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2周目は鬼畜プレイで  作者: わかやまみかん
4章 補領ロゼッティア編
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第7話  クロード、酒場でアリスを見つける。

 

 領都ガーランドに近づいてきた頃、風景に異変を感じた。

 都の方角に一面の壁がある……ような感じだ。

 近付くにつれ、どうやら高い塀がぐるりと四方を囲んでいるのだとわかった。

 ……これが領都か。

 全てがケタ違いだ。

 さすがかつて王国の都だっただけはある。

 街に入るための大きな門では、厳しい目つきの門兵が行き交う人々に目を光らせていた。

 彼らに小さく頭を下げて門を抜ける。

 そこに広がるのは別世界だった。

 清潔で背の高い建物が立ち並んでいた。

 そして大通りを行く、きらびやかな服を着た住民たち。

 彼らに声を掛ける威勢のいい店員、そしてたくさんの商店が立ち並ぶ。

 遊んでいるのだろうか、人波の間を笑顔ですり抜けて走る子供たち。

 宿屋のティナが言っていたことがよくわかった。

 確かに領都ガーランドはこの地域に住む人間の自慢だろう。

 元とはいえいまだに自分たちの王が住む都、ここは彼らの精神的支柱にちがいない。

 一瞬でそう思わせるぐらい圧倒させられた。

 帝国というのはこんな立派な都を持つ国を倒すことができるぐらい強大なのか?

 ……そりゃその気になれば、聖王国なんて簡単に滅ぼせるよな。

 きっと祖国でもある聖王国が滅んでも何の感慨もなかったのは、東方3国のどこが何をしようが、最終的に帝国を相手にすれば勝ち目なんて無いと心の何処かで分かっていたからだろう。

 


 街案内の地図を見ながら、僕たちは例によって神殿へと向かう。

 賑やかな通りを抜けて、閑静なそれでいて立派な邸宅が立ち並ぶ区画に神殿は建っていた。

 決して一緒に入ろうとしない仲間たちを外に残して僕一人で神殿に入る。

 中にいた神官に頭を下げて、巨大で美しいマール神像に跪いた。

 ……あぁ、幸せを感じる。

 心がどんどん穏やかになっていく。

 正しい道を歩むための力が満ちてくるようだ。

 仲間に感じているわだかまりのようなものも、ほんの少しだけではあるが無くなってきたようにも思う。

 ……こんなに安らぎを覚えるなんて。

 いつまでもこの神殿にいられたら、とさえ思える。

 修道女タニアの話を聴いたとき、何か心の奥底に響いてくるものを感じた。

 気が付いたときには、マール様に祈りを捧げずにはいられない自分がいたのだ。

 きっとマール教と出会えたのは運命に違いない。

 もうマール様の加護のない東方3国には戻りたくはない。



 名残惜しいが、そんなに長い時間仲間を待たせるわけにもいかず、神殿を後にした。

 まずは冒険者としては当然のごとく、ギルドへ顔出しだ。

 賑やかな下町にある大きな建物に入る。

 そしてカウンターで偉いさんに軽く挨拶する。

 

「あぁ、あっちのギルドでは結構頑張ってくれたんだってな。こっちでも頼むわ」


 あちらの街でお金稼ぎがてら仕事をこなしているうちに、ちょっとは名前売れたのか?

 何か冒険者として勲章みたいで嬉しい。

 人の良さそうなギルドマスターと少しだけ世間話。

 ……のつもりだったのだが、話好きらしく中々帰してくれない。

 せっかくなのでおすすめの宿屋と飯屋を聞いておいた。



 ギルドマスターから聞いた宿には食堂がなかったので、荷物だけ置いて早速彼おすすめの酒場に直行した。

 人気店らしく、まだピーク時間帯までは少し時間があるのにもう混雑していた。

 奥を覗いてまだちらほらと空席はありそうだな、……と思った瞬間、視界に入ってきたモノに驚いた。

 仲間もみんな驚いていた。


「あの子って、……マインズの……」


 ルビーが指差す。

 そうだ! 武器屋で働いていた娘だ!


「あれぇ!? 勇者さまだ!」


 向こうもこちらに気づいたらしく、運んでいる最中のジョッキでこちらを指した。

 少し酒が零れたようで「キャッ!」と悲鳴を上げる。

 ちょっと『勇者さま』って……。さすがに恥ずかしいからやめて欲しい。

 ……まぁ、僕のことを覚えていてくれたのは嬉しいけど。



 給仕用のエプロンドレスを着た彼女が僕たちを空いている席に案内してくれた。


「さっきは大きい声出してごめんね」


 そう言って小さく舌を出す。

 ……その仕草が似合っていて可愛らしい。


「今日からここで働くことになったの」


 席に着いた僕たちにメニュー表を渡すと、高めのお酒の欄をチョイチョイと指差した。

 

「ねぇねぇ、みんな高いお酒頼んでよ。そうしたら私の給料上がるからさ……」


「……ウチはそんな怪しい店じゃないぞ」


 彼女がそう言うや否や奥から店主らしき親父さんのツッコミが入る。

 それを聞いて笑う他の客一同。

 あからさまに肩を落とす彼女に余所のテーブルから声がかかる。


「そんながっかりするなって、アリス! 俺が一本入れてやるよ」


「ありがとー」


 すぐにその客の方を振り向き笑顔を見せる。


「いやお前ただ飲みたいだけだろう?」


「いやいやアリスちゃんの為なら、多少無理してでもな」


 そんな風に他の冒険者と軽妙なやりとりを見せる。

 今日から働いたという割にはもう人気者のような感じだ。

 そういやマインズの酒場でも、武器屋の看板娘の話はよく出ていたような気がする。

 あの頃は全然余裕がなかったから、そういう話は聞かないようにしていたけれど。

 ……そうか、アリスって名前なのか。

 やっぱり名前も可愛いな。

 ルビーやサファイアと違った魅力があるというか。

 華がある、という言葉が一番似合う気がする。



 アリスは給仕をしながらも、こちらのテーブルの近くまで来るとよく話しかけてきた。


「これってもしかして、魔装具?」


「うん。そうだよ」 


 アリスが言っているのはルビーが手首に付けているブレスレットだ。

 彼女も自慢のアクセサリーだけあって機嫌よさそうに見せた。 

 びっくりするほど高かったヤツだ。

 こんな輪っかが何で俺の盾より高い?


「魔力が増えるヤツだよね。魔法使いはやっぱり武器や防具よりも魔装具を充実させないとね」


「……アリスちゃんもそう思う?」


「もちろん。剣も防具も壊れたら終わりだから。……最終的に頼りになるのは魔法使いの火力だからね」


「うんうん」


 ルビーが大きく頷く。


「……高いけどね」「……そうだね」


「でもそれを疎かにしたら、それこそね……」


「大変だよね……」


 ルビーは自分の理解者が現れたことを喜んでいた。

 なるほと。確かに魔力の管理も重要だな。

 覚えておこう。

 

 

「このリボンかわいいね」


 今度はサファイアがアリスに声を掛けていた。

 アリスのリボンに興味があるのかサファイアが撫でていた。

 アリスも撫でやすいように頭を傾げる。

 その仕草もなんかイイ。

 

「実はこれも魔装具だったりするんだよ。素早さが少しだけ増えるんだ」


「えっ!? こんなにかわいいのに?」


「……よかったらこれあげるよ」


 そういってサファイアの髪を束ねていた安い紐をほどき、自分のリボンで束ねてあげるアリス。


「……いいよ。悪いよ」


 困った感じのサファイアだが、少し嬉しそうな顔をしている。

 普段はあまり意識していないけれど、やっぱり彼女も女の子なんだなって思った。


「実は私これの色違い持ってるんだ。いま洗濯して干してるけどね。それにこれって家のタンスに押し込まれてあったヤツを適当に持ってきただけだから気にしないで」


「……ホントにいいの?」


「だからいいって言ってるじゃん」


「ありがと……」


 サファイアが本当にうれしそうに笑った。

 それにしても決して安くはないものをただの顔なじみに簡単に譲れるというのは……、もしかしたら彼女はお店で働いているものの、それ程お金には困っていないのかもしれないな。 


 

 いつも寡黙なトパーズにもアリスは積極的に話しかけていた。


「すごい筋肉だね。さすが体一つで戦うにはこれぐらい胸板が厚くないとダメだよね」


 トパーズもまんざらじゃない感じだ。

 何をデレデレしているんだか。


「大分と混雑してきたが、我々も早めに勘定を済ませたほうがいいのかな?」


「ううん、全然心配しないで。この街にはたくさんお店があるから、満席ならみんな余所にいくし」


「そうか……」


「うん。だからゆっくりしていってね。あとでみんなとお話したいから。……あの後のマインズの話とかも」


 あぁそれは少し興味ある。

 彼女の言葉に甘えてもう少しだけこのお店を楽しむことにした。



 少し疲れたような顔のアリスがこちらにやってきて、僕の横に座った。

 何だかちょっとだけ緊張する。


「店も余裕出てきたし、いいよね?」


 そして改めて自己紹介しあった。

 他の客から呼ばれていたように彼女はアリスという名前らしい。

 気ままにいろんな街を旅しているという。


「……いつマインズを出たの?」


「みんながマインズを出てすぐぐらいかな。……王都に行って、ミュゼに行って、それから船で帝国にきたの……あぁ、洞窟の魔物倒してくれてありがとね」


 お礼をしなきゃと言ってワインを一本出してくれた。

 もちろん給金から引かれるそうだ。

 少しだけマケてと半泣きのフリをして親父さんに縋る芝居がまたかわいい。

 親父さんも「仕方ねぇな」といって引き下がった。

 確かあのゴードン様の剣のときも大将にそんなこと言っていたな。

 きっと彼女の得意技なのだろう。

 僕たちの空いたグラスに彼女が注いで回った。

 

「いいのに。お礼ならちゃんと町長さんや王国から貰っているから」


「いいのいいの。気にしない」


 アリスは全く気にも留めない。

 ……やっぱりお金がほしくて働いている感じじゃないな。

 それからみんなで酒を飲みながら、マインズの後日談を聞いた。

 どうやら、マインズへは新しい女王によって無事物資が運び込まれたらしい。

 結局聖王は何もしなかったのか……。

 あれからいろいろあったようだから仕方ないか……。

 それから彼女の口から元聖王国がどんな感じになったのか聞いた。


「あぁ、そういや町長さんで思い出したんだけど……」


 そういって彼女は僕たちに顔を寄せる。

 みんなもそれに合わせて乗り出した。

 なぜか内緒話するときはいつもこんな感じになるな。

 そんなことを考える。

 ……アリスからいい匂いがする。

 ルビーもサファイアも清潔にしているとは思うが、そこはやはり冒険者。

 どうしても汗や血の臭いがするのだ。

 それに引き替えアリスからは何か香水のような、いい匂いがする。

 そのあたりも彼女の魅力だろうな。


「……さっき冒険者のオジサンに聞いた話だけどね」


 領主ホルスの娘が病気らしいとアリスは切り出した。

 領主のお抱えのお医者さんでもダメらしい。

 どうやら何か特別な薬草が必要だとか何とか。

 

「ギルドへはまだ依頼は出ていないって。領主はそういった組織に弱みを握らせたくないものかもしれないけど。……でも命に関わるかもしれないしね。まだ旅の目的が決まっていないなら、そういった人助けもいいと思うよ」


 ……人助け。それがしたかったのだ。

 聖騎士として。誰かを守る者として。


「明日、早速領主屋敷に行ってみるよ」


 僕たちは彼女に背中を押されて、この話を聞きに行くことにした。

 誰かの役に立てるかもしれない。

 それだけで僕が動く意味になる。

 その為に僕は帝国へ来たんだ。





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