表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2周目は鬼畜プレイで  作者: わかやまみかん
1章 マインズ編
11/131

第10話  武道家トパーズ、洞窟で獅子奮迅。

 

 クロードを見ていると、兄弟子を思い出すことがある。



 兄弟子は優秀な人間だった。

 私のような年の離れた弟弟子の面倒見もよく、お師匠からの信頼も篤かった。

 ただ彼は我々が上達しないのは真剣に練習していないからだと信じて疑わない部分があった。

 努力しても報われないなんてことはいくらでもある。

 努力の方向を間違うこともよくあることだ。

 兄弟子はそれが全く理解できないようだった。

 本当に要領のいい人間だったからだ。

 天才だったと言ってもいい。

 無駄な練習をすることなく、習った技も誰よりも早く出来るようになった。

 同じだけ時間をかけた我々弟弟子が、上手く出来ない状況をどこか冷めた目で見ていた。

 自分のやり方が正しく、それで習得できない我々は出来損ないだと。

 私も兄弟子が努力していないなんて、髪の毛一本たりとも思っていない。

 だけど彼のあの我々を理解できないと言いたげな目は忘れられないだろう。



 クロードもよくそんな目をする。


 『自分が正しい。何故自分の言うことが理解してくれないのだ!』


 だが彼と兄弟子とは決定的に違うところがある。

 兄弟子には皆を黙らせる実力と視野そして人望があったが、クロードにはそれらが欠けているということだ。

 学校ではそれでも通じただろうが、生きるか死ぬかの実社会では話が違う。

 今日ギルドの宿舎に戻ると、彼は「明日、洞窟にアタックする」と言いだした。

 それに対してパーティの意見は真っ二つに割れた。

 クロードの意見に従う魔法使いのルビー。

 まだ時期尚早と考える私。

 そして消極的ではあるが私に同意する狩人のサファイア。

 だがクロードは一歩も引かなかった。


「僕は町長のアンドリューさんにマインズの未来を託されたんだ。……みんなも町の現状ぐらいは分かるだろう?」


 彼は身ぶり手ぶりで熱く私たちに訴えかける。


「一刻も早い援助が必要なんだ! 王都に連絡をしなきゃいけないんだ! 僕たちがそれをしなきゃいけないんだ!」


 確かにマインズに近隣からの避難民が流れ込み、大変なことになっていることぐらい知っている。

 しかし必要なのは一刻も早い援助ではない。

 中期的に必要になってくる資金と食糧、そして建築物資だ。

 見たところ避難民に食糧は行き渡っているし、仮設住宅も何件かは建設されている。

 それにこの状況を知らせないといけないのは、冒険者ではなく役人の仕事だ。

 実際、連絡そのものは既に王都にも届いているはず。

 洞窟を抜けなくても、峠を越えればいいだけの話だ。

 その上で王宮側が何かと理由を付けて、動いていないだけなのだ。

 動かない王宮にしびれを切らせた町長が、洞窟を安全に通過できるようにする為、モンスターの駆除を冒険者に依頼した。

 ただ、それだけの話だ。

 ――王宮側に言い訳させないように。

 


 そういった現実を理解出来ていないのはクロードの方だが、学生相手に年長者としてそれを言うのは憚れるように感じた。

 だから私は建設的に反論するしかなかった。


「まだ実力が足りていない。今、私たちが道半ばで倒れてしまっては、それこそ町長の意志を王都に届けることが出来なくなってしまう。だからせめて明日だけでもレベル上げに勤しむべきだ。……明後日から、二日ぐらい掛けて確実にアタックしよう」


 これはギルド所属の冒険者でも、腰を据えて取り組むべき依頼なのだ。

 勢いだけで何とかなるなら、既にこの依頼はどこかのパーティによって達成されているだろう。

 そもそもクロードもルビーも数日前まで学生だったのだ。

 実戦経験があるのは、私とサファイアの二人。

 何日かレベル上げと連携確認の為モンスター狩りをしたが、サファイアの腕は信用できる。

 冒険者としてのキャリアで言えば彼女はまだ駆け出しだが、それ以前に山で狩りをする仕事をしていたらしい。

 だがそれでも実力が足りない。

 せめて、もう少しだけでも実力をつけてから挑みたい。

 そして数日は余裕を持ちながら準備をして、確実に依頼を達成したい。

 それは冒険者として当然の心構えだ。

 慎重であることは非難されるべきことではない。

 しかしクロードは頑として私の意見を撥ね退けるのだ。

 

 

 なぜクロードはあんなにも意固地になっていたのか。

 それはその夜、酒場で知ることとなった。

 やるせない気持ちで一人酒を呷っていると、顔なじみになった冒険者が向かいの席に着いた。

 

「よぉ、トパーズ。お前んとこ、明日、洞窟にアタックするんだって?」


「……あぁ、もう知っていたのか? 随分と耳が早いな」


「もうみんな知ってるぜ。……お前も大変だな、子守り」


「まぁ、焦る気持ちも分からなくはないからな」


「でも、あれは流石にマナー違反だろ。あの坊ちゃん」


 苦虫を噛み潰したような表情の冒険者に私は違和感を抱いた。


「……? どういうことだ?」


 彼の話ではこうだった。

 クロードは自分が町長に直々に頼まれたのだから、この依頼は自分たちが達成すると他のパーティに宣言したらしい。

 しかしギルドの常識として依頼というものは早い者勝ちだ。

 誰だって知っている。

 そこでとあるベテラン冒険者が煽った。

 

『お前らみたいなヒヨッコパーティじゃ、達成はいつになるんだかねぇ』と。


 それに対してクロードは「明日アタックする!」と、その挑発に乗ってしまったらしい。

 ……子供じゃないか? これでは。

 なるほど、だから子守りなのか。……畜生、上手いこと言ったものだ。

 そしてそれは今日の朝のことだったらしい。

 それを知らずに私たちは呑気に今日という日を過ごしていたと。

 呆れて溜め息しか出てこない。

 

「……大変だな。まぁこの案件が済んだら、今度は俺たちといい仕事しようぜ」


 そう言うと彼は私の背中を労わる様に軽く叩き、席を立っていった。



 私の苦労は洞窟に潜ってからも変わらなかった。

 もう引き際なのに、クロードは断固突っ込むと言って聞かない。

 町が、援助が、と。

 いやいやお前が挑発に乗ってしまって、後に引けないだけだろうと。

 何度も突っ込みたかったが我慢した。

 そしてルビーは当然のように案山子状態だ。

 だからあれほど魔力は温存しておけと言ったのに聞いていない。

 どう考えても、これは先へ進める態勢ではない。

 それでも結局、私たちは強引にここのヌシとの戦いに挑んだ。

 

 

 ――ビッグベア。

 故郷の山でも生息している獰猛な熊のモンスターだ。

 大きな体を使った突進は厄介で、パーティ全員をなぎ倒す。

 爪にも要注意。

 すばやい動作で攻撃してくる。

 何度か戦ったことがあるが、この状態で戦いたくない相手だった。

 きっちりと相手の動きを見極めながら慎重にダメージを与えろと指示を出すも、人の言うことを聞かない学生二人は戦闘でも足を引っ張った。

 クロードはとにかく突っ込む。

 間合いが必要な状況でも無理に突っ込む。

 そのせいで、サファイアが味方撃ちを怖がり手数が減ってきた。

 遠距離からの狙撃が一番有効なのに悪循環だ。

 結果的にダメージ効率が悪くなってくる。

 ちなみにルビーは戦闘が始まったらすぐ後方で待機だ。

 彼女は元から頭数には入れていない。

 

 

 案の定、クロードが不用意に爪攻撃を喰らい、後方に下がった。

 もう頼れるのはサファイアしかいない。

 私は彼女に視線で指示を出す。

 ――今だ、撃て!

 彼女が頷き、撃つ。

 それに合わせて突っ込み、確実にダメージを与え、深追いはせずに引く。

 こちらに向かってくるモンスターの死角からサファイアが撃つ。

 私はその間に再び間合いを取る。

 サファイアもコツが分かったのか、ようやく二人の連携が上手くいき始めた。

 結果として、クロードが下がったおかげで助かったようだ。

 時間はかかるが確実に相手の体力を削っていく。

 

 

 焦りがあるのか敵の隙が増えてきた。

 そこで、眉間に狙い澄ましたサファイアの一撃。

 それを嫌がり、モンスターは大きな体を捻り避けようとする。

 だがそれを読みきった私は先回りしていた。

 モンスターの逃げた先にあるのは、その動きに合わせて突き出された私の渾身の一撃。

 

 

 敵に拳が当たる瞬間、身体から余計な力が抜けた。

 そして不意に兄弟子の声が頭に響いた。

 最近彼を思い出すことが多かったからだろうか。

 久し振りの声色だった。

 

『なぁ、トパーズ。……会心の一撃って知っているか?』

 

 まだ修行をしていた少年の頃の会話だ。

 彼は気が向けば、私にいろんな話をしてくれた。

 助言を求めれば分かりにくい説明ではあるがキチンと教えてくれた。

 その日も必死で練習する私を眺めながら、どこか気だるげに酒を呷っていた。

 ……会心の一撃?

 話では聞いたことがあるが、それがどういうものかまでは分からない。

 兄弟子こそ知っているのだろうか。

 私の視線で何を考えていたのか判ったのだろう。

 少し口元を歪めた。


『……相手に当たる瞬間に、まれに余計な力が抜けることがある。そして一瞬だけだが時間が止まる……ような気がする。……で、そのとき拳が敵にパンって当たったら、グッと拳を押し込めばいい』


 いつも感覚だけで生きている兄弟子らしい身振り手振りと擬音による説明で、当然ながらそのときの私は全く理解ができなかった。

 でも今このとき、私は頭で考えるよりも身体で反応していた。 

 ――ここで押し込む!

 次の瞬間、スパァーン! と今まで聞いたことも無い破裂音がした。

 その場でゆっくりと崩れ落ちるモンスター。

 私はそれを冷静に観察していた。


 

 それを見届けたサファイアが膝から崩れ落ち、その場に座り込んだ。

 私も同じく、精根尽き果てて動けなかった。

 そんな私たちにクロードとルビーが歩み寄ってきた。

 

「お疲れ様。……何とかなったね」


「うん、何とかなったわね」


「僕たちなら、何とか出来ると信じていたんだ」


「さぁ、ここを抜けたら麓に村があるわ。そこで一泊して王都を目指しましょう」


 元気な二人が早く行こうと促すが、サファイアは立ち上がれない。

 私も溜め息を吐くのが精一杯だった。



とりあえず、1章終了です。

進捗率でいえば、10%ぐらいですかね。

打ち切りみたいな世知辛いものがないから、安心して書き続けられます。

感謝です。

どうぞこれからもよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ