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#48

「じゃあ、結衣は友梨奈が座っていた(とこ)でもいい?」


 山本先生が私に問いかける。

 まぁ、席はどこでもよかった。


「ぜんぜん構いません」

「なら、決定だね。ところで、譜面は余分にコピーしてなかったな……。友梨奈の譜面でもいいなら、今日はそれで勘弁してほしい」

「ハイ」


 さっき、吹いた曲の譜面のまま自分で片付けたんだったっけな。

 今まで使ってきた譜面、メトロノーム……。

 私の存在がなくなったら、すべてなかったことになってしまうのかな?

 過去のコンクールや定期演奏会の時の写真しか残らなくて徐々に私のことを忘れ去られてしまうのかな?


「結衣先輩っ。あたしは忘れませんよ? 友梨奈先輩のこと」


 私の右隣に座っている同じパートの2年生の後輩が何かを諭したかのように話しかけてきた。


「そうだよー。ボクたちは友梨奈ちゃんのこと、忘れないよ!」

「あたしも!」

「わたしも!」


 早紀達もそう言ってくれている。

 私、みんなに何にも言っていないのに……。

 周りをよく見ると、山本先生はもちろん、同級生も後輩達も頷いている。


 最初はいじめがきっかけで同級生に裏切られて自殺した私。

 私の死を受け入れてくれそうだと思ったのは家族くらいだと思っていた。

 みんな、友梨奈(わたし)のことなんかすぐに忘れるかと思ったから、嬉しかった。


「なんか湿っぽい雰囲気になってるから、合奏でもしようか。今年のコンクールの曲の『ロス・ロイ』を!」

「「ハイ!」」


 私は友梨奈の譜面入れからその曲を探す。


 その楽譜はまだまだ印も何もついておらず、強弱記号にマーカーで線が引いてある程度だった。


「結衣ははじめてかな? 楽譜見ながらついてきてね」

「分かりました」


 何回か譜面見て、重要なところを書き込んだりしていく。

 そして、演奏に加わり、分かるところだけを中心に吹けたかなと思ったところで今日の部活が終わってしまった。


「みんな、お疲れ様。気をつけて帰ってね!」

「「お疲れ様でした!」」



 *



 私は楽器を片付けて速やかに校舎をあとにする。

 今日はまっすぐ家に帰るわけではなく、近くの公園で練習。


 みんな、確実に上手くなってきているのに、私だけ下手なのは嫌だから――。


 私の残された時間はあと1日しかない。

 ある程度上手くなってから、さよならしたいな……。


 今まで、この学校でともに過ごしてきた時間は2年間は楽しい思い出に満たされていたけど、3年生になってからは辛い思い出しかなかった。


 ジャスパー先生に出会わなかったら、今みたいにみんなと話したりすることができなかったし、いじめの張本人を探すことはできなかったと思う。


 なんだかんだ言って、この2日間はいろいろとバタついたけど……。


 あと、みんなに伝えたいことは国語の授業の時の作文にたくさん書いたから、それを発表できれば、もう後悔はない。



 *



 よし、もう家に帰ろう。

 パパとママが心配しちゃうと大変だから。


 私は楽器を片付けて落としたものがないかを確認してから家に帰った。

2016/08/11 本投稿

2016/08/11 修正

2016/10/02 後書き欄の「次回更新予告」の削除

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