表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/53

#21

 私は病室のベッドの中で1度、溜め息をつく。

 医者から「少しの間は安静ね」と言われたが、やることがなくてすごく退屈だ。

 それに、尿道カテーテルというものが入ってるみたいだけど、なんか嫌だ。

 早くトイレに行きたいなぁ……。


 病室のハンガーにかけられている2校の制服。

 そのうちの1着は私立白川大学付属中学校の制服。

 もう1着は私がさっきまで着ていた花咲大学付属中等学校の制服が並んでかけられていたのだ。


 私は何を言っても勝手にお嬢様口調に変換されるので、ゆい(漢字が分からない。ジャスパー先生、ごめんなさい)になりきって乗り越えよう。


「おばさま?」

「何?」


 ママは病室で果物ナイフを使って、私にリンゴを剥いている。

 そのリンゴは可愛いうさぎ。


「そのリンゴ、可愛いですわ」

「ありがとう。友梨香と友梨奈はうさぎカットのリンゴが大好きだったから、久しぶりにやってみたの。もしよかったらどうぞ」

「ありがとうございます。いただきます」


 私と友梨香はうさぎカットのリンゴが大好きだった。

 それで2人でケンカしたことがあったなぁ……。


 私はリンゴを1口食べた。

 シャリとした食感に甘い蜜が口いっぱいに広がる。

 前世に戻ってきて1番最初に食べたものはリンゴっていうのもちょっと……だけど美味しかった。


「先ほど、おばさまは「友梨奈さんはわたくしより先に命を落としてしまった」と仰っていましたけど、わたくしがこの病院にきた時に友梨奈さんはどうしましたの?」


 私はママに問いかける。

 そのことは私自身では「知ってること」だけれど、今のこの身体では「分からないこと」になっている。


「…………」


 ママは少しの間、黙りこくっていた。

 そして、こう言った。


「おそらく、ゆいちゃんにはここまでの経緯(いきさつ)は分からないと……」

「……訊かせていただけますか……?」

「えっ!?」

「訊かせて、ください……。友梨奈さんのこと……」

「分かった。ゆいちゃんにはじめて会った気にならないのよ」

「本当ですか」

「うん」


 ママは笑顔でそういったやさき、看護師が病室に駆けつけた。


「ゆいさーん、どうされましたか?」


 ん?

 私、ナースコールを押した覚えはないけど、よく見たら手にはそれが握られており、間違えて押されていた。


 そういえば、今の自分の姿がどんな姿をしているか分からない。

 これはチャンスだ!

 今、トイレに行ったら、今の姿が見ることができるから。


「……間違いですわ……。あっ、お手洗いと友梨奈さんのところに行きたいですの」

「なんで友梨奈のところなの?」

「わたくしが退院する日はおそらく友梨奈さんの告別式かそれ以降だと思いますので……。そして、最期(さいご)にもう1度お会いしたかったの」

「そう……なんだ」

「そうだ、ゆいさん。さっき、先生がしばらくの間は安静って言ってたけど、少しずつ起きてる時間を伸ばしていいと言っていましたよ」

「嬉しい! 本当ですか?」

「本当ですよ。今から車椅子の準備をしますね」


 看護師は車椅子を準備し、足台を上げる。


「私も一緒に行ってもいいですか?」

「いいですよ。では、ゆいさん、車椅子の肘掛けに手をついてくださいね」

「ハイ」

「次にお辞儀をするように立って、くるりと1回転して座りましょう」


 私は看護師に言われた通りに少しふらつきながら車椅子に座る。

 足台も下げた方がいいかな?

 テレビで車椅子に座っている人はそれに足を乗せてるところをよく見るし……。

 いいや、下げちゃおう。


「ありがとうございます。では行きましょう」

「えぇ」


 私達は友梨奈(わたし)のところにゆっくりと向かった。



 *



 友梨奈(わたし)のところに着いた時はパパや親戚が集まっていた。


「「ゆいちゃん!」」

「おじさま、みなさま!」

「ゆいちゃんが友梨奈に会いたいって言ったから、連れ出してきちゃった」

「すみません」


 友梨奈(わたし)の顔とされるところに布が敷かれているため、パパが外す。

 綺麗に化粧され、身体に触れたら凄く冷たかった。

 これがヒトの最期なんだなと感じた。


「なぁ、ゆいちゃん?」

「ハイ」

「ゆいちゃんはなぜ、友梨奈が命を落としたか分かる?」

「…………」


 パパは私に問いかける。

 私は黙っていた。


「分からなくて当然だよな。友梨奈は殺人事件の被害者ではない。彼女は自ら命を絶った」


 私はパパと友梨奈(わたし)を交互に見る。


「……自殺……」

「そうだ。友梨奈は学校でいじめられていたらしいからな。……それで……辛くなって……」


 パパが大粒の涙をこぼす。

 私はパパが涙をこぼしたところを見たことはなく、今回がはじめてだった。


「……おじさま……」

「ゆいちゃん、たとえ辛くても、友梨奈みたいに命を絶たないでほしい……毎日、笑顔で学校生活を送って……」


 パパがそう言うと、なんかプレッシャーになる。

 パパ、ママ、ごめんね。

 実は私、第2の人生を送っているところなんだ――。

2016/04/23 本投稿

2016/04/23 改稿

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

その他の作品はこちらから(シリーズ一覧に飛びます。)

cont_access.php?citi_cont_id=790045725&size=200
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ