#15
――私を1人にしないで――。
私はそう願って早紀達がくるまで音楽室の前で待っていた。
本当は待つべきではなかったけど、なんか心配になったという単純な理由からだけど。
しかし、彼女らは柚葉と音楽室から出てきた。
彼女らは私を素通りして、楽しそうにしゃべりながら教室に行った。
彼女らの後ろ姿はどんどん小さくなっていく。
私は誰もいなくなったその廊下でぽつんと1人、佇んでいた。
*
私が教室に入った途端、いつも陰口を叩かれ、脚をかけられ、笑われたりする。
私は気にせずに「ごめんね」とか「またやっちゃったね」と言って笑ってごまかしたりしていた。
クラスや部活、家で愛想良くすることがだんだんきつくなってくる。
家族や先生の前ではいい子を演じなければならないということがストレスになっていたようだ。
チャイムが鳴り、早川先生が教室に入ってきた。
いつものように朝の学活が始まる――。
*
朝の学活が終わり、早川先生が教室から出て、何分か経ったあと、私は先生を追うようにして職員室に向かって歩いていた。
私はいじめのことについて相談したいことがあったからだ。
私は今までいじめられて傷ついていることは先生も知っている。
私はそのことについて凄く悩んでいるから――。
しかし、そのことを早川先生に相談したら、さらにいじめはエスカレートしていくかもしれないと思ったので、先生のところに行くことを止めた。
もう、私の居場所はどこにもない。
数少ない大切な友達はいじめがきっかけでみんな奪われたし、聡とも正式に別れたから……。
ふと気がついたら、職員室ではなく、屋上の入口付近に着いていた。
そうでなくても、消しゴムをちぎったものを投げつけられ、お気に入りのペンは捨てられそうになったり、同性からは無視されたり、靴を隠されたり……。
こんな生活は嫌だよ。
もう1から……いや、0からやり直したい。
私はなんのために生きているんだろう――。
むしろ、私の生きる価値なんてないよね?
でも、今までに出会ってきた人達になんにも恩返ししてなかったし、できなかった。
私は薄暗い階段の踊り場で制服の内ポケットからペンとメモ帳を取り出し、勢いに乗って今までの苦悩とお礼を書き出していった……。
遺書はこれくらい書ければいいかな?
私は遺書を制服の内ポケットにしまう。
もちろん、ペンも。
普段は開いていない屋上の鍵は今日はたまたま開いていた。
心地よい風を肌で感じ、澄み切った蒼い空が私の視界に飛び込んでくる。
校庭には高等部の……何年生か分からないけど、これから体育の授業が始まるのだろうか?
ねぇ……友梨香?
やっと、会えるね……。
私が友梨香のところにきたら、久しぶりに一緒に楽器を演奏しよう?
もちろん、友梨香はフルートで、私はクラリネットで――。
屋上から飛び降りることはそれなりの覚悟が必要だけど、今の私にとっては、その必要はなかった。
1歩1歩、手すりに向かって歩いていく。
それと同時に、脚がガクガクと震え出す。
私の心の中にいる天使と悪魔が論争を繰り広げられているその時……。
もう、論争は止めて。
私は自由になるの……。
本当はもっと生きたかった。
ちゃんとおばあちゃんになるまで生きたかったな……。
今日まで出会った人達が走馬灯のように――。
パパ、ママ、そして、今まで出会ってきた人達……。
みんな、ごめんね……。
さようなら……。
私は瞳を閉じ、屋上から飛び降りた――。
*
「友梨奈さん、僕のところにいらしたのですね?」
聞き覚えのある男性の声が私の耳元で囁いた。
2016/03/12 本投稿