主神マール、クロードに期待する。
クロードは我の考える可能性の一つだ。
自らを正しいと信じ、真っ直ぐ進む。
不正を憎み理不尽を憎む。
そういった心を持つよう作られたのがクロードだ。
彼は神たる我を人間の器で作ることを目的として生み出された存在だ。
我に近い考えを持ち、我が下すような判断ができる。
いわば我の分身だ。
ヒトとしての高みを目指して作られたメイスなどとは格が違うというものだ。
メイスは所詮、人間としての優良種に過ぎない。
クロードの存在は今後を占うであろう試金石とも言えるだろう。
しかしながら、またもや計算外なことが起きた。
それはクロードが領主ホルスに対して嫌悪感を抱いてしまったことだ。
元々クロードを生み出す際、王という存在を嫌うよう設計していた。
そして王の中の王である帝国皇帝に対しては並々ならぬ憎しみを抱くように。
そうでなければ物語が始まらないからだ。
各地の王と馴れあってもらっては困るのだ。
王や貴族に愛想を尽かし、帝国へと旅立たせる。
その旅で同じく皇帝を憎むレジスタンスと合流し易くするためにも不可欠の要素だ。
だからある意味この設計も、我が授けたプレゼントの一つだと言える。
だが、領主ホルスは別だ。
彼は勇者の後ろ盾となる人物として配置していた。
今後の展開でホルスは一つの重要なカギとなる。
そんな彼を落したのは正直なところ痛い。
もちろんこれらは全てメイスの姦計によるものではあるが、だからこそ痛恨の極みだといえる。
彼奴はホルスの重要性を知っていたから、このような手を打ったのだろう。
わずか数手で領主に恩を売り、勇者たるクロードには領主に対する反感を植え付けることに成功した。
彼奴を侮っていたわけではないが、完全にしてやられたようだ。
恐らく、早めにレジスタンスと連携を取ったのも何か理由があるはずである。
ただ、メイスは本当に我の敵なのかという疑問もある。
確かに彼奴は我を裏切った。
これは紛れもない事実である。
しかしそれを敵対行為と取るかは別の話なのだ。
このゲームの勝利条件は『魔王の討伐』である。
つまり『我の敵』とは、すなわち『魔王を倒さんとする者を阻む存在』である。
ところが、今のところメイスが取っている行動はそれには当たらないのだ。
敢えて領主ホルスの一件は横に置いておくとして、ではあるが。
むしろ勇者の手助けをするべく存在しているレジスタンスと手を組んでいるので、考えようによっては味方だとさえ言えるのだ。
クロードたちにも冒険者としてのアドバイスをしていた。
無論これから、レジスタンスや勇者一行と対立する可能性もあるが……。
メイスが敵か味方かを見極めるのは、それからでも遅くはないと考えられる。
当然、彼奴の動きは警戒せねばなるまい。
……まったく、何も出来ぬこの身が歯がゆい限りだ。
そもそもメイスは一体何がしたいのか?
見当もつかぬ。
水の公国を盗ったかと思えば、今度は聖王国を滅ぼした。
さらに今は山岳国と事を構えようとしている。
それが終われば、次は帝国ということなのか?
あまりにも気の長い話ではないか。
あの聡明と言えたメイスらしくもない。
全く持って不可解だ。
最後にもう一つ。
これはまだ何とも言えないのだが、今までに無かったことが起きた。
……それは『彼女』が持ち場を離れたことだ。
メイスのように勇者が早々に役目を放棄するのも初めてだが、道を外す勇者そのものは存在した。
だが『彼女』が本来の役目を放り出して、別の行動を取ったことは今まで一度たりともなかったことだ。
今回は本当に先が全く読めない。
やはり今はクロードがこのまま真っ直ぐ成長し、我の声を聞く器になるのを待つのみなのか。
幸いにも帝国へ入国後すぐに修道院を訪ね、タニアを通じて我と出逢えた。
このお陰で、彼への最後にして最大のプレゼントを早い時期に与えることができたのだ。
それはもちろん、我への厚い信仰による『多幸感』だ。
別に何か力が強くなる、レベルが上がり易くなるといったことはない。
神殿や教会に立ち寄ると、我を近くに感じられ、みるみる心が澄んでいく。
ただそれだけのことだ。
だが我を崇める人間の身において、これは何よりの贈り物であろう。
元々クロードはマール教、厳密には我と相性がいい。
これからは我の教義が彼の勇者としての行動を支えるに違いない。
またそれが魔王討伐への道を切り開くこととなる。
彼は感じるままに、迷いなく信じる道を進めば良いのだ。
クロードの未来に幸多からんことを。
ちょいちょい以前投稿分の改稿をしていますが、ストーリーに関するものは一切ありません。
誤字脱字の修正、不要な接続詞などの除去などです。
勢いで書いて投稿しているので、後で見返すと「なんじゃこりゃ!」と思うことがあちこちに。
それを修正している次第です。
まぁ改稿したにも関わらず「なんじゃこりゃ!」というツッコミを入れたい方々がおられるでしょうが、できればそこは『これはコイツの味だな』みたいな感じで笑って頂ければ幸いです。