#43
翌日……。
私は朝早く学校に着き、昇降口で靴を履き替える。
校舎には部活か何かで何人かきているらしく、下駄箱には革靴が何足か置いてあった。
私は通学鞄を持ったままではあるが、最後に校舎内を1周してみよう。
あと1日あるけど、いいよね。
*
まず私が最初に出向いた場所は高等部の方にある職員室。
そこは「木野 友梨奈」としては久しぶりではあるが、「野澤 結衣」としてはじめて入ろうとドアノブを握るが、回らなかった。
「今は誰もいらっしゃらないのね……」
転生して転校生ということなのに、迷わずに行けるのは今までの自分がいたからだ。
その早さはどんどん早くなる。
そう、私に残された時間は少ないのだから……。
*
理科室にパソコン室、美術室に技術室……。
各階に設置された多目的スペース。
図書館に体育館……。
そして、今まで過ごしてきた教室。
楽しかったことも悲しかったこと……。
すべていろんな意味でいい思い出だよ。
「そういえば、音楽室に行っていませんわね……」
確かに、私は音楽室には足を運んでいなかった。
おそらく、そこには誰もいないだろうと軽い感覚で入ってみると、鍵が開いている。
「誰もいないはずなのに、鍵がかかっていませんわね」
私は苦笑しながら、お邪魔する。
机の上に通学鞄を置き、「友梨奈」が今まで吹いていたクラリネットを取り出した。
リードを口に入れ、1分くらい経ったら、マウスピースにセットし、リガチャーでしっかりと固定する。
マウスピースを口にぱくんと加え、音を出す。
トゥーン♪
久しぶりのこの感覚。
私はずっと、トゥーン♪ トゥーン♪ と吹きまくっていた。
そういえば、私の譜面はまだあるかなぁ?
いろんな子を譜面台にセットされた譜面を探してみる。
「ありましたわ!」
私の譜面は凄く奥の方にあった。
いろいろな色ペンで書かれた『音、合わせる!』や『走らないで!』などと書いてあるため、あとから読んであれ? と思ったりしたっけな……。
今まで演奏してきた曲で1番好きな曲である『バンドのための民話』。
その曲は2年生の頃のコンクールで演奏した曲。
最初のところが凄く好きだけど、指が回らなかったな思い出がある。
私がその曲を吹いている時に、凪、早紀、柚葉が音楽室の前にきていた。
「この曲は……」
「懐かしいね」
「確か、去年のコンクールの時に演奏したよね」
曲が終わった時、音楽室のドアが開く。
「「結衣!」」
「結衣ちゃんが吹いてたんだ!」
早紀達が音楽室に入ってきたことに驚いた。
気がつけば、もう朝練が始まる時間となっていた。
本来なら、朝練が始まる前に音楽室から出ようと思っていたのに……。
「結衣ちゃん、上手だったよ」
「なんか、友梨香と友梨奈が吹いているような気がしたよ!」
早紀と凪が誉めてくれた。
しかし、柚葉は「結衣、もしかして……」と少し疑ったような顔をしている。
「友梨奈、じゃないよね?」と彼女が問いかける。
柚葉にはバレバレなのかな?
「ハイ、そうですが。わたくしは楽器は友梨奈のものをお借りしていましたので、そのような気がしただけだと思いますわ」
私はそのように彼女に伝えた。
本当は嘘をつきたくはなかったが、今現在は「木野 友梨奈」という人物は存在しないのだから――。
「そう、だよね。友梨奈が使ってた楽器だから似たような音になるのはしょうがないよね」
「紛らわしくて申し訳ありませんわ」
「いいよ。結衣は結衣だもん」
柚葉は「そうだよね」と言ったため、おそらくバレてないと思う。
「ところで、結衣ちゃん。今日は全校集会の日だよ?」
「……あっ……忘れていましたわ……」
私は早紀に言われ、ハッとした。
今日は全校集会だ!
「急いで片付けて、講堂に移動だね」
「えぇ」
私は急いで楽器を片付けて、通学鞄を持って、彼女らと一緒に音楽室をあとにした。
2016/08/06 本投稿
2016/10/02 後書き欄の「次回更新予告」の削除
2017/08/13 誤字修正