○○△△△、メイスの裏切りに激怒する。
勇者とは魔王を倒す為だけに生み出された存在であり、魔王を倒すことの出来る唯一無二の存在である。
これがこの世界の真理そのものである。
しかし多くの勇者は魔王の前に立つこともなく土に還る。
もしくは、背負わされたモノの大きさに絶望し、途中で冒険を止めてしまう。
自らの正義を見失い、勇者としての資格を失ってしまう者もいる。
道を違わず勇者としての使命に従い、魔王と戦うところまで辿り着くことが出来たとしても、その戦いに勝てるかどうかはまた別の問題だ。
最近、どうにも上手く行かないと悩み、少しアプローチ方法を変えなければと思案していたときに現れたのがメイスだった。
そしてそのような我の悩みなど、全て吹き飛ばしてくれたのだ。
メイスは極めて優秀な存在だった。
迷わず勇者としての正しい道を選び取り、周りの期待を集めることに成功した。
絶え間なく修練を続け、着実に力を付けていった。
他の勇者のように挫折を味わうこともなく、何かに葛藤する訳でもなかった。
いつも笑みを絶やさず、挫けそうな仲間を激励していた。
希望を失いそうな人々の心に寄り添い、セカイを照らし続けた。
これまでのどの勇者よりも早く、我の声を受け止める器となった。
そして大した苦労もなく、あっさりと魔王を倒してしまったのだ。
彼は間違いなく我の最高傑作だった。
そんなメイスが2周目に挑戦する意思を示したとき、我は狂喜したといっても過言ではなかった。
ただでさえ2周目勇者の勝率は跳ね上がる。
それを彼が挑戦するならば、もう確実に勝てる。
さすが、我が目をかけてやっただけのことはある、と。
心の底からそう思っていた。
だが、その喜びも一瞬だった。
2周目が始まった途端、メイスはあっさりと勇者としての道から外れたのだ。
盗みを働き、子供を見捨てた。
明らかに自らの意思で勇者としての役割を放棄したのだ。
今までに、こんな動きをした者など存在しなかった。
何故、彼がその道を選んだのかは、未だにわからない。
確実に言えることは、彼奴は我に弓を引いたということだけだった。
仕方なく、我は新しい勇者を用意しなければいけなくなった。
それがクロードだ。
彼は我が以前考えていた、新しいアプローチによって生み出された勇者だ。
全く予想できないこの世界こそ、彼のようなタイプが実力を発揮するのかもしれない。
そんな願望と共に彼の投入を決意した。
勇者と元勇者が同時存在する状況は初めてなので、いいデータが取れると開き直っていただけかもしれない。
クロードには期待を込めて、プレゼントをいくつか用意した。
その一つがルビーだ。
彼女の存在は、序盤の彼を正しい道に進ませるために重要な役割を果たしてくれるはずだ。
さらに貴族との繋がりで金銭的余裕、手段の豊富さをもたらすことが出来るだろう。
それを生かせるかどうかはクロード次第だが。
とは言え、我にできることは、所詮その程度のことだ。
物語が始まってしまえば、あとは彼が早く勇者としての名を挙げ、我の声を聞くことが出来るようになるのを待つしかない。
それまでは如何なる介入も許されない。
それがこのゲームのルールなのだ。
クロードには是非頑張ってもらいたいものだ。
そして願わくば、メイスに死ぬよりも辛い地獄の苦しみを与えてもらいたい。
それが我の切なる願いだ。