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2周目は鬼畜プレイで  作者: わかやまみかん
2章 水の公国編
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第2話  アリス、野盗一味を叩き伏せる。


 さて今頃、勇者御一行サマは聖水を求めて王都を発った頃だろうか。

 オレはそんなことを考えながら、再び歩き出した。

 水の公国に入って一昼夜。

 ドーティと別れてから、早3日。

 適当に民家の軒下で仮眠をとった後、朝日を浴びながら目的地に向けて進んだ。

 体力の回復自体は〈賢者の石〉で十分なのだが、さすがに睡眠だけは摂らないと頭が回らない。

 この2周目で望みの生き方をするためには、頭が回らないという状況が一番キツいのだ。

 

 

 ようやく寝起き状態から覚め、回転し始めたデキのいい頭でこれからのことを再確認する。

 ――2周目の今だからこそ思うのだ。聖王国は脆弱であると。

 自分たちは帝国に併合されていない独立国である、というのが最後のプライドなのだろうが、そもそも帝国はそんなことを望んではいない。

 併合してしまえば聖王国民は全て帝国民となる。

 そして帝国民はそれなりの生活水準で生きる権利を有すると、帝国法で定められている。

 しかし帝国にはわざわざ併合してまで聖王国から得たいモノなどない。

 ゆえに帝国は併合しない。

 実に分かり易い証明問題だ。

 むしろ聖王国の知識人の方が、早く帝国に併合してもらえるよう裏から働きかけているぐらいだ。

 現在の状況でも、従属国である聖王国はすでに帝国から搾取され続けている。

 今更、失うものは何もない。

 失うのは国名と聖王の称号だけだ。

 そんなことも分からない人間が政治を行っているのが聖王国だ。

 

 

 そしてそんな価値のない聖王国を盟主として、辛うじて国の体裁をとっているのが水の公国だ。

 もはや、このセカイにおいて存在価値など全くない。

 いわば、この大陸の底辺だ。

 だが勇者一行はそんな国を、わざわざ訪れなければならないのだ。

 公国から聖水を貰い受ける為、ただそれだけの為に。

 しかもタダでは貰えないのだ。対価を要求されるのだ。

 労働だ。こんな僻地に来てまで。

 

『野盗一味を退治せよ』


 これがその要求だ。

 野盗一味ですら自前で処理できない国家なんて早々に滅びてしまえ!

 この宮殿を守っている兵士共は飾りか?

 前回はその言葉をなんとか飲み込み、粛々と野盗退治を実行したものだ。

 だが今回は、その彼ら一味を利用させてもらうことにする。

 これからの展開を考えて、使える駒を増やすために。

 さて、どのように持ちかければ上手くこちらに引き込めるものだろうか。

 オレは頭の中で模擬会談しながら、ヤツらのアジトへと向かった。

 

 

 彼らの根城としている古い屋敷に辿り着いたのはまだ昼のことだった。

 太陽がギラギラと照らしている。

 そんな白昼堂々、オレは不用心にも開いたまま窓から屋敷に侵入した。

 そして警戒感の欠片もない彼らを片っ端からひれ伏せていった。

 これも二回目だから屋敷の間取りも何となく覚えている。

 ある者は当て身で、ある者は後ろからマヒナイフで一突き。

 昼夜問わず単身で戦い続け、レベルを上げたオレを止められるヤツはいなかった。

 ましてや今は隠密行動をとっている。

 その状況で先制を喰らえば、反撃する間もなく床に転がされていくのは必然だった。

 部屋にある宝箱には目もくれず、まずは配下全員を捻じ伏せていった。

 殺しはしない。

 ……殺してしまっては意味がないから。

 あっという間に一階は全て片付いた。残すは二階。

 奥の間にボスと配下がいる。

 


 オレは彼らがいるハズの扉を思いっきり蹴り飛ばして部屋に飛び込んだ。

 いきなりの轟音に慌てふためく野盗たち。

 そして訳もわからないまま、ヤツらは俺を敵と定めて襲い掛かってきた。

 ――もちろんそんな彼らを叩き伏せるのに時間はかからなかった。


「……誰だ、テメェ」


 男が床の上で芋虫のようにのた打ち回りながらオレに尋ねてくる。

 先程の戦いで一番反応が早かったヤツだ。


「――できれば、私に襲いかかってくる前にそれを聞いて欲しかったわ」


「…………」


 沈黙する一同。

 オレは咳払いして早速説得を開始することにした。


「……アリスよ。……まず、私は貴方たち全員叩き伏せたけれど、誰一人殺していないわ。もちろん一階にいるお仲間さんもね」


「……それは、ありがたい」


 例の男が答えた。


「貴方がここのボスなのね? ……名前は?」


「ブラウンだ。……一応ここにいる人間の面倒を見ている」


「……そう? 時間がないから簡単に話すけれど……この屋敷は近いうちに襲撃を受けるわ」


 ブラウンは一瞬の沈黙の後、オレに対して申し訳なさそうに伏し目がちに告げてくる。


「……今のこれは、襲撃じゃ……ないのか?」


「違うわ、……これは挨拶よ。私は貴方たちと話し合いにきたの。少し乱暴な訪ね方だったのは謝るわ。でもこれはちゃんと耳を傾けて貰う為に仕方なくなの。判ってもらえるわよね」


 出来るだけ人懐っこい笑みを見せて対応する。

 交渉の基本だ。……笑顔で、愛想よく。


「……お、おう。そうか」


 それなのにも関わらずブラウンの表情が引き攣った。

 もしかしたら女の子に慣れていないのかもしれない。

 むさい男の集団を束ねるような男だ。その可能性は十分あった。

 この際男好きか女好きかはどうでもいい。

 オレは話に戻った。


「……で、さっきの話の続きだけれど。フォート公がこの地に用事があってやってきた冒険者を雇ってここを襲撃させるわ。このままだと貴方たち全員殺されて終わりね。……だって私一人相手でもこの体たらくなんだから」


「……どうすればいい?」


 どこか覚悟の決めたような静かな声でブラウンが聞いてきた。


「まず、私に忠誠を誓いなさい。誓えないなら……冒険者は屋敷に転がる死体を発見するだけの話よ。きっと手間が省けて喜んでくれるわ」


「……誓う。誓うから、どうか助けてほしい。俺の命まで助けろとまでは言わん。……せめて、ここにいるヤツらは……」


「それが、ボスとしての矜持というやつかしら? ……野盗のくせに」


「何とでも言うがいい。確かに俺たちは最低のクズの集まりだが、人を辞めたつもりはない」


 ……あぁ、そうじゃないと困る。

 どうしようもない人間だったら仲間に要らない。

 まぁ、気に入った。合格だ。

 十分駒として使えるだろう。

 

「……ご立派は演説につきあう時間はないの。さっさと動いてさえくれればそれでいいわ」


 オレはここに来る前から頭の中で考えていたことを伝える。


「まず、ここにあるめぼしい宝、貴重品を持ち出す準備をしなさい。空になった宝箱の中には、適当な回復薬や使わなくなった装備品でも入れておけばいいわ」


 金目の物を勇者御一行サマにくれてやる必要はない。


「あと、口の巧い人間と年少の者、それと高齢の者もいればいうことないわね。……彼らを用意してボスとその側近のふりをさせなさい。……残りの人間は全員ここから逃げること。彼らの命が惜しいわ」


 自由に動ける人間は多いに越したことはない。


「……さすがに、たったそれだけというのは少なくないか?」


 ブラウンが懸念を伝えてくる。

 その通りだが、それについては考えてある。


「人間の替わりに一階にはモンスターを放てば大丈夫よ」


「……簡単に言ってくれるが、魔物を飼いならすには時間が――」


 そういい募るブラウンにナイフを突き付ける。


「おぅわっ!」


 彼は焦った声を上げて飛び退いた。……中々面白い動きだった。

 彼の反応に満足した俺は、続いて鞄から白い液体の入った瓶も取り出した。


「このナイフは私の特別製なの。……これをこうして……はい」


 ドーティの店で溝を掘ったナイフを瓶に突っ込み掻きまわして絡ませる。

 これで即席マヒナイフの完成だ。

 ナイフを引っ張り上げると、粘り気のある液体が刃からぼとりぼとりと床に滴り落ちた。


「これは山蜘蛛のマヒ毒よ。このナイフをその辺りでうろついているモンスターに一刺しすればたちまち動けなくなるはずだわ。実際の効果の程は刺された一階にいるお仲間に聞いて頂戴」


 所詮マヒ毒だから死にはしないだろう。

 丈夫そうな人間にしか刺していないし。

 ふと見るとブラウンの表情から完全に血の気が引いていた。

 ……何? もしかしてずっとオレを怖がっていたのか?

 こんな可愛いオレを?

 失礼なヤツだ!


「……それらをここの一階で転がしておけばそのうち動き回れるようになるわ。多少動きが鈍くなるかもしれないけれど、……たぶん大丈夫よ。どうせ襲撃は数日後の夜だから。……賊のアジトに白昼堂々襲撃するような馬鹿なんていないわ」


 オレの何気ない言葉に一瞬口を開きかけたブラウンだったが、納得してくれたのだろう。

 差し出したナイフ三本と毒瓶を恐々受け取った。




「ここに残す予定の仲間は……見殺しにするのか?」


 ブラウンが少し沈んだような声で聞いてきた。

 中々仲間想いな人間のようだ。

 少しだけだが彼の評価を上方修正する。


「それは残った者次第でしょうね。……冒険者との交渉さえ上手くいけば、殺されずに宮殿の牢屋で繋がれるだけで済むはずよ。そうすれば、()()()()助けられる」


「だから、口の巧いものか……了解した。ならば、年少と高齢の者には何か意味があるのか」


「同情を誘えるでしょ。生きるために仕方なくって言えば、お優しい勇者サマは命までは取らないわ、きっと」


「……なるほど。で、その間、俺たちはどうすればいいのだ?」


「貴方以外の人間は山の中で待機。……但し連絡の取れる状態でいること」


 ブラウンが頷くが、ハッとしたように目を見開いてオレの方を見つめる。


「……俺はどうするんだ?」


「貴方の故郷に案内してちょうだい」


 ――さぁ、ここからが正念場だ。

 ここで躓くようなら2周目の計画全てを練り直さないといけなくなる。

 オレは深呼吸して気合いを入れ直した。


 

 

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