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2周目は鬼畜プレイで  作者: わかやまみかん
10章 魔王復活編
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第4話  クロード、白銀城に突入する。


「ラクちんだねー」


 ルビーの緊張感のない声が、何よりも僕たちの置かれている状況を表現していた。ヴァルグラン防衛戦の頃のあの慌ただしい日々とは一体何だったのか。


「……あぁ、だが気を引き締めないとダメだぞ」


 一応トパーズが例によって彼氏気取りで彼女を(たしな)めるのだが、僕に注意するときような厳しい口調ではなく、どこか甘い。……これだからこの男は、全く。

 僕がこっそりと舌打ちしていると、さりげなくサファイアが僕の腕に身体を絡ませてきた。

 あの二人がイチャつくと、彼女もそれに対抗するように身体を寄せてくることが増えたような気がする。

 別にイヤだとは言わないが、もう少し節度を保ってほしいと思うのは、理性のある大人ならば誰でも思うことだろう。

 こんな感じで、僕たちは帝都に向かって平和なピクニックを満喫していた。



 戦争が再開されると、僕たちは聞いたこともない補領の軍隊に組み込まれた。

 ただここの領主はそれなりに有能だったようで、レジスタンスに参入したのは最近になってからなのにも関わらず、領軍の最前線送りを回避し、後方で兵糧などの物資を運搬する役目を勝ち取ったということらしい。さすが領主様だと、兵士たちはその手腕に感激していた。

 戦いたくない兵士の気持ちはよく分かるし、領民を出来るだけ戦場から遠ざけたいという領主の気持ちも分からないでもない。

 だけど今まで休む間もなく戦い続けてきた身としては、胸の奥に何とも言えないモヤモヤした感じが残るのだ。ただ僕たちもその恩恵を受けたことも事実で、彼らの運搬する補給物資を敵に奪われないように警護するという比較的安全な隊に配属させられたという訳だ。



 最初は僕たちも襲撃に備えて、それなりに緊張感を持って任に当たっていた。

 しかし出発して間もなく、本部からの任務変更の命令が下ってからはそんな空気も霧散してしまった。

 聞けば帝国軍の総大将が直接女王国の陣まで出向き、そのまま投降したらしい。それと同じくして帝都を守っていた軍隊もあっさりと全面降伏したということだった。

 拍子抜けもいいところだ。

 女王であるアリスが最前線入りするのを待っていたかのようだったという声もチラホラ聞こえているという。どうせ何か密約でもあったのだろうと。みんなもようやく気付き始めたのだ。

 ――アリスとは平気でそういうことをする人間なのだと。

 

「――輸送中の物資だって? ……さぁ? 適当に帝都内にある軍関係の倉庫にでも搬入しておけばいいのではないか? ……その辺りはあんたら任せるからよ」


 そう言うと伝令は慌ただしく他の部隊への連絡に向かった。

 結局僕たちは一度も剣を抜くことなく、かと言って急かされることもなく、ゆっくりと帝都へ向かうのだった。


 

 帝都に入ろうとする僕たちを大門の前で出迎えたのは、投降したはずの帝国正規兵と女王国軍の混成部隊だった。何でも検問を任されているらしく、所属と積み荷などの確認作業をしていた。


「――あぁ、そうだな、……じゃあこの荷物は倉庫にでも放り込んでおいてくれ」


 女王国の兵士がいかにも面倒臭そうにいえば、帝国正規兵が苦笑する。


「……いいのか? もう倉庫に空きなんて無いぞ?」

 

「構わんさ。……最悪、貧民街に配給すればいいんだから。どうせ保存食だろう? すぐに腐るモンでもあるまいし」


 そういうと女王国兵も笑い返した。……仲は良さそうだ。

 敵同士で勝手に馴れ合うのもどうかと思うが、口に出せばトパーズ辺りが睨みつけてくるのは分かっていたから、仕方なく黙っておいた。

 それにしても僕たちが任務とは言え、運んできた物資を邪険に扱われるというのはやはり腹が立つものだ。僕は抗議の意味も含めて無言で睨みつけてやったのだが、彼らはこちらを見ようともしない。

 やがて帝国兵は納得したかのように頷いた。


「まぁそうだな、取り敢えず倉庫にでも放り込んでおけばいいか。……じゃあみんなはここに署名をしてくれないか?」


 そういうと兵士たちは僕たちに何かの紙を配って回った。


「えーっとだな。カンタンに説明すると……武器を持たない住民に狼藉を働いた者は、女王の名において即刻処分される。それを了承し、署名した者だけが都に入ることが許されると、まぁそんな感じだ。……要するに悪いことをしたら貴族でも容赦なく牢屋にぶち込むから覚悟しろって話だ。普通に振舞ってくれれば()()()も文句は言わない」

 

 そう言いながら彼らが笑いあう。……一体コイツらは()()()()のつもりなのだ?

 だけどパーティ仲間だけでなく、その他の誰も異を唱えようとしなかった。

 全員が当然のモノとして受け止めて、渡された紙に署名していた。

 釈然としない思いを抱えつつ、僕もしぶしぶながらそれに署名し帝都入りした。



 僕たちはようやく退屈な物資運搬の任務から解放されると、再びレジスタンスの遊撃部隊として配置された。そもそも僕たちのように戦える人材を後方の雑用に回すことがおかしいのだ。全く苛立たしい限りだ。 


「――久し振りだな」

 

 溜め息交じりの僕を出迎えてくれたのはロレントさんだった。

 軍施施設を借りて最後の作戦会議を行うということなので、僕たちもここに召集されたのだ。

 大きな屋敷が建ち並ぶ帝都の中でも目を引く立派な建物だった。

 実はこの場所を使うのにも女王国の許可が必要だったそうで。……もう本当に意味不明だ。


「正直退屈でしたよ」


「まぁ、あの任務はお前たちを無傷で帝都入りさせる為に、仕方なくだ。納得してくれや。……ここからだろう? お前たちの本当の仕事は」


 そう言うとロレントさんがニヤリと笑った。

 そんな彼の横にいるはずのテオドールさんが、今日は見当たらない。

 僕の目線に何かを感じたのだろう、ロレントさんが首を竦める。


「ヤツはイーギス待機組だな。……そこで後方支援の指揮を取っている」


 執政官としての仕事はポルトグランデに残してきた娘のケイトさんに任せてあるらしい。

 彼女は有能そうだから難なくやってのけるだろう。



 次第に会議室にも人が増えてきて、徐々に席が埋まってきた。

 最後の作戦会議だけあって主だった陣営の軍関係者が勢揃いだ。

 流石にバトラーさんやオランド神官長のような後方向きの人は遠征自体に参加していないが。


「……アイツは出ないのか?」


 ロレントさんが周りを見渡すと、近くにいたレッドさんに尋ねた。

 アイツとはおそらくアリスのことだろう。


「最悪の事態に向けて別行動を取るそうです」


 それに対してレッドさんは表情も変えず淡々と答えた。

 ――勝手なことを! 

 どうせ()()何かを企んでいるのだろう。 


「……ふーん。……まぁ、いいか。好きにさせておこう。アイツのことだ、悪いようにはしないだろう」


 ロレントさんはアリスを信用しすぎだと思う。

 確かに被害を最小限に抑えて帝都を制圧出来たのは彼女の手柄だと認めよう。 

 だけどそれすらもアイツの策なのに、どうしてそれが分からないのか。 

 


「――よし! それじゃあ、会議を始めるから聞いてくれ!」

 

 ロレントさんは立ち上がるとこれといった挨拶もなく、いきなり作戦内容を説明を開始した。彼らしいというか何というか。 

 遊撃部隊の僕たちや他の精鋭部隊が同時に突入するとのこと。

 突入に不向きな兵士たちは後方で不測の事態に備えておく、ということらしい。

 これは大歓迎だ。

 ……正直僕やマール神の邪魔する人間は少ないに越したことはない。 

  

「――宰相やシーモアは容易(たやす)い相手じゃないからな! それはこの俺が一番よく知っている。確かに帝都は無抵抗で放棄した形だが、それでも奴らはきっちりと実利を取った。余計な被害を出すことなく、女王国の機嫌を取り、反撃の目を残したという訳だ! ……アイツらはまだ諦めちゃいない! 白銀城での抵抗は苛烈なものだと覚悟しておけ! 絶対に気を抜くなよ!」 


 ロレントさんがいつになく、厳しい口調で檄を飛ばす。


「――いいか! 皇帝も宰相も生きて捕らえろ! 特に皇帝だけは絶対に殺すな。……その瞬間女王が敵に回っちまうぞ! もうヴァルグランの二の舞はゴメンだからな!」


 彼の言葉に参加している面々が一斉に女王国の人間を窺った。

 不穏な空気というよりも、今の言動で彼らの機嫌を損ねてしまったのではないかと、どこか怯えるような感じで。

 だが女王国の人間はそんな空気の中でも平然としていた。


 

 悪いが僕はロレントさんの命令に従うことはできない。

 マール神が言うのだ。――『皇帝を殺せ』と。

 殺さなければ未来は開かれないと。

 あれからバトラーさんとも話し合った。

 皇帝を殺すことでアリスの野望を打ち砕くことが出来るのだと。それ以外の道は無いのだと。

 もう僕はロレントさんに何かを期待するのをやめた。

 結局彼もアリスに絡め取られてしまったのだ。彼女に対して完全に服従の姿勢を見せている。牙を抜かれた彼は頼りにならない。

 彼だけじゃない。ここにいる全員がそうだ。レジスタンスは完全にアリスの手下になってしまった。

 ……僕がやらないと。 

 出席している人間はもちろんのこと、仲間たちにも気取られないように、僕は強く拳を握り締めた。

 



『――その階段の先に兵士が隠れている。注意しろ』


 昨日の会議から一夜明け、レジスタンスは突入作戦を開始した。

 他の突入組が伏兵や罠に手間取る中、僕たちだけが最短ルートで白銀城を突き進んでいた。 

 もうパーティの誰もが神の声を疑わなくなった。

 初めて入るこの城の兵士の配置を完全に知り尽くしているのだ。もう疑いようがない。

 ……今更そんなコトはどうでもいいのだが。

 神の言う通り物陰に潜んでいた兵士に先制攻撃を食らわせる。

 そもそも僕たちと彼らとの間には歴然たる力量の差があるのだ。

 どこに誰が何人潜んでいるのか、それさえ分かっていれば挟撃を受ける心配もない。僕たちは苦もなく彼らをなぎ倒していった。


『この部屋には宝箱が幾つかあるが、兵士も待ち構えている。今は彼らを相手にしている時間が勿体ない。速やかに皇帝の待つ部屋へ向え!』


「あぁ、もちろんだ!」


 確かにお宝は魅力的だけど、欲をかいている内に誰かが先に皇帝を確保したら、意味がない。

 誰よりも先に皇帝の元に辿り着き、彼の首を落とす。今はそれだけを考える。

 これ以上アリスの思い通りにさせない!



 この半年の停戦期間の間、僕たちは腕を磨き続けた。

 あの屈辱を繰り返さない為に。

 結局あの親衛隊長のシーモアとかいう男は剣を抜くことなく、僕たちを一瞬で倒した。

 不意打ちを食らった僕はともかく、素手同士の戦いに自信があるトパーズまでもが簡単に沈められたのだ。相当な腕前なのは間違いない。

 挙句アリスにコケにされた上、取引材料として使われた。

 もし僕たちがあんな失態を犯さなければ、彼女がここまで増長することもなかったはず。

 ……あの悔しさは絶対に忘れられない。 


『この先が謁見の間だ。そこに皇帝がいる!』


 神の声が興奮気味に上ずっていた。

 ようやくだ。ようやくこの時が来たのだ!

 僕たちは立ち止まることなく一気に大きな扉を蹴り開けた。



 ――広い部屋だった。

 玉座に腰掛け、震えている男がいる。

 ……あれが皇帝、なのだろう、か。

 言い方は悪いが小物だった。

 この巨大な帝国の支配者とは思えないぐらい、貧相だった。

 ロレントさんやテオドールさんの方が余程風格を感じる。

 彼の脇を固めているのが親衛隊だろうか。

 十人近くいる。人数的にはこちらが不利か。

 彼らが背筋を伸ばして控えていた。

 ……そして皇帝のすぐ横にいる仮面の男。――シーモア。

 彼は広間に入ってきた僕たちに向き直ると、どこか気だるげなゆったりとした足取りで近づいてきた。



 僕たちは警戒して武器を構えて腰を落とすが、彼は剣を抜くどころか構えもしない。


「……ある男がいた。その男は帝国中から嫌われようとも一族の誇りを胸に帝国を支え続けた」


 しかも、いきなり何か脈絡のない話を始めた。 

 おそらく宰相のことだろうと想像できるが……。

 この前やりあったときもこんな感じだった。

 こちらの都合などなど関係なく、話したいことを勝手に話す感じだ。


「そんな彼が晴れやかな笑顔を見せて『もう諦めた』と言ったのだ。……どういう意味だと思う?」


「知ったことか!」


 僕は吠えた。

 こんな話をしている時間などない!

 いつ他の者がここに到着してしまうかもしれないのだ。

 僕は彼を急かすように剣を突き付けた。

 ――さぁ、来い!


「……あぁ、そうだ。彼もそう言った。……『もう自分の知ったことではない』と」


 しかし何故かシーモアは全く戦う気を見せずに会話を続けた。

 全くかみ合っていないが、彼は僕の返事に我が意を得たりと言わんばかりに頷いている。頭がおかしくなりそうだった。


「……それでも、残されている人間の為に一応それなりの準備はしておいたと力無く笑うのだ。……一方で自害用の薬を密かに手に入れておきながらな」


 シーモアが天を仰ぐ。

 全身から力が抜けてくるのを感じた。

 さっきからこの男は何なのだ。……何が言いたい? 

 おまえは一体何がしたいのだ?


「……彼は()と戦っていたのだ? あらゆる人間を敵に回してまで。……彼は一体()がしたかったのだ?」


 だからそれは僕の言葉だ!


「そんなこと、分かるわけないだろう! 早く構えろ!」


 僕は再び吠えて、剣を構えた。




「……少し遡るが、まだ停戦していた頃の話だ」


 しかしシーモアは関係なく続ける。……もう好きにしてくれ。

 僕は力なく剣を下ろした。


「パールと名乗る娘があっさりとこの白銀城に潜入してきてな。敵意を見せないまま俺の背後まで近づいてこう言った。……『陛下からの伝言があります』とな」


 横にいたサファイアがその名前に反応してピクリと体を震わせた。

 停戦期間とはいえ、この城に単独で潜入するなんて……。

 しかもあっさりと彼の背後を取るとは。


「女王に言うには、俺が再びお前たちと対面しているその頃、今まで国を支えていた彼が全てを諦めて死を望んでいるかもしれないと」


 今がまさにその状況だろう。

 彼も毒を用意していると言っていた。


「女王の名において絶対に彼を死なせたりはしないから、俺はこの場に留まり職務を果たせと。……約束を破り、皇帝陛下の首を刎ねに来る賊を迎撃せよと」

 

 ……この僕を賊だと?

 そんなことより、やはり彼女は僕たちの考えなどお見通しだったらしい。

 当然だろう。

 ――()()()()()()()()()()()()()()


「俺はこの国に来てから色んな人間に会ったが、彼程信じられるような人間はいなかった。……だが今は彼女も同じぐらい信じてもいいのかも知れない、と思っている」


 言いたいことを言い終えたのか、彼は一歩こちらに踏み出した。 




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