#32
私は聡の方をチラッと見ると、彼は少し苛々した表情を浮かべている。
彼は「今、凄くいいところだったのに」と言いたそうだったけど、その女子生徒が現れたからって苛々しなくても……。
私は彼が最後に何を言いたかったかはすでに分かっていた。
『野澤さん、いつでも僕のところにおいで。みんなと一緒に休み時間に話したりしよう』
と――。
私達のところに白鳥さんの友達らしき人が何人かお弁当袋を持って近づいてきた。
彼女らは食べ終わったらしく、一旦教室に戻るところらしい。
「……エリカ!?」
白鳥さんは温くなりかけたサラダうどんを少し詰まらせてむせていた。
「まひろ! 5時間目の体育、一緒にいこっ?」
そう言えば、私のクラスの5時間目は体育だったっけ。
白鳥さんはもちろんのこと、食堂にいるすべての生徒達が彼女の声の大きさに驚いている。
確か……彼女の名前は篠田 エリカと言ったような気がする。
最初の頃は白鳥さんと一緒になって授業を受けていなかったので、彼女と同様に先生から注意を受けられていた。
「エリカ達、ごめんね? 今週の移動教室は他の人と一緒に移動するから……」
白鳥さんが小声で篠田さんに謝る。
「もしかして、今日転校してきた野澤さん?」
「うん。本人の希望で学校案内とか頼まれたし……」
「確かに言われてたね……でも……」
篠田さんはもう1度「……でも……」と繰り返した。
「まひろはどんな時も優しすぎるよ! 木野さんが生きてた時も荒川さんとかと一緒にいたじゃん!」
篠田さんがバンと机を叩き、声を荒げ、正面に座っている白鳥さんや周りの学生達がそんな彼女らの方を見ている。
「エリカ……」
「そんなに木野さんや野澤さんが大切なの? ウチらといてつまらなかったの? ねぇ!?」
篠田さんは左手で白鳥さんの胸ぐらを掴んだ。
白鳥さんは「きゃっ!」と、松井くんは「止めろよ!」と言った。
辺りは数秒間、沈黙が流れる。
「…………エリカも大切な友達だよ」
「えっ!?」
「でも、これだけは言わせて? あたし、野澤さんは転校してきたばかりだから当たり前だけど、木野さんとも仲よくすべきだったと思う。そうだと思わない?」
彼女は篠田さんの左手を引き離し、突き放すように自分の意見を彼女に話す。
「……まひろ……?」
「あたしから訊くのも変だけど、エリカは……木野さんをいじめて愉しかったの?」
「…………」
白鳥さんは篠田さんに問いかけるが、彼女は黙っていた。
「……答えて……」
「…………」
「……ねぇ……」
「…………」
「答えてよ!」
えっ!?
もしかして、篠田さんが張本人?
ジャスパー先生、コレって大きな収穫ですよね!?
きっと、美味しい情報が手に入るはず……。
そう思ったやさき、飄々と「おやおや」と聞き覚えがある声がした。
2016/07/02 本投稿
2016/10/02 後書き欄の「次回更新予告」の削除