プロローグⅠ
白く巨大な樹の枝の先で、茶色く色褪せた果実がゆらゆらと振れる。
その振れは徐々に大きくなって行き、その枝から身体が離れた。
1分…2分…徐々に加速しながら、さらにその数分後にゴトリと大きな音を立てて下に落ちた。
「また一つ、落ちましたね」
凛々しくも若い女性の声が小さく消える。
この樹が植えられている空間は高さは人の目には確認できず、奥も巨大な樹が邪魔をして見えず、横の幅はというと、数百メートルはあるではないだろうか。
その空間の手前に白い木製の丸テーブルと、座り心地のよさそうなクッションが敷かれた、テーブルと同一素材の簡素な椅子が八つ置かれていた。
その内、使われている椅子は二つ、先ほど声を発した女性と、まだ小学生とも見える小さな少女。
「そうですね…。しかし、まだまだ落ちるでしょう」
カタンとティーカップが小さな音を鳴らし、机に置かれる。
「少なくとも、現在ある74の果実。その半分は落ちるでしょうね」
その言葉に何も感情がないのか、顔色一つ変えずに淡々と告げられる。
女性は小さくため息をついて消え入る声で「すまなかった」と漏らした。
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あーやべぇ。なにがやばいってさ。
今日入社式なのね、そう社会人一年目っていうか一日目?になるのかな。
そんな日に、寝坊をした。
いや、別に夜中まで遊んでいたわけでも、友人と酒を交わしていたわけでもない。
ただただ緊張していた。
明日、何を話せばいいのだろうか。どうすれば新しい環境で打ち解けられるだろうか。
そんなことを考えていたら時間は夜中の4時を回っていたのだ。
時間は10時00分から、
最悪9時に起きれば間に合うと言い聞かせたにもかかわらず、目が覚めたのは45分。
もちろん9時45分である。
あわてて会社へ電話をし、遅刻してしまう旨と後はただただ平謝りだ。
「謝ってる暇があったら用意して早く出席しろ」とおしかりを受けたので、
身支度を整えタクシーを呼んだのだが…。
普段では考えられないくらいの渋滞。車が数分経ってようやく信号一つ越えられるくらいかと言うところだった。
そんなこんなで約2時間ほど遅れての出席となった。
まぁ…そのなんだ。要約すると
①こんなに遅くなるとは思わなかった。
②高校の時の出席率、態度が良かったと聞いていたから採用した。
③初日から私の面目を潰してくれたな。
と言うことで来た道を戻っている。
平たく言うと社会人初日で無職と言う奴ですね。
俺、どうすればいいんだろうか…と電車に揺られながら考えに耽っていた。
ガタンゴトンと小さく揺れる度、目線が自然に上がってしまい言葉にできない気持ちが溢れる。
「何でこんなことに…」
そう小さく呟くと、電車はそれに反比例し大きく揺れた。
その瞬間、俺の見ていた世界は、緑で、自然で、鉄で、建物で、人で溢れている世界は全て黒く染まっていた。