表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2周目は鬼畜プレイで  作者: わかやまみかん
3章 山岳国編
31/131

第9話  サファイア、クロードの愚痴に付き合う。

 

 帰りも馬車での旅だった。

 ものすごく楽ちん。快適そのもの。

 やっぱり貴族様の力はすごいなと感心した。

 聖王祭というのはもう終わってしまったらしく、王都には山岳国へ向かう前のような熱気は感じられなかった。

 一度ぐらいはお祭りというのを体験してみたかったが、残念ながら今回は仕事だったので仕方がない。

 すでに落ち着いた雰囲気の街並みの中、馬車は石畳の大通りをガタゴトと進んでいった。

 そんな馬車を笑顔で指差す子供たち。

 どんな貴族が乗っているのかと話をしているのだろうか。

 そんな彼らに心の中で優雅に手を振る私を乗せて、馬車は王宮を目指していた。



 私たちが今回通されたのは謁見の間ではなく、前にも案内されたグレンさんの執務室だった。

 クロードは少しがっかりしていたけど、私はこの部屋だって素敵だと思う。

 上品でいかにも仕事が出来る大人の部屋という感じがして落ち着く。

 そんなことを考えているうちに、クロードとルビーが報告を続けていた。


「……いや、本当に助かった。君たちの働きには陛下はもちろんのこと皆も心より感謝している」


「それは何よりですわ」


 グレンさんに対してルビーが優雅に受け答えしている。

 こういう場でも全く動じない彼女の姿を見ると、やっぱり貴族の娘なんだなって思い知らされる。

 そもそも私なんかと佇まいが全然違うのだ。

 冒険者でありながら、グレンさんよりも堂々としている彼女が誇らしくもあり妬ましくもあり。


「この親書は早速上に回すように手配させていただく。……私としてもこれで、肩の荷が下りた気分だ」


 グレンさんが今まで見せなかった穏やかな笑顔で、この件が彼にどれだけの重圧を与えていたのかを想像させた。表情で、身体全体で感謝を表していた。

 ――主にルビーに対してだけど。

 私たち全員で頑張ったのだけどなぁ。



 ルビーとグレンさんは親書を渡した後も話を続けていた。

 話の筋がわからない私たち三人は置いてけぼりで、それを黙って聞いているしかなかった。

 親書はルビーの伯父様に渡されることになるらしい。

 どうやら彼は外交関係の責任者らしく、勅使外交官として山岳国へ向かうのも彼になるだろうと。

 あちらで和平交渉が行われるとなると、裁量権の大きい上の人間が行かなければならないらしい。 

 それを聞いたルビーが難しい顔で黙り込んだ。


「心配いらないよ。あの方ならきっと何とかして下さる」


 そういうグレンさんの言葉も耳に入っていないように感じた。



 私たちがグレンさんの部屋を出る時に、彼自身が認定冒険者の書状を一人一人に渡してくれた。 

 これで国境を自由に行き来できるようになったのだ。

 帝国領ギルドでもこれを見せれば、多少は動き易くなるはず。

 書状を手にして気が引き締まる思いだ。

 さらに予想していたよりもはるかに多額の報奨金も頂けることに。

 その布袋の重さに私たちの達成した仕事の大きさを改めて実感することができた。

 いろいろあったけど、私たちはツイている。

 本当にそう思えた。


 

 例によって夕飯はいつもの酒場で頂くことになった。

 そしてやっぱりルビーも例によって実家に帰るという。

 伯父様に任務の報告とか、感謝の挨拶などがあるからと言って、一緒に御飯すら食べないで行ってしまった。

 食事も向こうでするらしい。

 ……いいなぁ、貴族の食事。

 どんなのが出るんだろう。

 うらやましいなぁ。

 トパーズも疲れたから先に戻ると言い残して、食べ終わると早々に宿屋へと戻って行った。

 本当は祝杯がてらみんなで美味しくご飯を食べたかったのだけど……。

 と、言うわけで今夜はクロードと二人っきりだ。

 それはそれで嬉しいんだけど。

 ……どうしよう。何を話そう。

 男の人と二人っきりだなんて生まれて初めての状況に私の胸は今までにない程大きい音を立てていた。



 クロードは自分に緊張を強いていた二人が居なくなったことで気が抜けたのか、何やら愚痴を漏らし始めた。

 ……これは完全に酔っぱらっている。

 いつも私を守ってくれているクロードの珍しい姿に、私はドキドキしてしまう。

 

「――僕が聖騎士として厳しい修行に耐えて来られたのは、みんなの力になりたいという夢があったからなんだ」


 クロードが悲しそうに呟いた。


「……もっとみんなを守る役目を担いたい。それなのに、この東方3国でやってきたと言えば何だよ? 偉い人に上から命令されて、あっちに行け、今度はこっちだ、なんて。……僕はそんなことのために冒険者になった訳じゃない」


 クロードはテーブルに頬杖を付きながら、上目づかいの寂しげな顔で私を見つめてくる。

 私も同じように頬杖を付き、彼を見つめ返す。

 ――いいよ。全部吐いちゃえばいい。

 私がちゃんと聞いてあげるから。

 クロードの心に寄り添って慰めることだけが今の私に出来ることだ。



「――こっちの国では無理だったけど、帝国領に入ったらギルドでの仕事を積極的に引き受けたい」


「うん、そうだね」


「困っている人々のために、地に足を着けて任務をこなしていきたい。……聖騎士として、冒険者として」


 クロードはあの頃の私だ。

 新しいセカイに夢を見て、一刻でも早くあの国を出ていきたかったあの頃の私。

 自分の力を試す機会すら失われるがイヤだった。

 クロードのように『誰かの為に』なんて素敵なことは考えられなかったけれど。

 でも、だからこそ彼の気持ちがわかる。

 そして彼が言ってほしい言葉も――。 


「うん、いっぱい人助けしようね。……あぁ、きっと帝国には私たちの知らないことがたくさんあるんだろうね。私もすごく楽しみだなぁ」


 彼の望む通りの言葉を発した私に彼は満足そうに頷き、まだ見ぬ帝国へと夢を膨らませていった。 

 熱く語るクロードとそんな彼に寄り添い耳を傾けている私は、周りからはどんな風に見えているのだろうか。

 そんなことを考えながら、私はさらに身体を寄せるようにして彼を見つめていた。

 私の熱い視線に耳を赤くして、はにかむ彼の姿にこみ上げてくる想いがある。

 あぁ、今夜のクロードは本当に可愛い。

 願わくば、今夜の私も彼の目に可愛く映っていますように。



 ついにクロードが沈んだ。 

 可愛い寝顔だ。

 普段は年下には見えない彼も、今は年相応に見える。

 震える指でそっと彼のきれいな肌に触ってみる。……あったかい。

 まつげも長いなぁ。

 本当に物語の中の王子様みたいだ。

 閉店まで少し時間があるから、もうちょっとだけ寝かせてあげよう。

 私は彼の寝顔を眺めながら残ったお酒を飲むことにした。



 クロードが荒れていたのは、他にも理由があることを知っている。

 トパーズやルビーとの関係が上手くいっていないせいだ。

 一応、事情は分かっているつもりだ。

 状況を考えるとあの二人の方が正しいのだろうとは思う。

 だけど、トパーズにだって非はある。

 年長者としてもう少し言い方ってモノがあるんじゃないだろうか?

 あんな言い方じゃ、クロードも謝る取っ掛かりさえ掴めない。

 確かにクロードにはまだまだ甘いところがある。

 周りが見えていないこともある。

 だけど少しずつ成長していることも認めてあげないと。

 トパーズはクロードに厳しすぎるのだ。

 これではリーダーとして、矢面に立って頑張っているクロードが余りにも可哀想だ。

 ルビーの態度にしたって、よくないと思う。

 最近ずっとクロードを避けているのだ。それも露骨に。

 マインズにいたころはいつもクロードについて回って話をしていたのに、最近は必要なことしか話さない。

 おまけに当てつけと言わんばかりに、トパーズと仲良くしている。

 クロードからすれば、自分の味方だと信じていた彼女に裏切られたとしか思えないだろう。

 反省を促しているつもりかもしれないけど、そんなの逆効果に決まっている。

 


 ――でも考え方によっては、これは私に巡ってきた絶好の機会なのかもしれない。

 今、本当の意味でクロードの近くにいるのは私だ。

 元々私には二人の間を引き裂いてまでクロードをどうこうしたいという気持ちはなかった。

 でも、今はあの頃と事情が違う。

 今なら大丈夫かもしれない。

 ルビーの目がトパーズの方に向いている今なら――。

 もしかしたら、彼女とは上手くやっていけるのではないか。

 お互いがお互いの恋を応援できるいい関係を築けるのかもしれない。

 クロードの寝顔をじっと見つめながら、ずっとそんな考えを巡らせていた。


 

 翌日装備を整えると、早速王都を出発した。

 その後も私たちは順調に行程をこなしていった。

 そろそろ帝国領との国境に近付いたかと思う頃、慌ただしく王都方向へ走っていく兵士たちと何度かすれ違うようになった。

 将官を乗せた馬車も凄い勢いで街道を駆け抜けていく。

 そんな光景を見ながら、みんなと顔を見合わせた。

 何かあったのだろうか?

 大変なことが起こってなければいいけど。

 まぁ、帝国に向かう私たちにはもう関係のない話だケド。 

 私とクロードにとって苦い思い出しかない東方3国には、もう興味はない。

 すでに過去の話だ。

 私たちは未来へ進む。

 そう思いながら一歩一歩帝国領に近づいて行った。

 輝かしい未来があることを信じて。

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ