#47
午前中は45分の短縮授業なのに、今の私にとっては1時間1時間があっという間に過ぎているように感じていた。
体育のクラス混合でやったバレーボールも苦手で退屈な数学も何もかも――。
4時間目の理科の授業ではヒトの誕生についての授業を再度受けさせられた。
何度も思うけど、ヒトが誕生することにはいつも感動する。
私達、ヒトはこのように生まれてきたんだなとつくづく感じられた。
私に残された時間はあと1日と半分。
*
時は流れ、その日の放課後……。
「まひろさん、すみません」
私は白鳥さんの席に着くと、彼女に向かって頭を下げた。
「どうしたの? あたし、何も悪いことをしてないけど」
一方の白鳥さんはぽかんとした表情をしている。
私が突然、そのようなことを言ったので、「まぁ、頭を上げなよ」と言われてしまった。
「すみません。わたくしはやはり、吹奏楽を続けたいのです!」
「え?」
「ずっと、吹奏楽を続けるか、他の部活に入るかで迷っていたのです」
まだ、ぽかんとしている彼女に私がこのクラスに入って1番最初に話したことを口にする。
「あぁ……部活ね。結衣は演劇とかより吹奏楽の方が似合うよ」
「ありがとうございます」
「ところで、入部届は出したの?」
「実は今日の朝、出そうとしましたが、誰もいなくて出していませんの」
「そうなんだ」
「結衣、まひろ、いたいたー」
私と白鳥さんが話している時に柚葉が私達のところに駆けつけた。
「今日は部活の見学だぁ!」
柚葉が元気よく言うと、白鳥さんから「柚葉、その必要ないってー」と話す。
「結衣、本当なの?」
「わたくしは入部届を出していませんが、吹奏楽部に入りたいのです」
「そりゃ、朝から誰もいない音楽室で去年のコンクールで演奏した曲を気持ちよさそうに吹いてたからねー」
「そうなの?」
柚葉がからかったような口調で話すと、そこだけ笑いの渦が沸き起こっていた。
「その曲は友梨奈さんが好きな曲でしたの」
「本当に? 友梨奈も友梨香も凄く苦戦してたって話を聞いたからさ。あまり好きじゃなかったのかなと思った」
「えぇ。わたくしは1度聴いたことがありましたので」
確かに、その曲は私と友梨香はずっと指が回らずに苦戦してたけど、慣れてくると凄く愛着がわくというかなんとやらだけど。
「そうだったんだ。入部届はまだ出してないよね? おそらく、先生は職員室にいないと思うから、直接音楽室に行って出した方がいいね。わたしもそろそろ行くから一緒に行こう」
「えぇ」
「なら、あたしは用なしだから帰るね。バイバイ」
「また明日」
「バイバーイ!」
白鳥さんが手をひらひらさせながら、教室から出て行く。
「わたくし達も行きましょうか?」
「そうだね」
彼女に続いて私達も教室から音楽室へ移動した。
*
「「こんにちは」」
音楽室に入ると、懐かしいメンバーが出迎えてくれる。
「こんにちは。柚葉、一緒にいる人は見学者?」
吹奏楽部の顧問の先生である山本先生が柚葉に問いかける。
そういえば、山本先生の声を聞いたの久しぶりだ。
彼女は基本的には生徒の下の名前で呼び、同じ名前だとフルネームで呼んでくる。
「ハイ。クラ(注・クラリネットの略)の経験者です」
「本当? 1人抜けたから少し音が寂しくて……」
柚葉が先生に私が担当していたパートの経験の有無を話している。
「先生、入部届を出してもよろしいでしょうか?」
「ん。みんながいる前だけど、いいよ。クラ経験者の野澤 結衣ちゃんか……」
確かに、ここにはたくさんの部員がいる。
これだと、公開入部届提出及び公開入部じゃん!
先生が入部届を受け取ると、私の転生したあとの名前を「ちゃんづけ」で呼ぶ。
「先ほどの全校集会の時に壇上に上がったので、覚えていらっしゃる方が多いと思います。野澤 結衣と申します。突然、見学もなしで入部という形になってしまいましたが、みなさま、お願いいたします!」
「「よろしくお願いします!」」
私が自己紹介と挨拶をしたら、部員達が拍手をし、あと1日でいなくなる私を歓迎してくれたのであった。
2016/08/10 本投稿
2016/10/02 後書き欄の「次回更新予告」の削除




