#23
ジャスパー先生から突きつけられた2つの選択肢。
それは「自殺する前までの辛い記憶を再生して客観的に見ていく」か。
それとも、「転校するところから始まって自殺する前までの伏線回収するために客観的に見ていく」か。
そして、バッドエンドかハッピーエンドかは私次第だなんて……。
それら以外の第3の選択肢もあるけど――。
そんなの選べないよ。
選べるわけがない……。
でも、目的を果たすためだったら――。
「友梨奈さん、復讐することに関しては検討されていらっしゃらないようで?」
「ハイ」
「珍しいですね? 「復讐しない悪役令嬢」だなんて……」
えっ、「あくやくれいじょう」って復讐するものなの?
よく見たらジャスパー先生はどこか楽しそうに笑っている。
「そ、そんなにおかしいですか?」
「おかしいも何も……「悪役令嬢」は主人公と敵対するお嬢様という意味ですよ? あなたを庇ってどうするのですか?」
ふーん……。
そういう意味なんだ。
むしろ、その言葉ははじめて聞いたし、「悪役令嬢」と設定したのはジャスパー先生だから!
でも、あれ……? うーん……。
私は確か要望書の性格を書く欄に「見た目と違い、ギャップがある性格。例えば、自分の意見をはっきり言えるなど」と書いた記憶があった。
今までの私を卒業したいという意味で書いたんだけどなぁ。
「私、決めました」
「どうされるのですか?」
「後者である「転校するところから始まって自殺する前までの伏線回収するために客観的に見ていく」で、できたらハッピーエンドにしていきたいと思ってます!」
は、恥ずかしい……。
まぁ、いいや。
ジャスパー先生の懐中時計の針は動いていないと思うから、ママや看護師に聞かれていないし。
「友梨奈さん?」
「……ハイ……」
彼は私の顎に左手を添え、クイッと上げる。
私達の視線がぶつかった。
私は視線を逸らそうとしたが、彼は逸らす気配がない。
ほんのりと温かな手ではあるが、まるで氷のように冷たい視線で見つめてくる。
私は首をぶんぶん振った。
いや、それはないか。
一応は医者と患者だし……。
「それでよろしいですね? 僕が挙げた2つの選択肢はあくまで例えばの話です。それ以外でもいいのですよ」
やっぱり、第3の選択肢でもよかったんだ。
それでも、私は――。
「私の意思は変わりません。それに転生されたとしてもどうなるか分かりませんし、目的も果たせないかもしれませんので」
とはっきりと彼に告げた。
「現実的なご意見を感謝します。また、僕から何かございましたらこのように伺うか、置き手紙を残すかしますので」
彼はそう言い残すとスッと姿を消した。
それと同時に止まった時計の針が動いたかのようにフロアの中の音が騒がしく感じる。
そして、私はぼんやりと鏡に映った結衣の姿を見て、「頑張ろう」と心の中で誓った。
2016/05/07 本投稿