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#26

「あの子、可愛くない?」

「どこの学校の子かなぁ?」

「あの制服は花咲大学付属の中等部の制服だよね」

「本当だ」


 久々に通った通学路。

 私が通りかかった時、通行人がひそひそと話している。


 なんか、こういうことははじめてで凄く新鮮。

 私が自殺する前は全くそのような光景は見られなかったから。


 今までと同じ通学路を歩いているだけなのに、注目の的になっているみたい。


 これから始まる第2の学校生活は楽しみだけど、不安もそれなりにある。

 今の私は「木野 友梨奈」じゃない。

 「野澤 結衣」として転生され、さらには悪役令嬢を演じなければならない身。

 そして、伏線回収するために――。


「よし、頑張ろう!」


 私は頬を軽くパンっと叩き、正門を潜った。



 *



 久しぶりにきた学校は相変わらず騒がしい。

 私がこれから過ごすクラスは友梨奈(わたし)が過ごしていた3年6組。

 私は今、早川先生と一緒に教室に向かっている。


「野澤さん、緊張しなくていいからね」

「ハ、ハイ」


 うぅっ、一瞬声が震えた。

 早川先生の声が懐かしいし、彼女の受け持つクラスになって嬉しいよ。

 今日の早川先生はピンクの白衣のポケットに家の刺繍が施されている。


 教室のドアの前に立つと「私が呼ぶまで待っててね」と言い、教室の中に入った。

 私は緊張して心臓がバクバクと音を立てている。

 松井くんの号令が教室内に響いた。


「――今日、このクラスに転校生がきています」


 早川先生が少し畏まった口調で言う。


「えーっ!?」

「マジ!?」

「男子ですか?」

「女の子ですか?」

「こんな時期に?」


 教室中にざわめきが起こる。

 確かに、今は5月の最後の方だから、この時期に転校生はおかしいと思われても当然だ。


「そうだね……まぁ、今、近くにいるので、呼んでくるね」


 彼女は教室付近にいる私のところに近づき、「野澤さん、どうぞ」と声をかけた。

 私はゆっくりとした足取りで教壇の前に立つ。


「おはようございます。はじめまして、野澤 結衣です。今日からよろしくお願いします」


 今まで見慣れたはずの教室がこんなに新鮮だとは思いもしなかった。

 私自身が転校した経験がないからだと思うけど……。


「うわぁ、可愛い」

「俺、野澤さんがタイプーっ!」

「俺もー!」

「お姫様みたい」


 再び教室のあちこちでざわめきが起こる。


「前通っていた中学校では吹奏楽部でクラリネットを吹いていました。ここでは新しいことに挑戦したいと思っています」


 その中に白鳥さんと柚葉の姿があった。

 私は表面上ではニコニコしているが、彼女らが憎いと感じている。


「吹奏楽だったの?」

「フルートをやってるイメージ」

「野澤さん、新しいことに挑戦したいと言ってたけど、何か興味がある部活ってあるの?」

「演劇部です」

「なら……吹奏楽部のことは荒川さん、演劇部なら白鳥さんに相談してみて。それと野澤さんの席は松井くんの隣ね」

「ありがとうございます」


 今は席替えをしてしまっていたらしく友梨奈(わたし)の座席には違う男子生徒がいた。

 もし、友梨奈(わたし)が生きていたら、松井くんの隣の座席ということになる。


 彼の隣にあるきれいな机。

 今までは机の落書きが酷かったのに……。


 早川先生が教室を出て行ったようで、教室のドアが閉まりかけている。


 パタンと音を立ててドアが閉まったタイミングで松井くんが私の方を向いてきた。


「野澤さん、よろしくね?」

「こちらこそ、よろしくお願い致しますわ」


 私は彼の視線を離さずに再度挨拶を返す――。

2016/05/21 本投稿

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