第一話 根幹世界と果実世界
説明フェイズが続いてしまう…
「えぇっと…狐神 黒君でいいんだよね?」
俺はひとまず身体だけもらった。このままプニプニされ続けると俺も男なので反応してしまう。いや反応する身体がなかったのだが。
それでも心のどこかで思えば感じ取られるだろうし、それで気分を害してしまい、養分にされるのも癪というものだ。
新しくもらった身体と言っても、生前と同じにしてもらってこっそり、本当にこっそりと身長を3センチ伸ばしてもらった。本当にそれだけだ。
黒髪黒目、普通の日本人ですね。悲しい事に。
目の前の少女はと言うと銀髪に輝くほどの黄色の眼、金色かと思ったのだが、違うと否定された。
「そ、は、はいそうです」
そうです、とはいが一緒に出ようとして第二の人生の第一声は非常に残念な物だった。
「気にしなくて結構ですよ。人前で喋るのは非常に苦手というのは理解してます」
その通りだ。唯一採用された会社での面接も緊張しすぎて何を言っているのか自分でも分からないくらいに。
まぁ、結果出席率と態度しか見られてなかったわけだが。
ははは、我ながら泣けてくる。
しかし、自分よりも小さく若そうな少女にフォローされても、ただひたすらにむなしくなるだけだ。
「しかしまぁ困りましたね」
そう言って初めて、ほんの少しだけ困ったような顔を見せる
あぁ、その顔もかわいい。間違いない。
しかし何に困ったと言うのだろうか
「問題となる場所に向かってもらい、話し合いや、状況によってはみなご…ではなく肉体言語での話し合いをしてもらおうと思っていましたので」
確かに、話に来たやつが、変に緊張して話せなかったらそれこそ無意味というか、相手になんの影響も与えない。
「な、な、なるほど。っぐ、具体的にどどんな話をしたりするんです?」
幼女相手に噛みまくる18歳ってなんだ。いや、俺なんですが。
話す内容を決めていてもいざ、口だそうとすると言葉に詰まる。
今でもこの巨木の雰囲気と幼女のかわいさに緊張して、なんて返せばいいのかと考えるだけで俺の思考の95%を使っている。
「そんな事より、なぜ行かなくてはならないのかと言う話をしましょう」
コホンと、少し間をおいて話し出す。
「世界の仕組みですが、世界樹の権限を持つ者がその魔力を流し、枝を通して世界と言う果実に魔力と言う栄養を与えます。この世界を果実世界と呼んでいます。そして、世界が世界と言えなくなった時…」
世界がゲシュタルト崩壊しそうだ…。
彼女が指を指した先にあった茶色く色褪せた果実。
「数年前、とある事件により世界樹の権限が私に譲渡されました。その結果若い私が内包する魔力の量が、前の権限者よりも圧倒的に少ないため、世界の数を減らす事で何とか形を保とうとしたのです。あなたの世界もそれに巻き込まれたのです」
なん…だと?
いや、ふざけているわけではない。本気で言っている内容が理解できなかった。しかしこの巨木が世界樹となると、彼女はその権限を持っている…世界を作る事と…さっきも言った減らす、すなわち壊す事になるのだろうか。となると、あの果実があんな小さい、いや、果実にしては大きいのだが、直径2メートル程度の物が、俺の住んでた世界だっていうのかよ。
「これは世界樹を外から見た物を私たちの世界に投影しているだけです。そのためかなーり小さく見えています。触れることはできますが、干渉することは不可能ですよ?それに、この場所もこの巨木の内部ですから」
よかった、あんな小さな実に押し詰められていたのだと思うとゾワっとする。いや、宇宙が実は木の実の中でしたって話もゾワっとしたけどさ
「この場所根幹世界ヴァナヘイムに存在する魔力は、世界樹が吸い上げた魔力。しかし世界樹が吸い上げた魔力はこの場所に留まる以上の事をしません。したがって各世界に送るのは私の仕事と言うわけですね。そして、各世界の魔力は私の魔力。つまり有限です、使えば減るし、使わなければ徐々に溜まっていきます」
やはり理解できなかった使えば減るのは分かる。でも、俺のいた地球では魔法なんてもの…俺のいた…地球…では?
「気が付きましたか?他の世界も元をたどれば私の魔力です。一つの世界が消耗すればそれを埋めるように魔力を注いで元に戻そうとします。結果他に回す魔力がなくなって、ボトンです」
「な、なぁ、消耗した世界を放置することはできなかったのか?一つの世界を助けるために、他の世界を犠牲にするって…おかしいだろ」
さすがに頭に来た。自分の住んでいた場所が、友人が、家族が、他の誰とも知らないやつのせいで消えてなくなるなんて俺は許せない。
「残念ですが…、私共にも優先させて残したい世界があります。例えば…戦争ばかり繰り返し進歩がない世界と、共存の道を歩み素晴らしい発展が見込める世界。どちらを残すか…考えるまでもないでしょう。これが管理機構の総意です」
ですが…と少女は続ける。
「私は、可能ならこれ以上落としたくありません。力不足でこのような状況にしてしまっている私が言えたことではありませんがね」
なるほど見えた。世界樹の権限を持つこの彼女は、管理機構とは別に俺と言う存在を使って落ちそうな世界を助けろって事か。
面白くない…俺の世界を壊しておいて、他の世界を助けろだと。
「か、、仮に俺がたっ助けになったとして、俺の世界は元…に」
「戻りませんね」
やっぱりか、まぁそうだよな。
「不可能ではないですがね」
おいおいまじかよ。戻るのか?
「あなたがひたすらに私に力を貸し続け、その時になったら考えましょう」
戻してくれるのか?俺の人生を…あ、でも俺の人生の続きって職を無くして電車で帰る所からじゃん。
しばらくは戻らなくていいや。
「では、あなたには残り74世界全ての現地派遣部隊…と言っても今は1人です。他のメンバーはあなたがスカウトしてください。コホン現地派遣部隊として、この場所ヴァナヘイム中枢から各世界にぶっ飛んでミッションを遂行してもらいます。とりあえず、残りの話は現地の担当にお願いしますので、まずは移動してください」
最初の無表情から一転、今ではニコニコと少女の笑顔をいただいている。
「さ、最初見た時より…その…わわ、笑ってますね」
「はい、亡くなったお兄ちゃんと話しているようで楽しくてつい」
彼女の最高の笑顔を見た瞬間、俺はまた別の世界の砂浜に立っていた。
次回更新は三日後予定