを湛え、微動だにせずに立っていた。



「……すみませんでした!」


 私は頭を下げて謝罪した。


「いやいや、賊かもしれないのに謝るなよ」


 彼は笑い声をあげるが、この雰囲気はどう考えても賊であるはずがない。

 改めて自己紹介をする。


「トパーズさんねぇ。……知ってるよ。相当腕が立つそうじゃないか。……オレはパックだ。まぁお偉いさんの用心棒のようなことをしている」


 用心棒か。確かに途轍もない力量を感じる。

 それこそ用心棒なんて職につくのが勿体ないほどの。

 ……片腕が義手で無ければの話だが。

 私の視線に気づいたのか、右腕を揺らして見せた。

 失礼な振る舞いだったのかもしれない。

 もう一度頭を下げた。

 パックはそれに応えるようにクスリと笑う。


「……それはそうとして、あの女見たところ相当アンタに惚れているな」


 どうやらルビーと一緒の所をずっと見ていたらしい。


「違いますよ。彼女は別の男のことが好きなんです」


 ルビーがクロードのことを好きなのは誰もが知っていることだ。

 だが肝心のクロードの態度と言えばルビーに対して煮え切らないどころか、今はサファイアのことを気にしているように見える。

 全く男の風上にも置けない最低な行為だ。

 もし断るのならば、きっちりと断るべきだ。

 そうじゃないとルビーが可哀想だし、サファイアもどうすればいいのか分からないだろうに。

 私のそんな考えもお構いなく、パックは続ける。


「いいや、違うね。俺のカンがそう言っている。……女心なんてな、すぐに移り変わるモンだ」


 果たしてそうだろうか?

 女の人に好きだと言われたことが無いからよく分からない。

 もし仮にまさかとは思うが、本当に彼の言う通りならば、あの時アリスと会っていたことを隠すべきではなかったかもしれない。


「俺のカンを信じろ。……っていっても俺自身はまだ独り身なんだけどな」


 そう自分でオチをつけて豪快に笑うパック。

 ……まぁ、なんと説得力のないことだ。

 私も一緒になって笑った。

 こんなに笑ったのは本当に久しぶりのことだった。




「……ただし、アリスは止めておいた方がいいな」


 笑いが収まった頃、少し真面目な顔でパックがそう言った。

 ……そこから見られていたとは。

 全く侮れない男だ。


「……彼女の事を知っているのですか?」


「あぁ、少なくともアンタよりはな」


 きっとこの男はレジスタンスの実情をよく知っているのだろう。

 これは私のカンでしかないが、おそらく正しいはずだ。

 そもそもアリスはケイトが様付けで呼び、執政官の部屋にも簡単に入れるほどの人間だ。

 

「それは高嶺の花だから無理をするなという助言ですか? それとも関わるべきではないという警告ですか?」

 

「……賢い人間はあまり長生きできねぇぞ」


 私が真顔で質問すると、パックは感心したかのような笑みを浮かべてはぐらかす。


「まぁ、ライバルは少ないに越したことはねぇからな。……と言っても信じちゃくれんか。だが取り敢えず今は前者だな。……ただ、アンタらがココで求心力を高めていくことになれば後者の要素も含まれてくるかも知れん」


 アリスがレジスタンスの人間ではないのは、すでにケイトから聞いている。

 あくまで取引相手だと。

 つまり、敵に回ることもありうる人間だから深く関わるなというパックなりの親切心のようなものだろうか。


「……彼女が何者なのか聞いてもいいですか?」


「本当はそれぐらい自分で調べろと言いたいところだが、アンタらが下手打った所為でアイツにヘソを曲げられたら洒落にならんからなぁ。……まぁ、詳しいことは話せないが、レジスタンスの幹部たちが丁重に扱っている客人といったところだ」


 彼もケイトと同じようなことを言う。

 どうやら下手に彼女のことを調べるのは危険なようだ。

 それも含めて、あまり近づくなということだろう。


「アイツは基本的にレジスタンスと別行動をとっている。さっきもこれからベジルで一仕事あるって言ってたしな」


「こんな夜中からですか?」


「そうみたいだな、まぁ何をするかは大体想像ついているが。……言っておくが、アイツの身の安全を心配するのは無意味だぞ。多分下手な冒険者じゃ太刀打ちできないからな。俺も暇つぶしで何度か手合わせしているから実力はわかっているつもりだ」


 お偉いさんの用心棒が組織にとっての最重要人物と手合せというのは……。

 挙句、幹部が客人扱いしているアリスをアイツ呼ばわりだ。

 パック自身もおそらく組織の中枢の人間だということは間違いなさそうだ。

 だが、それも探らない方が身のためだろう。

 賢い人間は長生きできないというのは先程パック本人が口にした言葉だ。


「……ちょっと付き合えよ」


 そういってパックが構えた。

 砕けた感じだが、全くスキがない。

 相当なモノだ。


「あと少しで休憩時間が終わるのですが……」


 そう言いながらも私はそれに付き合って構えるのだった。

 




これで5章が終了しました。次の6章で前半戦が終了する感じですね。

前半とはいえ一つの区切りですから、それなりに盛り上げていく展開をと思っているのですが……。

技術が伴わない(´;ω;`)。

取り敢えず、ラストスパートの予行演習みたいな感じでやってみます。

これからもどうぞよろしくお願いします。


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