プロローグ
「お、俺は諦めないぞ!」
男はボロボロの体に鞭を入れ女性に手を伸ばすが女性はそれを拒否する。
「貴方には感謝しています。しかし、ここまで進んでしまうと元に戻ることはできません」
「だが、それは理論上のことだろう!?」
「……今の私にはわかります。この理論が最初から間違っていたことを」
「くっ!」
男は床に拳を叩き付ける。
「自分を責めてはいけません。すべて私が悪いのです。周りの声を聞かず研究を続け大切な人まで失ってしまった」
「でもあんたは……」
「それは娘のため。でも禁忌を侵し、人を殺したことは事実です。神が禁忌を認めてもその事実は変わりません」
「そろそろ殺してください。暴走して無差別に攻撃をしてしまう前に」
「それでも俺は!」
男は再び床に拳を叩き付ける。
「確かに貴方にはできない。貴方がこの潜入捜査で研究所に入ってきたときからわかります。研究のために魔物を殺すことを躊躇うぐらい優しい貴方は……私みたいに誰かに騙され罪を犯し、最後は捨てられる人を殺すことは」
「……」
「逃げなさい。貴方には帰りを待っている人がいる。こんなところで死んではいけません」
「……」
「最初からこうなることはわかっていました。だから貴方が手を汚すことはありません。それは……魔力が暴走すると同時に自爆魔法が発動するように禁忌魔法に付け加えておきました」
「!」
男は驚愕した。なぜなら、研究時の魔法陣にはそのような記号や文字は無かったからだ。
「最後の教えとして禁忌魔法は1度でも成功してしまえば陣を付け加えても発動します。ということは付け加えた陣も普通に発動します。昔の人は成功したら誰も成功した研究をしないから気付かなかった」
「本当に逃げ……ナサイ」
彼女の魔力が膨張し始め、僅か数秒で元の数倍になった。
「ハヤク……ナサイ!ハヤク?ハ…ヤク?」
直後、神級並みの爆発が起こり、研究所とその周辺は焼け野はらになる。
しかし、幸いのことに死人は1人だけだった。研究所にいた彼女のみ。男は再び彼女に救われたのだ。
彼女は自爆魔法の他に転移魔法まで付け加えていたのだった。男が爆発に巻き込まれないようにするために。
その後、男が目を覚ましたのは国立病院のベッドの上だった。
彼女とこの男しか知らないお話。