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#31

「結衣ちゃん、どうしたの?」

「前の学校で何かあった?」


 早紀と凪は泣いている私を心配して声をかけた。


「……いぇ……前の学校は何事もありませんでしたの。ただ、友梨奈のことで……」


 私はポケットからハンカチを取り出し、涙を拭く。

 自分のことなのに、こんなにも涙を零すなんて思ってなかった。


「結衣ちゃんは友梨奈ちゃんの親戚だもんね。いろいろと心配だったんだね」


 早紀は椅子から立ち上がり、私の頭をポンポンと優しく叩いた。


「えぇ。友梨奈が生きていた時はみなさまは彼女にこのように接していらしたのね?」

「……うん……」

「友梨奈が亡くなる10日くらい前まではね……」


 私は彼女らに質問してみる。

 白鳥さんと柚葉が答えてくれた。


「なんかさ、僕のせいで友梨奈が飛び降りたのかなと思ってた」

「……秋桜寺くん……」


 聡が寂しそうな口調で話し始める。


「確か、理科の授業で移動する時だったかな? 友梨奈が髪と制服を濡らして歩いてた時は彼女は僕に助けを求めてくるかなと……」

「…………」

「本当は友梨奈自身が1番辛かったのに、彼女はずっと我慢してた。僕から「我慢しなくていいんだよ」と言ってあげられなかった……」


 彼はいつもの優しい笑顔とは打って変わって、後悔をしたような表情を浮かべていた。


 聡はその時にはもうすでに気づいていたんだ。

 彼は自分から私に助け舟を出そうとしていたのに、私は「別れる」という形でそれを振り払ってしまった。

 聡は何も悪くないのに――。


「わたしも友梨奈に酷いことをしちゃった……」

「あたしも……」

「あたしにも責任があるなぁ……」

「荒川さん、白鳥さん、新井さん……」

「僕もさっき、教室で言った通りだよ」


 柚葉、白鳥さん、凪、松井くんもみんな暗い表情をしている。

 みんな、本当は私が死んでほしくなかったと思っていたようだ。


「友梨奈ちゃんはもう(かえ)ってこないけどね……」

「今頃、謝ったり、後悔しても遅いし……」

「野澤さんも友梨奈と仲よかったのに、申し訳ない」


 早紀と白鳥さん、聡がそう言う。


「「ごめんなさい」」


 みんなして頭を下げて謝ってきた。

 私が周囲を見回すと他の学生達が私達を変な目で見ている。


「みなさま、頭を上げてくださらない? 周りの方々が変な目で見ていらっしゃるので」


 私が言うと、彼らは揃って頭を上げるとくすくすと笑われていた。


「おおっ」

「本当だ」

「恥ずかしいところを見られちゃったねー」


 なぜか知らないけど、笑いが起こっている。


「なんか、しょっぱい雰囲気になってきちゃったからご飯食べよう?」

「そうだね」

「「いただきます!」」


 私達は箸やスプーンを手に取り出し、それぞれ食べ始めた。


「オムライス、冷めちゃった……」

「親子丼も冷めてしまいましたわ……」

「サラダうどんが少し温くなっちゃった」


 柚葉、私、白鳥さんがぼやきながら箸を進める。

 美味しい学食を誰かとともに食べたことは懐かしかったし、みんなと話したのは久しぶりで楽しかった。


「野澤さん、いつでも僕のところにおいで。みんなと一緒に――」


 聡が私に言いかけた時、「まひろ!」と1人の女子生徒が白鳥さんを見つけ、元気よく呼んだ。

2016/06/25 本投稿

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