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#49

 翌日……。

 今日で私、「木野 友梨奈」及び「野澤 結衣」として生きることができるのはあと少し。


 ママが作ってくれた最後の朝ご飯を味わって食べる。


「ごちそうさまでした」


 私は椅子から立ち、使った食器を片付け、洗面所で身支度を整えた。


 ママが「忘れ物はない?」と言われ、「ありませんわ」と答える。

 その時、パパが「……結衣ちゃん……」と少し戸惑ったような声で私を呼ぶ。


「なんでしょう?」


 私はその呼びかけにすぐさま反応した。


「友梨奈の楽器(クラリネット)を使ってくれてありがとう」


 パパはなぜか嬉しそうな口調で私に話す。

 私は分からずに「おじさま?」と訊いてみた。


「これからも頑張ってほしい。友梨香と友梨奈が喜んでくれてると思うからな」

「ありがとうございます。わたくしもそう思いますわ」


 友梨奈(わたし)は嬉しいよ。

 パパが私が吹いていた楽器を遺品として残しておいてくれたおかげで、転生した今の私が吹いているんだもん。

 本当にパパには感謝してるから――。


「これから、朝練なんだろ?」

「えぇ」

「気をつけて行ってこいよ」

「ハイ。行ってきます!」

「「行ってらっしゃい!」」


 私は両親に見送られ、学校に向かって歩をすすめた。



 *



 今まで歩いてきた通学路。


 コンクールや定期演奏会の前によく自主練習として使ってきた公園。


 あっ、あそこのパン屋さんのバタースコッチとメロンパン、美味しかったな……。


 思い出しただけで胸を締めつけられる。



 *



 いろいろと思い出しているうちに学校に着いてしまった。


 別室で楽器を組み立て、私は音楽室に向かう。


 私が「おはようございます」と言うと、まずは後輩達が、そのあと同級生が挨拶してきた。


「時間がくるまで、自主練習をお願いします!」

「「ハイ!」」


 数10分後、朝練の時間が終わり、楽器を片付け、それぞれの教室に散る。


 私の命の砂時計は少しずつこぼれ落ちていく――。



 *



 授業はどんどん進んでいき、今日の3時間目からの授業は「人権作文発表会」となっている。

 午後の2時間で35名全員、発表できるわけがないと先生が判断して3時間目からになったのだろうか?


「宿題の作文の発表をしていくよ。出席番号順で行くからなー」


 先生がそう言うと、周りから「いつも、1番からじゃないですかー?」とか「1番最後からはどうですか?」といった声が挙がる。


「野澤からだと可哀想だろ。彼女は転校生なんだから。1番から出席番号順で!」

「「ハーイ」」


 出席番号順ということは私は1番最後?

 嫌だよー……。

 恥ずかしいよー……。


「じゃあ、青木から。教壇の前で発表をお願いする」

「ハイ――――」


 こうして、作文の発表会が始まった。



 *



 休憩やお昼休みを挟みながら、1人ずつ教壇に立って自分で書いた作文を読み挙げていく………。


「――――じゃあ、最後。野澤、お願いします」

「ハイ」


 私は教壇に向かうと、1度深呼吸をし、原稿用紙を開いた。


「『 私には大切な従姉妹(いとこ)をいじめによる自殺によって亡くなりました。

 最初はクラスの男子生徒から消しゴムをちぎられたものを毎日のように彼女に向かって投げつけられたところから始まったみたいです。

 そこから、彼女の机の中にゴミを入れられ、「死ね」や「学校にくるな!」と書かれた机。

 あなたはどう感じますか?』」


 私は作文の冒頭部を読み上げる。


「それって……俺のこと?」

「僕のことじゃん」

「……野澤さん……」


 クラスメイトが真剣に私の発表に耳を傾けていた。


「『 その時、彼女は辛かったと思います。なぜなら、彼女は相談したくても、いじめはどんどんエスカレートしてくると思ったからだと私は考えています。

 相談したら、さらにいじめられる。大切な友達がそれによって奪われてしまう。

 彼女は先生や家族の前ではいつも通り、ニコニコするようになり、辛い日々を送ってきました…………。』」


 あれ? なんだろう……。

 涙が溢れているのかな?


「『 そして、いろいろと考えているうちに、彼女の存在価値はないのだろうか?

 自分は生きていても意味がないのだろうか?

 私達、人間には限界があります。

 私はもちろんのこと、みなさんも限界を感じることがあります。

 そして、彼女は五月の月末にわずか十四歳という若さで「死」を選びました。』」


「野澤さん、友梨奈ちゃんはそう思ったのかな?」


 私が作文を発表している間に、1人の女子生徒が質問してくる。


「えぇ。この話は彼女の両親から伺ったお話ですわ……」


 私はそう答えておいた。

 本当は私、「木野 友梨奈」の実話で話が進んでいるのだ。


「そうなんだ……」


「野澤、目が赤いぞ? 無理なら読むのを止めてもいい。あとは先生の心の中で(とど)めておく」

「先生……最後まで……読みたかった……ですが……もう……」


 私の目から涙がぽろぽろと頬を伝う。


「まとめに入りなさい」

「……ハイ……」


 私は原稿用紙の最後のページを捲った。


『 いじめられた人は心に大きな傷を負います。

 いじめた人もなぜ、そのようなことをしたんだろうと後悔するする時がいずれくると思います。

 ヒトは一人では生きていけません。誰かの支えがあるからこそ、生きていけるのではないか。

 また、みなさんで声をかけ合うことだけでも、支えになる人がきっといるはずです。

 私がこのように声を挙げでも、いじめはなくならないと思います。

 みなさんで支えあって生きていきましょう。』」


 言いたいことはある程度、発表することができた。


「うわーん!」


 私は泣きながら原稿用紙を投げ捨てる。

 教壇付近の席にいる柚葉がそれを拾った。


 本当は最初から最後まで発表したかった。

 みんなに私のこれまで思ってきたこと、感じたことをすべて伝えたかったのに。


 次の瞬間、教室から拍手が沸き起こる。


「結衣、頑張ったね」

「野澤さん、木野さんの気持ちが伝わってきたよ」

「木野は辛かったんだな……。俺も篠田みたいに土下座したいよ。野澤さん、木野、ごめんなさい!」


 みんなの声が私の耳に届く。

 それは私の心にも届いていた。


 みんなに伝わっててよかった。

 これで安心して私は()けるよ……。


 あとは部活の演奏だけ。


 私の命の砂時計はあと少ししか残っていないけど、みんなで楽しく演奏して――――。






 さよならしよう――――。

2016/08/12 本投稿

2016/08/12 修正

2016/10/02 後書き欄の「次回更新予告」の削除

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