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2周目は鬼畜プレイで  作者: わかやまみかん
5章 レジスタンス編
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第7話  ルビー、ノリノリでレジスタンス入りする。


 ポルトグランデは凄い!

 何がと聞かれても困る! 

 目の前に広がる綺麗に整備された通り。立ち並ぶ高い建物。

 その中にある賑やかな商店。

 雑多じゃなく、きっちりと区画が整理されている街並み。

 潮風の香る南国の雰囲気。

 とても親切な衛兵。

 ……全てが完璧。

 もうこの街に一目惚れだ。

 領都ガーランドも凄かったけど、それの規模を数倍大きくしたのがポルトグランデだ。

 アタシたちはそんな大都市に一歩踏み入れて、その場で茫然と立ち尽くしていた。

 圧倒されたといってもいい。

 そんなアタシたちの横を人々が通り過ぎていく。 

 ……取りあえず……どこに行く?

 田舎者のアタシたちは、ただ途方に暮れていた。

 以前、サファイアのことを少し田舎者だと思っていた時期もあったが、それが恥ずかしくなる程だ。

 ……アタシも立派な田舎者だった。

 みんなで顔を見合せて東西南北どちらに進むのかを迷い、最初の一歩すら踏み出せずにいた。

 ……いや北は今来た方向だからないか。

 そんな中、人込みの中から颯爽とこちらへと向かってくる女性が見えた。

 アタシたちに視線を合わせながら一直線に歩いてくる。

 近づいてくるとアタシと同じぐらいの歳だとわかった。

 ただ年齢以上の落ち着きと風格を感じさせる顔つきだ。

 彼女は目の前まで来ると、軽く微笑み優雅に一礼するのだった。



「皆様初めまして。ケイトと申します。……クロードさん、トパーズさん、ルビーさん、サファイアさんで間違いございませんか?」


 第一印象は『スキの無い女』だ。

 アタシたちはそれぞれ頷く。


「ゴールド卿から話を伺っております。案内致しますので私について来て頂けますか?」


 言いたいことだけ言うと彼女は回れ右をして、アタシたちに背を向けた。

 本当にスキのない動きだ。

 ……っていうかゴールド卿って……。


「「「「……だれ!?」」」」


 思わずみんなで声を揃えて突っ込んでしまった。


「……皆様をベジルで勧誘された方ですけど……」


 ケイトが怪訝そうな顔で振り返る。


「……もしかして、バトラーさんのこと?」


 クロードが尋ねるが、彼女は首を傾げるだけだ。

 みんなで代わる代わる彼がどんな風貌だったのか、どのように会ったのかそんなことを説明すると、ケイトは納得したように笑顔で頷いた。

 ……ちょっと可愛いかも。

 

「なるほど、そのようなことを。……まぁあの方なりの稚気でしょうから、年寄り孝行だと思って付き合ってあげて下さいな。……それと、私が名前を明かしてしまったことは、どうぞご内密に」


 そう言って彼女は茶目っ気たっぷりに片目を瞑った。 

 

 

「ここが商業区です。食事や買い物はここで……」


「ここが居住区です。マール教大神殿もあります。それ以外はあまり皆様には関係ないかと……」


「ここからが行政区になります。面倒な手続き等は基本的に私たちが行いますのでご心配なく……」


「あちらに進むと港湾区ですね。定期便を使うときは……」


 先導しながら簡単に説明してくれているのは嬉しいけど、初めてこの街に足を踏み入れたアタシたちにはさっぱりだ。

 そんなこと急にたくさん説明されても、全然頭に入ってこない。

 ケイトもそのことは分かっていたのか、笑顔でこちらを振り返る。

 バトラーさんのことを話してから、彼女の雰囲気が少し砕けたものになったような気がする。


「これから皆様の本拠地になるわけですし、気長に覚えていってください」


 ……本拠地ねぇ。

 アタシはまだ入るとは決めてないんだけど。

 でもこの街に住めるのかぁ。

 それだけで心が動きそうだ。


「こちらが行政府です。私も余程のことがない限りここにいます」


 本当に大きな建物だった。

 見上げる程高い。

 聖王国の王宮よりも立派な建物だ。

 どうやったらこんな大きなもの建てられるのだろう。

 横を見るとサファイアが大きな口を開けて見上げていた。

 ……恥ずかしいから口を閉じなさいってば。

 お上りさん丸出しだ。

 気が付くとケイトが少し離れたところでこちらを見ていた。

 ……連れだと思われたくなかったのかもしれない。

 彼女に促されて、正面玄関ではなく別の入口を目指す。

 大きな建物とぐるりと回ると、もう一つ門が見えてきた。

 ここには正面の入口にはいなかった衛兵が四人も立っていた。


「私は普段からここを使っています。皆様もできるだけここから出入りするようにして下さい」


 そういって彼女は衛兵に頭を下げて門を通った。

 そんなケイトに衛兵が直立不動で敬礼する。

 アタシたちも彼女の後をついて歩いたが、衛兵たちは彼女が目の前を通り過ぎるとすぐにその敬礼はやめてしまった。

 それどころか、アタシたちをまるで不審人物を見るかのような目で睨みつけてくる。

 しかしケイトはそんな彼らの振る舞いに全く気付かず、建物の中に入って行ってしまった。

 ……もしかしてケイトって偉い人なの?

 っていうかアタシたちは歓迎されてなかったりするの?


 

「まず皆様にどうしてもお会いしたいと申す者がおりますので、お時間を頂きます」


 建物に入るとケイトは真っ直ぐ最上階を目指した。

 その間も数人の役人らしき人物とすれ違ったが、皆が明らかに年下の彼女に礼をして通り過ぎていく。

 そして後ろのアタシたちを変なモノを見るような目で睨みつける。

 例によって先を歩くケイトはそれに気付かない。

 そんな感じでちょっとイヤな思いをしながら案内されたのは執政官の部屋だった。

 執政官と言えば、帝国本領で領主の代わりに政治を行う人のことだ。

 確か以前お世話になった宿屋のティナさんがそんなことを言っていた。

 このポルトグランデのような途轍もなく大きな街を含むこの地域一帯を任される執政官ならば、ロゼッティアの領主ホルスさんよりも格上なのは間違いない。

 そんな執政官の部屋を躊躇いなくノックをするケイト。

 中から返事らしき声が聞こえると、彼女は「失礼します」と無造作に部屋に入って行った。

 アタシたちも心の準備をする間もないまま、彼女に続いて入室することに。

 ……もう正直、聖王様との謁見に緊張していたのが馬鹿らしいくらいだ。


 

 部屋には装飾品の類が一切なく、謁見の間というよりグレンさんの執務室に近かった。

 正面の事務机に両肘をついてこちらを目を向けているのは、格好いい落ち着いた感じのオジサマだった。

 アタシたちは一列に並んで頭を下げ、それぞれ自己紹介をする。

 彼はそれを黙って聞きながら大きく頷いた。


「こちらこそよろしく。テオドール=ターナーだ。ここの執政官を務めている。私がこの様なことを口にしてはいけないことは重々承知しているが、それでも言わせて欲しい……皆には期待している」


 深みのある声だった。

 険しい表情を崩すことはなかったが、それでも歓迎してくれていることは十分すぎる程に伝わった。

 正直この建物の雰囲気からアタシたちは場違いなのかもと感じていたが、他ならぬ執政官である彼が歓迎の意思を示してくれたことで救われた気がする。


「……それでは失礼します」


 後ろに控えていたケイトがそっけない態度でそれだけ言うと、再びドアを開けた。

 ……えっ? コレだけ?

 もっと何かあるんじゃないの?

 そう思ってテオドールさんを見ると、彼も少し苦笑いをしていた。

 だけど別にケイトを咎めるような感じではない。

 アタシたちも仕方なく彼女について部屋を後にしようと足を出口に向ける。


「……ルビーさん、サファイアさん」


 不意にテオードールさんに呼び止められた。

 しかも『さん』付けで。……優しい声で。

 逆に緊張する。

 ケイトも不審そうな顔で振り向いた。


「この子には同年代の友達が少ないんだ。もしよければ、話し相手にでもなってくれると嬉しい」


「パパ!? そういうの、やめてってば! ……恥ずかしいから!」 


 そう言い残すと、ケイトはさっさと部屋を出てしまった。

 相変わらず苦笑いのテオドールさんに一礼してアタシたちも部屋を後にした。

 ……なるほど、ケイトは執政官の娘だったのか。

 色々な疑問が氷解した瞬間だった。

 


 今度は同じ階の広い部屋に案内された。

 執政官の部屋よりも立派だ。

 大きな円卓を囲むように椅子が置かれている。

 五人だけで使うには勿体無さすぎる。


「それでは、この部屋で説明させて頂きます。……どうぞお好きな所へお掛けください」


 彼女は先程よりも少しばかり厳しい顔をしている。

 これから真剣な話が始まるのか、それとも単にさっきの照れ隠しなのか……。

 アタシたちが所在無さげに固まって着席すると、違う女性が飲み物持ってくる。

 配り終わるとその女性は一礼してすぐに立ち去った。

 

「さて、説明の前に、一つだけ重要な注意事項を……」


 そして咳払いを一つ。


「父がレジスタンスの指導者の一人であることは最早公然の秘密になっていますが、あくまで表ではこの地域の執政官です。ですからできるだけ父との接触避けて頂きたく思います。そもそも執政官が軽々しく冒険者に会うのはあまり好ましいことだと言えませんから……」


「……じゃあ何で会わせたんだ?」


 クロードが尋ねる。

 ケイトは彼を見つめて頷いた。


「それは父が皆様に期待を寄せているからです。どうしても一声かけたいと申したので今回は特例です。普段はよほどの用事がないと会えないですし、古参の同志の中でもまだ父と会ったことのない人間がたくさんいるのだということを認識して頂ければ助かります」


 そうなのか。それは中々名誉なことだ。

 ちょっと嬉しいし、得した気分だ。

 みんなも納得したのか大きく頷いていた。


「基本的に皆様とやり取りをするのは私か部下になると思います。どうかご了承下さい」


 ……なるほど。

 それにしても『部下』と来たか。

 きっと先程の女性もそうなのだろう。

 まぁ考えてみれば、執政官といえば、領主と並ぶ存在だ。

 その娘ならば、一国の王女と同じくらいの格があると考えてもいいかもしれない。

 ケイトの印象は高貴というより、若いながらも凄腕の女役人という感じだけど。


「皆様に期待しているのは父だけではありません。我らの『リーダー』も同様に期待しておられます。そもそも皆様を我らの同志として招くよう指示なさったのは彼本人だったと覚えておいてください」


 それは正直びっくりだ。

 アタシたちはいつの間にそんな人物の目に留まるようになったのだろうか?


「……その方は、我々と面識のある方ですか?」


 今度はアタシが質問する。


「いえ、ありません。皆様の前に現れる予定は今のところないと思います」


 即答での断言。

 ということはバトラーさんでは無いということだ。

 あの人も組織の中枢にいるんだろうけど。



「皆様には四人部屋を用意致します。商業区にある冒険者用宿舎です。名目上は登録して審査を受け、それに通過した優良なギルド所属の冒険者のみ利用可能な宿舎となっておりますが。……実際は我々の同志の為の施設として運営しております」


 やることの規模が大きい。


「この街にいる間はそこを利用して頂きます。もちろんお代は頂きません。食事は宿舎を出ればあちこちに店がありますのでそちらでお願いします。……突発的にお仕事をお願いすることもありますので、街を離れる際は必ず宿舎の職員か私に申し出て下さい」


「……仕事とは?」


 トパーズが口を挟んだ。

 そう。……結局のところそれだ。

 なし崩しに参加することになってしまった印象だが、望まれる仕事によってはここを去らなければいけない。

 ケイトは頷くと、グラスに口をつけ喉を潤してから続けた。


「……そうですね、皆様のような方々に対しては、基本的に同盟地域もしくはこれからそうなる地域の領主並びに執政官のために動いて頂くことになるかと」


 抽象的すぎる!

 アタシの心の中のツッコミが届いたのか、こちらを見てケイトが微笑む。


「具体的には、その地域で活発に動いている敵対組織の殲滅、魔物の駆除といったところでしょうか。また領内で内乱が起きた際はこちらに味方してくれる陣営に肩入れして戦争することも想定しておいてください。……あと、作戦が大規模の場合は他のチームと組むこともあります」


 思っていたより結構大きい仕事だ。

 でも、ちょっと面白そうかも。


「……皆様のような実力のある方々に手紙を届けろだの、あれを取って来いだの、そんな小さい仕事を要求することはありえません。それなりの重要な任務を果して頂きます。……当然大きい仕事にはリスクが伴いますから、それに相応しい額の報酬を用意しております」


 悪い話ではないでしょうと言いたげに、不敵な笑みを浮かべるケイト。

 ……確かに。

 みんなで顔を見合わせる。

 なんか楽しくなってきた。



 それから色々な手続きやら、注意事項やらの説明を受けてアタシたちは部屋を後にした。

 最後に部屋を出たケイトが鍵を閉める。

 突然、先に出ていたサファイアが廊下の向こう側を指差した。


「あれ! ……アリスちゃん?」


 そちらを見るとアリスが一瞬の躊躇いもなくテオドールさんの部屋へ入るところだった。


「……今のってアリスちゃんですよね?」


 サファイアがケイトに尋ねる。

 ちらりとケイトを見ると顔を歪めていた。

 初めて見る表情だ。

 この子もこんな顔するんだ……。


「そうですね。……確かにアリス様ですね……」


 ケイトは一瞬の沈黙の後、絞り出すような声で答えてくれた。

 ……アリス……様?

 仮にも帝国本領執政官の令嬢が、街の看板娘であるアリスちゃんに対して様付けするのは違和感があった。


「……アリス……ちゃんって、何者なんですか?」


 少し声を潜めてアタシが尋ねる。


「……えっとですね。まぁ、我々の客人というか、取引相手というか……。できれば本人から聞いて頂ければ……あぁ、でも、やっぱり接触は避けてもらった方がいいのかなぁ……?」


 今までどんな質問でも澱みなく答えていたケイトらしからぬ歯切れの悪さだ。

 もはや歪みを通り越して苦悶の表情だ。


「まぁ、あの方のことも、いつか……そのときに……」


 ケイトがこれ以上聞いてくれるなという雰囲気を出した。

 ……まぁ正直、アリスちゃんには何かあると思っていたけどね。

 みんなもやはり同じように思っていたのか、アタシたちは顔を見合せて頷いた。



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