#4
私と柚葉が今日から1年間過ごすことになった3年6組の教室に入った時、クラスのほぼ全員がきょとんとした顔で私達の方を向いている。
それは当たり前だ。
彼らは私はもちろんのこと、柚葉もはじめて見る顔だったりするのだから。
「「おはよう」」
私達は勇気を出して、彼らに挨拶をしてみる。
「お、おはよう」
「おはよ」
と挨拶を返してくれたので、何気にいい人達なんだけどなぁと思っていた。
*
始業式が終わり、2週間が経過したある日。
ついに、3年生の一部で流れていた噂と私の予想は見事に当たってしまったようだ。
緊張感があったのは最初の1週間だけだった。
「ハーイ。みんな、席に着いてー。朝の学活を始めるよ」
教室に私達のクラスの担任である早川 瑞恵先生がチャイムと同時に入ってきた。
早川先生は教師になってまだ5年目と若い女性の先生なので、生徒との年齢が近いからということもあり、絶大な人気がある。
また、彼女は家庭科の先生なので、常にポケットに可愛い刺繍の入った白衣を着ている。
ほとんどの生徒は自席に着いているが、一部の生徒は先生の言葉を無視し、ずっとおしゃべりをしたり、化粧をしたりしている。
「そこ、おしゃべりと化粧を止めてねー」
「ハーイ!」
「分かりました!」
「ハーイって言った割にはまひろは化粧してるー」
「ちょっとー。人のこと言えないじゃん」
元気よく返事をするものの、再びおしゃべりや化粧を再開する。
もしかして、この光景がよくテレビのニュースとかで見かける「学級崩壊」というものの前兆だろうか?
いや、まさか、違うよね?
私がそう思っていた次の瞬間、突然、後ろの方から消しゴムをちぎったものが私の肩に当たった。
「痛っ! 誰がやったの?」
私は後ろの方の席を見回す。
「俺じゃないもーん」
「僕じゃないし」
「あたしら、なーんにもしてないよ?」
「ウチやまひろは何もやってないよ」
「「ねーっ!」」
化粧をしていた女子達は筆箱すら机に出ていなく、化粧用具やファッション雑誌で埋め尽くされている。
「消しゴムをちぎって投げるのはやめなさい!」
早川先生も注意するが、ちぎられた消しゴムは私の方にめがけてどんどん投げつけられる。
「ねえ、木野さんに向かって消しゴムを投げるのはやめようよ! あと、先生がいるんだから、おしゃべりと化粧も!」
学級委員長の松井 勇人くんが彼らに向かって注意する。
「そうだよ!」
「騒いだり、化粧するんだったら他のところに行けよ!」
「あなたたちがいるから迷惑なの!」
「おまえらのせいで俺らまで落ちこぼれだの余り物だのと言われてるの知ってるだろ!?」
「おまえら?」
「そうだよ! おまえらがいるから、迷惑なんだよ!」
「黙れ!」
「おまえは引っ込んでろ!」
3分の2以上の優等生に近いクラスメイトとごく一部のクラスメイトが言い争いを始めた。
私は視線を逸らし、下を向いていた。
そして、数秒間俯いていた時、柚葉は早川先生のところにおり、何か話しているようだ。
先生は彼女に「行ってきなさい」と――。
「友梨奈、ちょっといいかな?」
柚葉は私のところに近づき、声をかける。
「うん?」
私は何も知らずに答え、柚葉と教室を出て、どこかへ向かって歩を進めた。
*
私は柚葉に連れられてきた場所は誰もいない図書館。
「友梨奈、ごめんね。突然、教室から連れ出して」
「いいよ」
「ありがとう。ちゃんと先生に許可を得たから大丈夫」
「先生と何を話してたと思いきや……」
「ところで、その……。大丈夫? 辛かったね……」
「うん……」
柚葉は私をそっと包み込むようにこう言ってくれた。
「わたしはいつでも友梨奈の味方だからね。何かあったらなんでも言ってね」
「柚葉……」
「なんか、かっこいいことを言ったと思ってるかもしれないけど、本心だからね!」
「……ありがとう……」
私は凄く嬉しくて、ずっと堪えていた涙がついに頬を伝う。
「どういたしまして。いっぱい泣いてすっきりしてから教室に戻ろう?」
「そ、そうだね」
柚葉は私が落ち着くまでずっと一緒にいてくれた。
2015/12/12 本投稿
2016/01/31 改稿
2016/02/02 改稿