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エピローグ

 彼と出会った記憶がどんどん薄れていく……。


 そうか。


 彼が言ったことはそういうことだったんだ。


 よって私は前世……ではなく、現代に戻されるかけているんだよね。



 *



 私は今、学校の屋上におり、手すりに向かって足を震わせながらゆっくりと歩いていた。


「友梨奈!」

「木野さん!」

「木野!」


 たくさんの人が私のことを呼んで、バタバタとどこかへ向かって近づいている。

 それに対して、私は無視して不安定な歩き方で少しずつ手すりに近づいていく……。


 そして、手すりに跨いだ時、誰かにがしっと右足首を掴まれた感覚があった。


「友梨奈、止めようよ……」

「……聡……」


 私はそこから視線を上げると聡が立っている。

 彼はいつもの優しい笑顔から悲しそうな表情をしていた。


「友梨奈……死なないで……」

「お父さんとお母さん、友梨香ちゃんが悲しむよ?」


 凪と早紀も少し離れたところから私に声をかけている。

 彼女らの後ろには早川先生と3年6組全員も姿を現していた。


「木野さん、ウチのせいでごめんなさい。ウチ、ちょっとヤキモチを妬いてたから……」

「俺からも木野のことを「カンニング女」とか言って悪かった」

「僕も一緒に楽しんでた。ごめんなさい」


 篠田さん達が私に謝ってくる。

 謝るのはいいけど、みんながいる前で土下座は恥ずかしいよ。

 とは言っても、他のクラスメイトも深々と頭を下げていた。


「友梨奈、わたしも死んでほしくないよ」

「あたしも」

「僕も」

「木野さん、私は頼りない先生だけど、何かあったらちゃんと教えてほしいな」


 柚葉、白鳥さん、松井くん、早川先生も……。


「もっと……生きたい……」


 気づいたら私の顔には涙が頬を伝っている。


「生きて……いいんだよ」

「えっ!?」

「みんな、謝ってるじゃん」


 私、頭を下げているみんなを許したい。


「こっちだ!」

「ここにマットを準備しろ!」


 男性の先生達が慌ただしくふかふかしたクッションみたいなマットを持って、屋上に駆けつけてきた。

 そして、下にも同じようにマットが準備されている。

 そちらは高等部の生徒が準備をしているようだった。


「木野、ここと下にマットを敷いたから痛くないぞ」

「……ありがとうございます……みんな、顔を上げて!」


 私はそう言って屋上に敷いてあるマットに転がる。

 頭を上げたみんなは私を見守っていた。


「みなさん、ご心配をかけてすみませんでした……。そして、ごめんなさい……」


 私はそれに腰をかけ、彼らと同じように頭を下げる。


「もう、友梨奈は頭を上げなよ!」

「そうだよ!」

「友梨奈が辛いなら辛いって言っていいんだよ?」

「ボク達は友梨奈ちゃんの味方だしね。ねー、まひろちゃん」

「うん!」


 私が頭を上げると、柚葉、聡、凪、早紀、白鳥さんが笑顔を見せていた。


「まぁ、俺らは木野の立場を考えられなかったけど、荒川達が「もう止めよう」って言ってくれた。それで、みんなで木野の立場になって話し合ったんだ」

「木野さんの辛さは私達も分かってるからね」

「これからはあたし達を頼ってもいいんだからね」


 他のクラスメイトが口々に言うと、みんなで「木野さん、生きてくれてありがとう!」と照れくさそうに声を揃えて私に言ってきた。


「ありがとう!」



 *



 今までのことはきれいに忘れ去られてしまったけど、私はこうして、現代に生きている。


 みんなで私を止めてくれていなかったら、普通に自殺してさよならをしていたかもしれない。


 これから、楽しいことばかりではない。

 また、今回みたいなことが起きる可能性があるかもしれない。


 今までの私は「辛い時は辛い」と言えなかった。

 しかし、今の私ならその言葉が言える気がする。


 生きている時は楽しいことも辛いこともあるから、何が起こるか分からない。


 でも、これからはみんなで支え合いながら楽しく生きていこうと私は胸に誓った。

2016/08/13 本投稿

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