#20
私はゆっくりと瞳を開く。
そこには見慣れた白い天井が視界に入ってきた。
なるほど……。
私は部屋の明かりで……ではなかった。
ジャスパー先生による私の手術が無事に終わり、麻酔が切れ始めたからだと思う。
「オイ! 女の子が目を覚ましたぞ!」
「本当? 先生を呼ばなきゃ!」
聞き覚えがある男性と女性の声が聞こえてきた。
えっ……?
ここはもしかして……病院!?
虚ろな目で周りを見回すと、パパやママはもちろんのこと、親戚のおじさんやおばさんもいる。
「よかった……よかったよ!」
「友梨奈はあなたより先に命を落としてしまったけど、あなただけでも生きていてくれて私は嬉しいわ……」
みんな、なぜだか知らないけど、嬉し泣きをしている。
うーん……ちょっと、対応に困ると思いながら、ニコリと笑って頷いた。
*
数分後……。
パパとママの報告を聞きつけた医者と看護師が私の病室に駆けつける。
「大丈夫ですか? 右手は上げられますか?」
医者が私にそう質問する。
「……ハ……イ……」
私は返事をし、右手を上げたが、完全に麻酔が切れていないせいかあまり口が開かないし、手もゆっくりと少しだけ上げた。
「ゆいさん、ありがとうございます。先生が手伝うので、ゆっくり手を下げましょう」
医者は私の右手をゆっくりと下げる。
そのついでに脈を取っていたりするのかな?
「うん。脈も通常よりはゆっくりですが異常はないですね。少しの間は安静で様子を見ましょう」
「「ハイ」」
「「分かりました」」
「ゆいさーん、何かありましたら、ここを押してくださいね」
看護師がナースコールの場所を教える。
「えぇ、分かりましたわ」
今度はスラスラと返事をすることができた。
ん?
私は「ハイ、分かりました」と言ったはずだけど……まぁいいか。
医者と看護師が私の病室から出て行った。
*
病室は私の家族だけになり、私の身体に残った麻酔が完全に抜けてきた時だった。
「名前は覚えてる?」
ママが私に問いかけ、軽く頷く。
しかし、もう「木野 友梨奈」という人間は存在しないため、名前で答えることができない。
さっきから思ったけど、変な口調で変換されている。
そのうち、名前まで――。
「……のざわ……ゆい……」
口から出てきたのはその名前だった。
「のざわ ゆい」って誰!?
よく考えてみたら、どうやら私は「のざわ ゆい」という人間になっているようだ。
「……ゆいちゃん……名前を覚えてて……」
ママが泣き始めた。
ママ、泣かないでよ……。
私も泣きたくなっちゃうよ……。
「……おばさま……」
「オイ。ゆいちゃん、大丈夫なのか?」
「えぇ、大丈夫ですわ。おじさまにおばさま、みなさま。ご迷惑をおかけしてすみません」
本当ならば、私はパパやママ、親戚のおじさん達に「うん、大丈夫だよ。パパ、ママ、みんなごめんね」と言ったはずなのに。
「いいんだよ。ゆいちゃんは友梨香と友梨奈の従姉妹で親戚なんだから」
「そうそう」
「あ、ありがとうございます」
さっきからいつもと口調が違うと思っていたら、まさかのお嬢様口調に変換されているよ!?
一体全体、ジャスパー先生は転生した私に何を吹き込んだの!?
コレって、前世に戻れているということだよね?
彼の手術を受ける前に答えた要望を書いた紙が現実になってるし…。
私はベッドで安静と言われたから、今の自分の姿を鏡で見ることができないことがネックだけど――。
2016/04/20 本投稿




