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2周目は鬼畜プレイで  作者: わかやまみかん
11章 新たなる秩序編
119/131

第10話  ロレント、アリスの本音を察する。

 

 このセカイに新しい秩序が生まれつつあった。

 この大陸に生きる全ての者がすでにアリスを新たな主として認識していた。

 その流れを作る大きな要因となったのが宰相ニールの女王国恭順だろう。

 彼は魔王復活という最悪の状況に直面すると、緊急時に二人も指導者は必要ないと即座に女王の下についた。

 このような事態を想定してバリスタ等を準備していたことも凄かったが、セカイの為に何の躊躇いもなく()の部分を捨て去ったのだ。

 ――あの日まで帝国を率いていた男が、だ。

 そんな彼の姿を目の当たりにした帝都の役人や軍人たちも、彼に倣ってアリスの下で働く道を選んだ。

 帝都がある程度落ち着けば、彼は俺たちに後事を託すと、今度はイーギスに向かい妹クロエの下について寝る間を惜しんで後方支援を行った。

 そんな彼の献身もあってセカイは最悪の事態を回避したのだ。

 表に出ることはないが、ニール=アンダーソンこそ本物の英雄だと思った。 

 俺がその話を向けると彼は笑顔で首を振るのだ。


「……結局私は女王に従う方が楽だと判断したのだよ。本当に自分が恥ずかしい。私はもう、どこかで諦めていたのだろうな。――どれだけ頑張っても報われる日は来ないと。……だけど彼女は違った。動機は功名心から来るものだが、それでも彼女は最後の最後まで絶対に手を抜かなかった。その結果が今の安定なのだよ。……彼女自身の力はもちろんだが、何より国力が助けになっている。自らの野心の為とはいえ、あのどうしようもない東方3国をよくこの水準まで引き上げたものだ」


 そう言うと、子供の頃を思い出させる懐かしい苦笑を見せた。



 アリスはあからさまな仮病から復活を果たすと、それを待っていたかのように一気に体制が整いだした。

 彼女はもう遠慮なんてしなかった。

 号令を一つ出すと、女王国は満を持して巨大な帝国を飲み込み始めたのだ。

 帝国の人間も誰一人としてそれに抵抗しようとは思わなかった。

 そして先日、帝国最後の宰相であるテオドールが式典を開き、水の女王国アリシア女王陛下に帝国における全権を委譲する旨を国民の前で宣言するに至った。

 帝国千年の歴史はここに幕を閉じ、この国は万雷の拍手の中、円満に女王であるアリスの所有物(モノ)となった。

 彼女の悲願が成された瞬間だった。



 新しく生まれ変わった女王国の中で、もう一人遠慮をすることが無くなった人間がいた。――クロエだ。

 元々アリスが伏している間ずっと代理として動いていたのだが、彼女が復活してからも最側近として辣腕を振い続けた。

 最初は彼女の立ち位置や能力に疑問や不満を持っていた者もいたが、今となってはその声もない。

 逆に彼女が()()メルティーナ=アンダーソンだと知れ渡ると、皆が目に見えて怯え始めたのだ。俺も別件で彼女の恐ろしさを改めて思い出すことになったのが、……まぁ、それはもういいだろう。

 今でも鳥肌が立つ。……俺は何故あんな怖い女が好きになったのだろうか?

 もしかしたら今まで気付かなかっただけで、俺はヘンタイだったのかもしれん。



 テオドールは女王国の宰相に就任した。

 領主や執政官たちも陣営問わず、今の地位を引き続き任されることになった。

 そのことで新体制は好意的に受け止められている。 

 元宰相のニールは女王国宰相の任を退き、ウィル少年やカイル少年の教育係として後進の指導に当たることになった。ゆくゆくは次世代の執政官育成の為の学舎を任されることが内定しているらしい。

 その準備で目の回る忙しさだと嘆いていた。――どこか嬉しそうな顔で。  

 シーモアは死んだレッドの代わりに近衛隊長の任に就いた。

 彼としても皇帝を守り切れなかったことを悔いていたから、収まるべくして収まったのではないかと思う。

 


 俺はというと、アリスの一声で身分と戸籍が回復した。

 皇帝暗殺未遂という汚名は()()ゴールド単独の策謀だったということになった。

 更に将軍ブラウンの推挙もあって女王国の将軍に就任することに。

 アリスやニール、クロエのような為政者に向いていないと改めて気付かせてくれたブラウンには本当に感謝している。

 今はレジスタンスで従ってくれていた軍人たちを束ねて、治安維持の為の部隊を率いている。

 それと同じくしてヴァイス将軍の名誉も無事回復された。

 これも全てゴールドの仕業となった。――こちらは紛れもない事実だが。

 同時に残された彼の家族や部下たちは女王が責任を持って後見するとの表明があった。彼の家族の保護は領主ホルスが名乗りを上げ、ロゼッティア領内に新しい家と職を用意したという。

 この辺りの一連の抜け目のなさが、如何にも『新しい女王国』といった感じに思えた。 



 そして何よりも周りを驚かせたのはケイトだろう。

 あっという間に教会を牛耳ったかと思えば、議会という公式な場でゴールドを糾弾し、彼を言葉だけで殺してしまうという荒業を見せたのだ。

 あれからゴールドの遺体は徹底的に調べられた。

 毒殺ならば話がややこしくなるからだ。

 だがそんなものは全く出てこなかった。

 真実、ケイトは言葉だけで一人の人間を殺してしまったのだ。

 そんなことが出来る人間などメルティーナだけだと思っていた。

 そういう意味では、ケイトは確かに彼女の娘だった訳だ。

 今まで彼女の能力自体を疑ったことは一度たりともなかったが、どこか物足りなさを感じていたのも事実だ。

 だがそれは俺の勘違いでしかなかった。

 彼女はずっと本性を隠し続けていたに過ぎなかったのだ。

 そういう意味では、間違いなくあの議会は彼女のお披露目として用意された舞台だった。

 ケイトは自らの意思でもって、新しいセカイのヒロイン候補として堂々と名乗りを上げたのだ。



 このセカイの主役は以前も今もアリスで間違いないが、ケイトも無視出来ない存在になりつつあった。

 彼女は帝国でも名高い上級貴族ターナー家の一人娘として、ゴールド不在で迷走する他の上級貴族の素材を慎重に見極めながら、自分の()として掬い取っていく。

 しかも彼女はクロエの娘であり、ひいては元宰相ニールの姪でもある為、アンダーソン一族と親密な下級貴族たちからも好意的に受け入れられていた。

 更に言えば、人使いの荒さで他の追随を許さない母親から徹底的に扱き使われながらも、健気に走り回る姿はあらゆる場所で目撃されており、国や民に対する彼女の献身ぶりは誰もが認めるところだった。



 それでいてケイトはアリスに反発するような素振りは一切見せなかった。 

 現在彼女は政務官として、クロエの補佐をしている。

 アリスからの信頼も篤く、いずれは母親の仕事を引き継ぐことが内定しているそうだ。

 だがケイトは時が来れば必ず動く。

 ある程度修羅場を潜り抜けてきた者たちの目にはそう映っていた。

 ――果たしてそれは十年後か二十年後か。

 ケイトは()()()()()()の娘だ。

 焦って返り討ちにあうようなヘマだけは絶対にしないはず。

 ちなみにあの議会での衝撃的な告白の一件以降、俺は事あるごとにケイトと夫婦(めおと)になるのかと聞かれるようになったが、「混乱が終息するまでは何も考えられない」と逃げを決め込んでいる。

 ただ、正直なところ()()()()()から逃げ切れる自信はない。 

 ――まぁそんな感じで、今このセカイでは新しい秩序が完成しつつあった。



 珍しく予定より少し遅れたアリスがシーモアを連れて会議室に入ってきた。

 皆が立ち上がってそれを出迎える。

 

「――みんな、おまたせ」


 彼女が笑顔で着席する。今から定例会議が始まるのだ。

 テオドールの説明から始まるのも、レジスタンスの頃と同じだ。


「――以上の報告にもあるように、明らかに飛来してくる敵の数が減ってきている。軍の地道な駆除が効いているのもあるだろうが、それだけでは無さそうだ。……希望的観測を申し上げるならば、クロード一行が魔王を倒しに向かったのか」


 いかにもテオドールらしい甘い考えだと思うが、今回はそれ程外れているとも思えない。

 クロードは大馬鹿野郎だが、最初から責任感の強い男だった。

 だからその可能性は大いにある。

 それでも彼らに魔王を倒せるのかどうかはまた別の話だろう。

 そもそも魔王というのは俺たち人間に倒せる代物なのか、それすらも分からないのだ。何せ魔王が復活したのは千年ぶり。情報らしき情報と言えるものは例のおとぎ話のみという有様。

 結局議論もそこに行きつき、その先は誰も踏み込もうと――。


「――ちょっと魔王城に行ってみたいのだけれど、いいかしら?」


 誰も言おうとしなかったその言葉を、まさかのアリスが言い出した。




「……いやいや、待て待て!」

 

 俺だけでなく皆もびっくりして思わず立ち上がる。

 ……だからどうしてお前はいつもそんな発想に行きつくのか?

 しかもちょっと行ってくるみたいな、お買い物のノリで!

 今やアリスはこのセカイの指導者として、無くてはならない存在なのだ。


「だけど圧倒的に情報が足りていないのも事実よね? それにもしクロードが魔王の手先なら大変なことになるでしょう? 更なる準備も必要になってくると思わない?」


 アリスは楽しそうに笑いながら話すのだ。

 確かに言わんとすることは分かる。

 だけど他に適任がいるだろう? 何もアリス本人が行かなくても。

 皆が思い留まるよう彼女に進言する中、僅かな静まりの中に差し込むようにクロエの声が響いた。


「――ひとつ質問があります。……そもそも陛下はどのようにして魔王城に向かわれるおつもりでしょうか?」


 ……あぁ。……そうだった。

 そもそも俺たちが迎撃に徹さなければいけなかった理由がそこにあったのだ。

 今までアリスが口に出さなかったのも同じ理由だ。

 ――魔王城に突入する手段がないのだ。

 船で行くにしても、撃沈されれば失う兵の被害が大きすぎた。

 ……!? ……と、いうことは?

 クロエは今になってアリスがそれを言い出した()()に気付いたのだ。

 出席している皆の表情にも徐々に理解の色が広がり始めた。

 アリスは満面の笑みで出席者全員の顔を見渡し、大きく頷く。


「……えぇ、見つけたわ。先程シーモアを護衛に北の森に行ったら、古い神殿みたいなのがあってね。そこにクロードたちの私物があったわ」


 会議室が一気にざわついた。

 おそらくこれこそが彼女の遅刻の理由だったのだろう。

 俺がシーモアに視線を合わせると彼も頷く。

 ついに今まで行方不明だったクロード一行の所在が判明した。

 彼らは皇帝暗殺の実行犯として手配されており、捜索部隊も編成されている。

 それでも中々見つけだすことが出来なかったのに。


「その神殿の奥の部屋には何か光っている床があってね、試しにその中に入ってみたら違う場所に出たの。すぐそばに魔王城らしき建物が見えたわ。……水平線の向こうにこの白銀城もね」


 なんて無茶をする!

 だけどそれを使ってクロードたちは魔王城に向かったと考えていいだろう。

 正直この情報はありがたい。




「分かった。本当はそんな無茶をしたことに対して山程文句を言ってやりたいが、今回は不問にしてやろう。……だがな、やはりお前が行くのは反対させてもらおう。コレはどう考えても俺たち軍人の仕事だ。これだけは絶対に譲るつもりはない!」


 本当は女王に対してこんな物言いは良くないと知っている。

 だけどこれだけは()()()()()キチンと伝えなければならなかった。

 乱暴な言い方だったが誰も俺を咎めようとはせず、むしろ全員が同意してくれる。

 

「いいえ違うわ。これは偵察任務よ。だからこの中で一番適しているのは私だわ。……山猫を育てたこの私!」


 それに対してアリスが真っ向から反論する。

 俺も何か言い返そうとするのだが、アリスは更に言葉を続けた。


「大丈夫よ、初めから魔王を倒せるなんて思っていないし、挑むつもりもないわ。何かあったら絶対に逃げるから。……そういったコトを考えるとむしろ軍人は足手まといになるわ」


「――では、私がついていきます。私ならばアリス様の足手まといになりませんよね? 白銀城潜入で実力は証明したはずです!」


 いつもアリスの後ろに控えていて、引っ込み思案なパールが珍しく主張した。

 アリスは眉間に皺を寄せて考え込むが、やがて派手な溜め息をついて頷いた。

 そして笑顔で振り返る。


「危なくなったら逃げるからね。……そこはちゃんと守れるかしら?」


「……はい!」


 パールが感激した表情で答えた。



 それでも俺たちはそれを認める訳にはいかなかった。

 当たり前だろう?

 二人してもう行く気になっているが、そんなことは絶対に許さない。

 か弱い女性二人だけを死地に向かわせておいて、屈強な軍人が後方で待っているだけなどあり得ない話だ。

 するとアリスはすくっと立ち上がり、穏やかな笑顔で一同を見渡す。

 それを受けて会議室が静まり返った。


「――ずっと気になっていたの。……彼らを魔王の手先と断罪したのは浅慮だったのかもしれないって」


 アリスが俯く。

 皆がじっと耳を澄ませていた。


「……でも、もしクロードが魔王の手先でないなら、……彼が皇帝殺害の責任を感じて魔王を倒そうとしているのであれば、そして無茶な戦いを挑んでいるのなら、この城まで引っ張って帰ってくるわ! ……ねぇ、彼らの名誉を回復するのは私にしか出来ない仕事なの。……お願い、分かって頂戴!」


 アリスが力説する。

 ……だからこそ怪しかった。

 コイツがそこまで責任を感じることはないのだ。

 ――俺は心のどこかで引っ掛かりを覚えていた。


「あの時私は全く冷静ではなかったわ」


 そんなの全員がそうだった。

 むしろアリスが一番冷静だった。

 彼女の指示を一も二もなく信じて動き、この難局を乗り切ったのだ。 

 彼女無しでこの安定はなかった。

 千年前は魔王によって多くの国が滅ぼされたらしい。

 それを考えるとアリスの功績は計り知れない。

 口には出さないが皆の表情に出ていたのだろう、彼女は全員を見渡すと小さく「……ありがとう」と呟いた。

 ――あぁ、今の感じは決定的だった。

 これは絶対に何かウラがある。 

 チラリとクロエを見ると、彼女もやはり何かを感じてたのか、真剣な表情をしながら目を細めていた。



 そんな俺たちのことに見向きもしないアリスはなおも続ける。 


「みんなの気持ちは分かっているつもりよ。大切にしてもらえて本当に嬉しい。だけどやはり私はあのとき、ちゃんと彼らの話を聞いておくべきだったの。彼らをあそこまで追い詰めてしまったのは私なのだから。……人の上に立つ人間としてあるまじきことね。本当に情けないわ。……彼らに申し訳ない。だから私に行かせて欲しいの。他ならぬ私が彼らの真実の姿を見極めに行くことに意味があるの! ……みんなお願い――」


 なんて心の優しい娘なんだ、みたいな空気がこの会議室全体に広がるのを感じた。自分たちの戴く女王陛下は本当に素晴らしい、と。

 テオドールなんて感激で目が潤んでいる。

 だが、そのお陰でこの俺にもようやく理解が出来た。

 ――コイツは今、自分の演説に酔っているのだと。

 そして俺たちを酔わせるつもりなのだ、と。

 コイツは今までずっとこうやってヒトを意のままに動かしてきたのだ。

 それが見えてからは、もう茶番にしか見えなくなった。



 冷静になれば徐々にアリスの狙いも見えてきた。

 おそらくアリスはクロードという『不確定要素』が気に食わないだけなのだ。

 だから敵か味方か見極めに行く。

 もしも敵だと判明したら今度こそ確実に彼の息の根を止める。

 ――いや、状況次第ではたとえ味方であっても殺すつもりだ。

 コイツは自分に刃向かった者を野放しに出来る程、優しくないし豪胆でもない。

 そして今日、ようやくそのクロードを見つけ出したのだ。

 内心の昂ぶりは相当なモノだろう。

 これを機にアリスは残っていた遺恨を、今度こそ完膚なきまで徹底的に()()()()()つもりなのだ。

 そうすることによって一点のシミもない綺麗なセカイを完成させる。

 何よりそれを()()()()で成し遂げたいのだ。――魔王を()()にしてでも。

 木を隠すなら森の中、死体を隠すなら魔王城の中ってコトだ。

 流石に俺もその程度のことは分かるようになってきた。

 俺の考えに同意してくれる人間は……と見渡せば、クロエとケイト、更に女王国のブラウンやらウィル少年やらと、まぁ結構な人数と目が合ってしまった。

 そしてまだアリスの熱のこもった演説が続く中、俺たちは彼女に気付かれないように目を合わせると小さく口元を歪めたのだった。

 


 


これで11章が終了しました。残すところあと1章です。

厳密にいえば12章終わりの断章とエピローグを合わせての12話です。

ようやくここまで来ました。

一話投稿が去年の7月の終わりですからそろそろ一年ですね。

ここまでなんとかペースを崩さずに走り続けることが出来ました。

気を抜くことなく完走したいと思います。


それでは残りわずかになりますが、最後までよろしくお願いします。

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