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2周目は鬼畜プレイで  作者: わかやまみかん
2章 水の公国編
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第1話  女魔法使いルビー、王都の思考回路を再確認する。


 洞窟を踏破した翌日もアタシたちは王都を目指し、歩みを緩めることはなかった。

 一刻も早くマインズのことを知らせたいというクロードのアツい想いがそうさせたのだ。

 強行軍だったこともあり、昼過ぎには王都に到着することが出来たが、息を抜くこともなく食事や宿の手配も全部後回しにしてまずは王宮を目指した。

 


 クロードは学生の頃からアツい男だった。

 整った顔と正義感の塊のような誠実さで、一番注目されていた男子生徒だった。

 アタシ以外にもクロードのことが好きだった女子は多かったと思う。

 でもそんな女子たちもあの日を境にいなくなった。

 モンスターに襲われてこの世を去った子もいれば、戦うことを恐れて逃げ出した子もいた。

 ――でもアタシは死ななかったし、逃げもしなかった。

 クロードは絶対に生きている。

 そう信じていた。

 彼ならギルドで冒険者になる道を選ぶだろうと考えて、アタシも迷わずギルドの門を叩いた。

 そしてアタシの予想通り、彼はギルドに現れた。

 ……ううん、予想以上だった。

 すでに彼は町長の孫を助けたことで、町の人から勇者と呼ばれていたから。

 アタシなんか自分を守るだけで精一杯だったのに。

 クロードはやっぱり凄い。心の底からそう思える。

 そして今、アタシはそんな彼を支えているのだ。……一番近くで。

 


 王宮を訪ねたアタシたちを不審者を見るような目つきので睨みつける門番に、クロードは洞窟のモンスターを退治したことを報告した。

 しばらく待たされた後で、ようやく王宮に入ることが許された。

 だけどアタシたちが向かうのは謁見の間ではなく、とある役人の執務室。


「王にマインズのことを伝えたい」


 そんなクロードの意思は完全に無視された。

 

「……どこの誰とも分からない冒険者が王に会える訳がないだろう? 少しは常識で考えろ」


 とは案内役の兵士の弁だ。

 かなりの高圧的な態度にクロードは不機嫌そうに黙り込んだ。

 だけどこれが冒険者を取り巻く現実なのだ。

 横を見れば武道家のトパーズは平然とした表情でそれを受け止めていた。

 彼は初めから王に会えるとは思っていなかったようだ。

 その辺りはやっぱり大人だなぁ、と妙に感心してしまった。

 

 

 通された部屋はそこそこ立派な執務室だった。

 しばらく待てとの兵士のぶっきらぼうな命令にアタシたちは無言のまま従う。

 相当長い時間待たされた後、やっとのことで入室してきたのは壮年の役人らしき貴族だった。

 そこそこ立派なソファに腰掛けると、彼は無表情のまま硬貨の入った袋を机の上に放り投げた。

 

「……洞窟の魔物の駆除、御苦労。……これはその礼だ。受け取れ」


 あまりの対応にパーティ全員の表情が歪んだ。

 それでもクロードは深呼吸して、まず役人に頭を下げた。


「ありがたく頂きます。……実はマインズの町長、アンドリュー様から伝言を承っております。現在マインズでは――」


「いや。それはいい」


 マインズの説明しようとするクロードの言葉を、彼はあっさりと遮った。


「マインズのことならば、もうすでに承知だ」


「でしたら――」


「それを決めるのは私ではなく陛下だ」


「それなら――」


「くどい!」


 何とか食い下がろうとするクロードを役人が一喝して黙らせた。



 アタシたちは全く歓迎されていないのだ。

 門番や案内の兵士からも拒絶されていたし。

 実はアタシ自身、王都の人間だから分からないでもない。

 結局のところアタシたちは厄介事を持ち込んできただけの邪魔者なのだ。

 ――援助物資? そんな余裕なんてこの国には無い。

 聖王国なんて大層な名で呼ばれているけれど、所詮は西の超大国である帝国の従属国だ。

 王国のちっぽけなプライドを守るために、裏では帝国に頭を下げまくっているのが現状だ。

 国庫も帝国からの厳しい徴収でカツカツだ。 

 ――人員の要求? ただでさえ不安定な山岳国との国境を詰めるので精一杯なのだ。

 弱みを見せないよう、兵士たちは国境付近に多めに配属させている。

 そもそも現時点で安全が確保されているマインズに割く人員があるなら、冒険者養成学校で行方不明になった生徒の捜索を、という声の方が多く上がるはず。

 アタシも含め王都出身の生徒が沢山在籍していたし、中には貴族の子女もいただろう。


 

 結局のところ、臭いものには蓋ということだ。

 洞窟のモンスター、これ幸いと南方は無視を決め込んだのだ。

 むしろモンスターの王都侵入を防ぐ為に洞窟埋めてやろうか、という勢いだったのかもしれない。

 そんな中、ご丁寧に洞窟を掃除してきたアタシたち。

 ――歓迎される訳がない。



 そんな王宮の考えなんて、知ろう筈もないクロードが怒りに震えていた。

 彼にだって託されたモノがあったのだ。

 それを伝える為に一刻も早くと洞窟攻略に挑戦したのだ。

 クロードだって馬鹿じゃない。

 今のアタシたちがトパーズやサファイアの足手纏いだってことぐらい百も承知だ。

 トパーズの溜め息に一番敏感になっていたのはクロードだ。

 ずっと見てきたからわかる。

 それでも、クロードは託された想いに応えようと必死だったのだ。



 ……だったら、アタシが何とかするしかないじゃない。

 アタシは覚悟を決めて姿勢を正して、深呼吸をした。

 

「……無理を言って申し訳ありません。グレン=バーンズ様」


「……ん? 君は?」


 役人――グレンさんがこちらを睨みつけてきた。

 冒険者ごときが何故自分の名前を知っているのか、と言わんばかりの怪訝な視線だ。


「……申し遅れました。ワタクシはキャンベル家のルビーと申します」


 家名を聞いて彼は目を見開いた。


「……キャンベル、か? 上級政務官をされているケンタロス=キャンベル様の縁者か?」


「……はい。ケニー伯父様は父の兄でございます。以前伯父様主催のパーティのとき、バーンズ様にはご挨拶させて頂きました。冒険者学校に入る前ですからもう二、三年も前になりますから、お忘れでも仕方ありませんね?」


 まさか貴族の、それも上級貴族の姪が冒険者一行に混ざっているなんて、考えもしなかっただろう。

 アタシ自身は上級貴族と言っても傍系だが、それでも今のクロードの役には立つ。

 明らかにグレンさんの態度が変わるのを感じた。

 

「そうか……不躾な対応、失礼した」

 

「いえ、ワタクシもキャンベルの人間としてバーンズ様のお立場を理解しているつもりですわ」


 ここは彼の顔を立てておくに越したことはないだろう。


「……そういって頂けると助かる」


「ただ、マインズから託されたものがある、こちらの気持ちも理解して頂けると……」


 だけど、それでも伝えるべきことは伝えなければいけない。


「……それは我々も十分理解しているつもりだ」


「では、マインズのことをどうかよろしくお願い致します」


「……わかった。悪いようにはしない。……安心してくれ」


 これが限界だろう。

 今の言葉を引き出せれば十分だ。

 アタシたちは所詮冒険者であって政治に関われる身分ではないのだ。



 話を終えて立ち去ろうとするアタシたちをグレンさんが呼び止めた。

 しかし彼は少し迷ったような表情のまま口を開かない。

 そして溜め息を一つ吐くと、彼はクロードではなくアタシの方に話しかけてきた。

 

「キャンベル家の娘、君に一つ頼みたいことがある。……水の公国へ聖水を受け取りに行ってもらえるだろうか?」


 単刀直入だった。

 ――なるほど、これは相当切羽詰まっていると見た。

 こんな大事な仕事を、たかが冒険者に頼むとは。

 少しでも事情を知るアタシだからこそ、なのだろうけれど。

 まぁ国費補助を受けた養成学校に通っていた人間としては、これぐらいの義理は果たすべきか……。

 アタシの表情に理解の色を認めたのか、グレンさんは頷いた。

 

「……そういう訳だからよろしく頼む。褒美は出す」


 頭を下げるグレンさんに中間管理職の悲哀を感じる。

 それならばとこちらも一歩踏み込んで要求を告げることにした。


「……今回の任務、無事に果たせたら、聖王様に謁見させて頂けますか」


 これがクロードの最初の望みだ。

 グレンさんには悪いが譲るつもりはない。


「……わかった。話を通してみよう」



 

 王宮を後にしたアタシたちは随分と遅くなったが、無事宿屋を取ることが出来た。

 昼ごはんも抜いていたので空きっ腹を抱えたまま、荷物を下ろすとアタシのお気に入りのお店に直行した。

 晩御飯を食べながら、アタシは勝手に依頼を受けたことを謝り、王都の事情を説明した。

 聖王国は魔法使いの国だ。

 初代聖王が優秀な魔法使いだったこともあり、その流れを受けて王侯貴族はほぼ全員魔法使いだ。

 そしてあまり知られていないことだが、魔法使いには魔法を使うということとは別に、輝石の中に自らの記憶を留め置くという特殊能力がある。

 何か大事なものを発見したときに強く念じれば、目に映ったものが勝手に記録される便利な能力だ。

 

「――ちなみにアタシの輝石コレね」


 アタシは胸元にあるペンダントを取り出して、みんなに見せた。 

 

「この輝石を聖水の中に沈めたら、取り込まれた映像が水面に浮かぶようになっているの」


 みんなはアタシの黙って聞いてくれていた。

 

「それでね、今から約二か月後ぐらいに聖王祭というのがあるんだ。基本的にみんなでさわぐおまつりなんだけど、本当は初代聖王の遺した輝石に眠る記憶を観賞するという大事な儀式なの。……もちろんそれを見ることができるのは一部の王族貴族だけなんだけどね。それでも毎年結構な人数になるの」


 アタシも何回か参加している。

 年によって鑑賞する記憶は違うけれど、それでも昔の人を見るのはそれだけで楽しいものだった。


「たくさんの人間で見るためにはそれなりの量の聖水がいるわけ。……でもその年に一度の大事な儀式に使うための聖水を取りに行けないほど、現在の聖王国は人手が不足しているの。……つまりそれだけ恩を売ることが出来る、と」


「……だからこの仕事を無事こなせば、僕たちは聖王様に謁見できる、と言うことか?」


 クロードの問いかけにアタシは力強く頷いた。



 一応頷いたものの、正直なところ謁見できるかどうかまでは分からなかった。

 グレンさんが約束を破るとかそんなことを心配しているのではない。

 ただあの人に()()()()()()()()()()()があるのかがわからなかったのだ。 

 ――仕方ない。……実家を通してみるか。 

 ただ露骨に干渉するとグレンさんのメンツを潰しかねないから、気をつけないと。 

 貴族は口が軽いから。……アタシも含めて。

 ここは父親だけに今回の件を伝えよう。

 そしてさり気無い根回しをお願いする。

 父と伯父様なら、上手く話を運んでくれると思う。

 アタシが口添えしたことを必要以上の人間が知っているのは避けたい。

 ――たとえそれが仲間であっても。

 

「今晩、アタシは実家に泊まることにするわ。……家族にも無事を知らせたいし」


 結局詳しいことは何も語らず、アタシは里帰りをすることみんなに告げた。






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