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2周目は鬼畜プレイで  作者: わかやまみかん
11章 新たなる秩序編
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第4話  ロレント、迎撃する。

 

 俺たちはアリスによって謁見の間から追い出されると、今度は宰相ニールに急かされるままに城の裏口へと向かった。彼は手を使って扉を開けるのももどかしいと言わんばかりに、乱暴に身体ごとブチ当たる。

 その先に広がるのは一面の大海原。最高の景色だと思う。

 ――空と海が薄気味悪い紫色に染まってさえいなければ。


「……叔父上!」


 声がしてそちらを見ると、今にも泣きそうな顔のフリッツが駆け寄ってきた。

 あのガキんちょが一丁前に大きくなったものだ。……泣き虫は相変わらずだが。

 謁見の間でのやり取りも知らない彼からすれば、いきなり禍々しい鐘の音が鳴り響き、ついでに空が変色したかと思えば、目の前に忽然と()()が現れたのだ。

 ここからは本当によく見える。――魔王城が。

 俺がフリッツでも泣くかも知れん。

 ニールが笑顔で泣くなと言いたげに、彼の頭をガシガシと撫でる。


「……用意は?」「こちらです」


 信頼する叔父と合流できたことで気が済んだのか、フリッツは真剣な表情に切り替えると、俺たちをとある場所へと連れて行った。

 そこにあったのは見たこともない形のバリスタだった。 それらが全て海に向けられている。

 周りでは兵士たちが声を掛け合いながら入念に準備をしていた。


「……調整は?」「完璧です」


 ニールの素っ気ない問いかけにも、フリッツは動じることなく短い言葉で返す。

 そして二人は無言で頷き合った。

 まさかコイツらは俺たちと戦争をしている一方で()()の準備もしていたとでもいうのか?

 ……こんなとんでもないクソッタレな最悪の状況を想定して?

 アリスといいニールといい、コイツらは本当に底が知れない。

 それと同時に俺は心のどこかで自分の器の大きさに疑問を持ち始めていた。




「これを使ってあの城から飛んでくるモンスターを叩き落としていく。撃ち漏らしをお前たちとここにいる兵士たちでお願いしたいのだが、いいだろうか?」


 ニールが俺とシーモアを交互に見つめながら問いかける。

 お願いの形ではあるが、あくまで確認だろう。

 もちろん頼まれるまでもないことだ。俺はその為にここにいるのだから。


「了解した。……要するにバリスタを破壊されないように守りながら、敵を潰していけばいいんだな?」


「そういうことだ。……私は今から大陸全土にこの状況を知らせて迎撃態勢を整える。……レジスタンス兵たちも勝手に借りるからな。形が整うまでどうか踏ん張ってくれ、後は頼んだぞ!」


「……わかった!」「……了解」


 俺とシーモアがそれに応える。

 ニールは固いながらも笑顔を見せると、フリッツとともに城へと戻っていった。

 


 兵士たちとアレコレ確認しながら準備をしていると、島から何やら黒い影が飛んでくるのが見えてきた。


「さぁ、ヤツらのお出ましだ! 叩き落とせ! ……だが無理して全部撃ち落とさなくてもいいからな。一応俺にも獲物を残してくれよ? ……さぁ! 気負うことなく撃って行け!」


 俺は震える手で剣を握りしめながらも、バリスタに付いた兵士たちに軽口を叩きながら檄を飛ばす。

 この国を恐怖のどん底に突き落としてしまったのは間違いなく()の責任だ。

 その重さから逃げることだけは絶対に許されない。

 命に代えてでもこのセカイは守り抜いてみせる!


「――だから言ってるお前が気負い過ぎてどーすんだよ」


 シーモアが俺の背中を軽く叩きながら、茶化すように笑う。

 そして俺の耳元で小さく呟く。


「……アンタが全ての責任を引っ被る必要なんてないからな」


 なんだ? もしかして庇ってくれてんのか? コイツが?

 ――シーモアのくせに!

 長生きはしてみるモンだ。なんか最高に笑えてきた。


「気ィ使わせて悪かったな。……よし! それじゃあ、今日は久し振りだから思いっきり()()とすっか?」


「おう! ……今日はパパもママも帰ってくるのが遅い日だからな、日が暮れるまで付き合ってやるよ」


 俺の言葉にシーモアが笑いながら軽口で返す。

 随分と昔のことで忘れていたが、俺たちはいつもこんな感じだった。

 

 

 モンスターにも自分たちの脅威が何なのか理解する程度の知恵はあるらしい。

 ヤツらは積極的にバリスタを破壊しに突っ込んできた。

 それらを片っ端から迎撃していく。

 俺たち二人も暴れまわった。

 それでもキツい!


「……まさかとは思うが、お前、もしかして腕鈍っちまったのか?」


 横のシーモアがポツリと呟く。

 周りには聞こえていないだろう。……だが何故か俺にだけ聞こえるような微妙な大きさの声。

 コイツはいつもいつもそうだった。

 戦闘中や訓練中にこうやってチョイチョイ話し掛けてきては邪魔をする。

 そして話したいことだけ話したら、すぐにどこかへ行ってしまうのだ。


「オマエなぁ……俺の利き腕を斬り落しておいて、よくそんなコト言えるよな!」


 あまりの言い方に俺も思わず怒鳴ってしまう。

 ――もちろん笑いながらだが。

 まだ軽口が出てくるのは余裕の証拠だ。

 ……と言いたいところだが、実はちょっとばかり厳しい。

 シーモアはいくらか回復薬を飲んでいるとはいえ、クロードたちと戦って満身創痍のままだ。

 何よりモンスターの大群に対してバリスタの数が全く足りていなかった。

 まぁ復活するかも分からないおとぎ話の魔王の、その手下を迎撃する為にバリスタを設置したいから予算を寄越して欲しいとは、幾ら宰相の彼でも言い出せなかったことだろう。

 そもそもどれぐらいの規模で飛来してくるかも分からない。

 きっとこれが限界だったのだ。

 こればっかりはあるだけマシだと思わないとバチが当たる。



 そんなことを考えながら、ひたすら目の前のモンスターを倒していると、全く違う方向からバリスタが飛んで来ていることに気付いた。

 そちらを窺うと小高い丘の目立つところに女王国旗がはためいている。

 こちらの撃ち洩らしをあちらが確実に落としてくれているようだ。

 バリスタ設置数はあきらかにあちらの方が多いのだろう、次々と敵を撃ち落としていく。

 何といっても命中率が違った。

 おそらく彼らは()()()()()()()に何度も演習をこなしてきたのだ。

 誰の指示だったのかは言わずとも分かることだろう。

 ――相変わらずアイツは恐ろしい女だ。

 

 

 これでかなり楽になったかと思ったのも束の間、今度はやけに大きな影が近づいて来るのが見えた。


「……おいおい、マジかよ!」


 思わずこんな泣き言もいいたくなるというモノ。

 帝国内でも年に数回程目撃談が出てくるが、基本的に酔っぱらいの戯言扱いされるアレだ。俺だって子供の頃に読んだ絵本の中でしか知らない。

 ――飛竜のお出ましだった。 


「バリスタ班! アレに狙いを絞れ!」


 気を取り直して命令する。

 それに応じてバリスタ部隊が竜を狙い撃ちするが、ちゃんと命中しているにも関わらず、跳ね返されてしまう。


「やっぱ全然効いてねーな、……ありゃ」


 シーモアが半笑いで嘆く。

 おとぎ話で『剣も槍も刺さらない程硬い鱗』という感じの表現があったから、正直期待はしていなかった。しかし実際にその光景を見せられると一気に力が抜けてくるのを感じる。


「オイオイ、無傷のアレをやれってか? ……まぁヤれって言われればヤるけどよぉ」


 俺も笑うしかない。


「そもそもどうやって倒すんだ、アレ? 俺もセカイ中でいろんなモンスターと戦ってきたが、流石に竜とはまだやりあってねーよ」


 シーモアが剣を肩に担ぎながら、口を開けて空を見上げる。


「魔法剣だろ、やっぱり。……ちなみに俺のはクロードにくれてやったからな。お前一人で何とかしろよ?」

 

 シーモアと二人してぼやいていると、突如轟音が響いた。

 次の瞬間、女王国軍が陣取る丘から光をまとった大きな槍のような物体が飛び出し、空中を舞っていた竜を串刺しにした。

 いきなりの攻撃に竜は帝国中に響き渡ったのではないかと思わせる程の悲鳴を轟かせると、空中で体勢を崩し、そのまま大地に墜落する。

 そしてピクリとも動かなくなった。




「……流石にアレは矢って呼べねぇよな、オイ?」


 要するにアレがあのときブラウンに指示を出していた例の奥の手とやらだろう。

 まさかアリスは竜が出てくることすらも想定出来ていたとでも言うのか?

 ここにいる全員が無言だった。

 そもそも何を言えと? あんなモノを見せられて。

 ……だが本当に助かった。

 敵はあちらこそ脅威だと判断したようで、丘に向けて次々と降りていく。

 ――小賢しい!

 さっきよりも小さいが竜も再びこちらに近づいてきている。

 しかしいつまで経ってもアノ槍みたいなヤツの第二弾が発射されない。

 ……もしかしてアレは準備に時間が掛かるのか?


「……ちょっとアッチを守ってくる! ここを任せるぞ!」


 俺が叫ぶとシーモアは無言で片手を挙げた。



 動ける兵士たちを率いて丘に向かうと、ここでも派手に戦闘が行われていた。

 真っ先に目についたのが死に物狂いで戦っている帝国軍正規兵たちだった。

 そして全身から血を流しながらも周りの兵士たちに檄を飛ばし剣を振り回している男。――帝国軍総大将コール将軍。

 彼ら帝国軍が女王国軍に交じって戦っていた。


「よし! 俺たちも仕事に取り掛かるぞ!」


 早速俺たちもその中に突入し、片っ端からモンスター共を蹴散らし始めた。


「有難い。……恩に着る」


 何とかモンスターを倒して落着きを取り戻すと、息も絶え絶えでヘトヘトのコール将軍から礼を言われた。

 

「いや、こちらこそ本当に助かった。……あちらの設備だけでは話にならなかった」


「それに関しては女王国に感謝だな」


 コール将軍が丘の上に所狭しと設置されているバリスタ群を見渡した。

 実に壮観だった。

 その中でも明らかに大型で異色を放っているモノがあった。

 ……アレはそもそもバリスタと呼んでいい代物なのだろうか?

 装てんされている矢は、遠目では大きな槍のように見えたのだが、間近で見ると大神殿にあるような石柱だった。

 その先端は凶悪なまでに尖っている。



 吸い寄せられるようにそちらに近づくと、ブラウンが指示を飛ばしていた。


「――そちらの準備はどうだ?」


 周りの人間が聞いたこともない難しい言葉と数字で報告をする。

 ブラウンはそれに満面の笑みで頷いた。


「よし、目標飛竜! ……撃てぇぇ!」


 ブラウンが吠えると同時に轟音を立てて石柱が飛んだ。

 そして寸分の狂いなく竜に刺さり、そのまま墜落する。

 何度見ても恐ろしく頼もしい光景だった。

 溜め息交じりで感心していると、バリスタの横に立っていた魔法使いたちが次々と腰砕けになって倒れ込んでいく。


「……お、おい! 大丈夫か?」


 俺は慌てて近付き声を掛けるのだが、地面に倒れ込んだ魔法使いは大丈夫だと言いたげに笑顔で手を挙げる。そして控えていた別の魔法使いと入れ替わるようにして天幕へと入って行った。その間に屈強な兵士たちがバリスタに石柱を設置していく。これは準備に時間が掛かるのも頷ける。


「……助けに来てくれたんだな。ありがとよ」


 いつの間にか近付いていたブラウンが声をかけてきた。


「いや、こちらこそ本当に助かった」


 俺は丁寧に頭を下げた。

 先程から礼を言われるたび、逆に申し訳ない気持ちで一杯になるのだ。

 そもそもこの状況を作ったのは俺なのに。

 俺の浅ましい権力欲が招いた結果なのに。


「――気にすんなよ! 大体の事情はパールから聞いているから。……例のあの馬鹿が暴走したんだってな。アンタはちゃんと説得してくれたんだろ? だから、これ以上気に病むことはないって」

 

 ブラウンは笑顔で俺の肩を叩く。

 何故かその言葉に力が抜けていくのを感じた。

 他の誰に言われてもそうは思えないだろうが、コイツの言葉は自然と心に沁み込んでくるのだ。

 こんな彼を側に置けるアリスは本当に人材に恵まれていると思えた。



「コレは何なのか、聞いてもいいのか?」


 俺は例のバリスタを指差した。


「……あぁ、コレは姐さんが用意した例の奥の手ってヤツだな。()()の場合に備えてな」


 そう言うとブラウンは大声で笑い出す。

 確かに笑いたくもなる、こんなのが必要になる最悪ってどんなのだ?

 ……って今だよ!

 思わず自分に突っ込みを入れてしまう。


 地の魔法使いが特製バリスタと石柱に強度を付与する。

 風の魔法使いが石柱を飛ばす力を付与し、更に標的に誘導する。

 水の魔法使いが竜の固い鱗を貫く為の鋭さを付与する。

 火の魔法使いが内部から破壊する為の殺傷能力を付与する。

 ……よく分からないが、簡単に言うとそんな感じらしい。


「――コレは聖王国の人間にしか撃てない最終兵器なんだ! ……だから竜は俺たちにまかせろ! 何なら魔王だって串刺しにしてやるさ!」


 そんな話をしている間も、再び魔法使いたちがバリスタに魔力を注ぎ始めていた。


「……よし、撃てぇぇぇ!」


 合図とともに轟音が響くと石柱が竜を目がけて飛んで行く。



 俺たちは一丸となってバリスタを守る為に戦っていた。

 戦況は幾らかマシになったものの、今度は地上に降りたモンスターを倒す為の兵士の数が圧倒的に足りない。

 そんなことを考えていると、内陸の街道から地鳴りが聞こえてきた。

 徐々に姿を現す大軍らしき影。それらが土煙を上げて近付いてくる。

 彼らが掲げているのは女王国旗とヴァルグラン領旗だった。


「ちくしょう! 主役は最後に悠々と登場ってか? ガキ共のくせに全部オイシイところを持っていきやがるつもりかよ! アイツはいつもいつもそうだ! 賢いんだから、いい加減、年長者に華を持たせることも覚えろよ。……もうアレだな、帰ったら説教だな」


 横に立ったブラウンが悪態をつく。

 だがそれとは裏腹にどこか嬉しそうな響きが混じっている。


「……これでセカイは守られるのか?」


 少なくとも魔王によって無抵抗なまま蹂躙されるセカイを見なくて済みそうだ。

 ブラウンはそれには返事せず鼻で笑った。


「……なぁ、ロレントさんよぉ。……アンタは皇帝なんかよりも絶対に将軍(こっち)の方が向いていると思うぞ?」


 ……驚いた。俺の悩みなんてお見通しか。

 だが納得する。コイツはあの女王国の叩き上げなのだ。

 あのアリスが女王国を束ねる前から重用している最古参なのだ。

 ある意味アリスが一番最初に見出した才能と言える。


「……あぁ、俺もそんな気がしていたよ」


 俺に国を束ねるってのはどう考えても無理だ。

 そもそも器からして違う。

 この一連の流れの中で嫌という程思い知らされた。

 それよりも軍を率いて現場で暴れ回る方が、絶対に俺の性に合っている。


「さて、もうひと暴れしてやるとするか?」


 ブラウンはそう呟くと、深呼吸して後ろにいる兵士たちに振り向いた。


「おい! お前ら! ……いいか!? ここは帝国だからって絶対に手を抜くなよ! そういう小さな緩みから崩れることもあるんだぞ? その綻びが俺たちの国を、セカイを滅ぼしてしまうんだ! 水際で止めるのが俺たちの仕事だ! 祖国や大事な家族を守る為にも、絶対にここで食い止めるぞ! ……一匹たりとも逃すな! やっちまえ!!!」


 ブラウンの檄に全員が声を上げる。

 俺も一緒になって剣を握りしめながら吠えた。




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