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#29

 私ははぁはぁと息を上げる。

 だって、ジャスパー先生がいきなり出てくるんだもん。


「野澤さん?」

「どうしたの?」

「大丈夫?」


 白鳥さん、柚葉、松井くんの順番で私に声をかけてくる。


「いいえ、なんでもありませんわ」


 私は首を横に振りながら答えた。


「なら急いで行こう。ぼやぼやしてるとわたし達のご飯がなくなっちゃうからね」

「柚葉ー、今日は食い意地があるね」


 焦る柚葉とからかうように言う白鳥さん。

 今頃、気づいたけど、白鳥さんが「柚葉」と呼んだところははじめて聞いた。

 いつから下の名前で呼び合う仲になったんだろう。

 私が自殺する前から気づいていたけど、あの2人は凄く仲がよくなっているように感じられる。


「今日の学食のおすすめメニューはオムライスだもん! まひろも食べたいでしょう? オ・ム・ラ・イ・スー!」

「あたしはサラダうどん目当てなんだけどなぁ……」

「松井くんは?」

「僕は親子丼かな。卵がふわっとしてて美味しいよ」

「よりによって、食べたいメニューがバラバラ……」


 柚葉ががっかりしている時、松井くんが「早くしないと昼休みが終わっちゃうよ」と言ったため、改めて学校案内ツアーが始まった。



 *



「まず、あたし達が今いるところは中等部教室棟の2階。1階は1年生、3階は2年生の教室だよ」

「目の前にコンピューター室。2組から4組のところにある広々とした場所は多目的スペース。各学年に広いスペースがあるんだ。3階の2年生の教室の前に理科室があるけど、授業で使う時に案内するね」


 私達は教室から出る。

 白鳥さんがそう言うと、松井くんが補足説明を入れてくれたから分かりやすい。


「野澤さんは知らないと思うけど、わたし達のクラスは問題児が多いとかの噂があって……」


 柚葉が申し訳なさそうに口を開いた。


「存じ上げていますわ」

「え?」


 ついこの間まで友梨奈(わたし)が通っていたこの学校。

 私が生きていた頃、このクラスの現状を理解した時にはすでにいじめの標的になっていた。


「わたくし、友梨奈さんと連絡を取り合っていましたので。少しだけですが、彼女からお話を伺っています」


 私は柚葉にそう言った。


「野澤さんと友梨奈、仲よしだったんだね……」

「えぇ」


 結衣が私であることを知られないようにする方法はそれしかない。

 むしろ、それしかなかった――。



 *



 私は3人に誘導されるがまま、図書館や体育館、講堂などを見て回った。


「ここが食堂だよ。一旦休憩しよう?」


 柚葉が疲れた表情をしながら、制服のポケットから学生証を取り出す。


「荒川さん、部活があるんだから」

「……そうでした……。あっ、野澤さん。学生証、持ってる?」

「えぇ。持っていますわ」


 私は制服のポケットから学生証を取り出した。


「学生証をここにかざしてみて。ピッと鳴ったら、注文することができるよ」

「本当ですか? ありがとうございます!」


 柚葉に続いて、白鳥さん、私、松井くんの順番で学生証をかざしていく。


「すみません。オムライスはまだありますか?」

「最後の1皿だよ」

「やったー! ありがとうございます!」

「柚葉ー! サラダうどんもまだ残ってた!」

「よかったじゃん!」

「うん!」


 柚葉は最後の1皿のオムライスとサラダをおぼんに乗せ、スプーンを手に取った。

 ふわっとした玉子の上にオリジナルであろうソースがかかっており、パセリがちょこんとついている。


 白鳥さんもすでにお盆とお箸を準備しており、まだ何皿か残っているサラダうどんを手に取る。

 透明な容器の下の方にうどんとつゆが入っており、その上にレタスやキュウリ、トマト、ゆで卵が彩りよく乗っている。


「じゃあ、あたしは場所を取ってくるからね!」

「あいよー! 野沢さん、ゆっくり決めていいからね」

「ハイ」


 白鳥さんは4人分の席を確保するために私達から離れる。

 柚葉と松井くんは私がどれを選ぶかをじっと見ていた。

2016/06/11 本投稿

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