ゲームマスター・マール、魔王復活に狂喜する。
いやはや実に爽快だった。
彼奴の周りに当たり散らす、あの無様極まりない姿ときたら!
我はずっとずっとこの瞬間を待ち望んでいたのだ!
憎きメイスの、みっともなく喚き癇癪を起こす姿を目の当たりにする瞬間を!
だが、ここまで派手にやってくれると、むしろ何かを通り越して『可愛い』とさえ思えて来るのが実に不思議な気分だ。
まるで欲しいモノを買ってもらえなかった幼児のようで何とも微笑ましい。
これで彼奴も思い通りコトが進まないというのが、どれほどもどかしいことなのか勉強になったはず。
挫折と失敗こそがヒトを成長させるのだ。
これを機に彼奴も一回り大きくなってくれることだろう。
ドサクサに紛れて我を魔王扱いするとは不届き千万だが、今回ばかりは大目に見てやってもいいだろう。
彼奴も余程悔しかったのだ。
今回の我に対する暴言はご祝儀として許してやろう。
いやはや、本当にいいモノを見せてもらった。
計画は狂いに狂いまくったが、それでも上手く進んでいる。
今回ばかりはクロードをどれだけ褒めても褒め足りないだろう。
――本当に危なかったのだ。
明らかにクロードの心は折れつつあった。
あれだけ皆に反対されれば、無理もない。
つまりそれこそが彼奴の作戦だったという訳だ。
これは自らの手で皇帝を殺したことのある、かつての勇者にしか思いつかない策だろう。
メイスのときは、あの場で誰も皇帝を殺すなとは言わなかった。
宰相はすでに自室で毒を呷って死んでいたし、ロレントも妙な感傷に浸ることなく皇帝の死を当然のモノとして受け入れていた。
だから彼奴は一切ためらうこともなく、誰に止められる訳でもなく、簡単に眉一本動かすことなく皇帝を殺すことが出来たのだ。
その後魔王が復活しても、特に罵声を浴びせられることもなかった。
クロードのように肩身の狭い思いをすることもなかった。
――全員で決めたことだったからだ。
そう。つまりそこが前回と全く違う点なのだ。
今回メイスはレジスタンスに、皇帝と宰相は殺さないという約束を徹底させた。
そしてその約束を破ろうとするクロードに対して、「やめろ!」とその場の全員に言わせることに成功したのだ。
皇帝を殺そうとするクロードの腕を折るのではなく、心を折るという巧妙かつ卑劣な一手。
折れた腕ならば治してから再度皇帝を殺せばいい。
だが折れた心を癒して、再度皇帝を殺させるのは不可能に近いだろう。
そもそも心の折れた勇者など、すでに勇者とは呼べない。
それは元勇者である彼奴が誰よりも理解していることだろう。
勇者の心を折るということは、すなわち我の負けを意味する。
つまり彼奴はクロードを通じて我の心までも折るつもりだったのだ。
2周目勇者とはいえ、そんな大層なことを企む駒などかつて存在しなかった。
その辺りは流石にメイス、鮮やかな手際だった。
敵ながら見事だと言っておこう。
しかし結果は我の勝ちだ。
魔王が倒されていない現状で勝利宣言するのは時期尚早だと重々理解している。
それでも今回に限れば、魔王を復活させることこそが一番の難題だったのだ。
魔王さえ復活してしまえば、いつもの見慣れた盤面に戻るだろう。
流石のメイスも魔王を倒そうとする勇者にまで何かしようとは思わないはず。
彼奴が魔王の暴れるセカイの王になるつもりならば話は別だが――。
つまりクロードがそのまま魔王を倒せば、それでよし。
最悪敗れたとしても、いずれメイスが魔王を倒す為に何らかの手を講じると。
そうすれば結果的に我の勝ちとなる。
このゲームの唯一無二の勝利条件は『勇者によって魔王が倒される』こと。
倒す勇者がクロードかメイスかという、たったそれだけの差だ。
我の勝ちはほぼ確定したと考えていいだろう。
ここまで荒れた盤面は初めてだったが、これでようやく一息つくことが出来そうだ。
これで残すところ2章となりました。
気が付けば100話を越え、50万文字を越えました。
思えば遠くへ来たものです。
見切り発車もしてみるものですね。
さて次話から11章『新たなる秩序』が始まります。
ここからが勝負ですね。
きちんと書き上げて見せます。
それでは皆様、これからもよろしくお願いします。




