#16
その声は一言で終わった。
まるで、私を知らない世界に誘うかのように――。
*
身体が何かに包まれて温かい。
私は今、どこにいるんだろう?
おそらく、救急車の中かなぁ……。
最悪な場合だとまだコンクリートの上かなぁ……。
そんなことはないとは思うけど――。
「……ん……?」
私はゆっくり瞳を開けると、真っ白な天井が視界に入ってきた。
部屋は家の電気と同じ明るさではあるが、瞳を開けたばかりの私にとっては視界はぼんやりとしている。
もしかして、ここはどこかの病室?
道理で身体が温かいなと思っていたら、病室の私はベッドの中にいた。
「友梨奈さん? やっと、お目覚めですね?」
聞き覚えのある声。
私はその声の主に視線を合わせようとする。
「……あっ……ジャスパー先生……」
私は虚ろな瞳でそこにいる男性の名前を呼ぶ。
「友梨奈さん?」
彼は私の左側に立っていた。
手にはピンセットに挟まれた脱脂綿を持ったまま、ポカンとした表情をしている。
「う、嘘……」
「どうされました?」
「嘘!? なんで、私は生きてるんですか!?」
「僕が蘇生させました」
「えぇーっ!」
はじめて会った時からなんか怪しいと思っていたんだけど……。
彼こそが俗にいう闇医者という人物なのだろうか?
いや、今は呑気に思っている場合じゃない。
「友梨奈さん、傷だらけなので、動かないでください。これから、手当てをしますので」
「すみません。手鏡って……こちらにはないですよね……?」
「ありますよ。もしよかったらどうぞ」
私はジャスパー先生から手鏡を受け取ると自分の顔をじっと見た。
顔は額と頬に少し切り傷があり、腕や脚にもアザや擦り傷がある。
よって、私の身体は彼が言った通り傷だらけだった。
「……あの……」
「ハイ?」
「変なことを言ってもいいですか?」
「どうぞ」
「ここにいるということは本当にパパやママに会えないんですよね?」
「えぇ。その通りです。友梨奈さんは現世では自ら命を絶たれていますので……」
そうだった。
私はクラス全員からのいじめとパパとママや先生の前ではいい子を演じなければならないというストレスがきっかけで自殺した。
誰1人として、私が自殺すると告げたわけでもなんでもない。
下手したら体育の授業で校庭にいた高等部の生徒の中に目撃者は少なからずいたはずだ。
私は少しだけ後悔したことがあった。
「もう少し生きたかったなぁ……。できれば、おばあちゃんになるまで生きたかったな」
と私はそっと呟いた。
2016/03/19 本投稿