表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/131

   勝利者マール、感慨深げに盤を眺める。


 紆余曲折があったが、結果として魔王は勇者クロード一行によって倒された。

 つまり我の勝ちだ。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 過程はどうであれ、このセカイは結果こそが全てだ。 

 生きて盤上に残ることが出来た駒、死ぬことで盤上から追い出された駒。

 皆それなりによく頑張ってくれたと思う。



 我としても今回のゲームは色々と勉強になった。

 開始早々にして2周目勇者メイスによるまさかの裏切り。

 いきなり見たこともない局面が現れてしまった。

 そこから彼奴の暗躍が始まる。

 最初は好き勝手にする為の国を(ほっ)していたのかと思っていたが、発言力を得る為の手段としてなのだと判明した。

 次々に国を飲み込んでいき、その都度高まっていく発言力。

 ついには帝国をも手玉に取り、本当にセカイを手に入れてしまう。

 彼奴のその圧倒的な手腕には何度も驚かされた。

 ――だが、それすらも副産物でしかなかったのだ。

 隠された()()()()()は自身の手を汚さず宝具を手に入れること。

 全てはその為だった。

 その為だけに彼奴は策謀に策謀を張り巡らせ、ついに本懐を遂げたのだ。

 それのみならず、我の立場をも理解するに至った。

 ……一介の駒風情が、だ。

 やはりメイスは真に恐ろしい存在だった。



 今回のゲームの中で我は常に彼奴の後塵(こうじん)を拝していた。

 最後にはクロードと一緒になって馬鹿にされた。

 だが、我は自らの足らぬことを認められないほど狭量ではないつもりだ。

 マールは足らぬを知る者。

 これでも自らを全知全能と誇張する輩よりは幾分マシだと思っている。

 足らぬなら足せばよい。

 自らの無知から目を背けることだけは絶対にするまい。

 それが我の我たる所以。

 無知で結構。未熟で結構。

 それならば学べば良いだけの話だ。


 

 それでも我はこのセカイの神なのだ。

 我は()()が致命傷を避けて生き延びていたことを知っていた。

 その上であの二人に悟られないよう、じっと動かず死んだふりをしていたことも知っていた。

 流れ続ける血が少しずつ彼女の体力を奪い取っていったことも知っていた。

 だから我は魔王城を早めに崩し始め、二人をあの場から追い出したのだ。

 彼女は二人がいなくなったのを確認してからゆっくりと身体を起こすと、妹の手から零れ落ちていた霊薬(エリクサー)を一気に飲み干した。

 もちろん我はそれも見ていた。

 狩人の本能で崩れゆく魔王城の抜け道を探しだし、無事聖域まで辿り着いたのも見ていた。

 鬼の形相で彼奴の居場所まで駆けてゆく様も、我はつぶさに見ていた。

 彼女の意図を察した我は、その時間稼ぎの為だけにわざわざルールを破ってまで彼奴に話しかけたのだ。

 破ったとはいえ、勝負がついた後の話。

 この程度のコトは許容範囲内だろう。

 この先彼らがどのような結末を迎えるのか、もはや我ですら分からない。


 

 古今東西様々な盤遊戯があるが、勝負が着いた後も駒たちが盤上で埃を被るまで放置されることはあり得ない。

 当然次のゲームに備えるために、新しく並べ直される。

 決着した『セカイ』は必ず、新しい『セカイ』を始める為に作り変えられる。

 それが(ことわり)

 ()()()()()()()()()()()。 

 まもなくこのセカイも取り壊されることになるだろう。

 ――他ならぬ我の手によって。

 だが折角なので、しばしの余韻を楽しむ程度の時間は残しておくことにした。




次話で完結します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ