#13
その翌日、今日は部活の朝練がなく、私は久しぶりにゆっくり登校した。
「おはよう」
いつもより警戒しながら、教室に入る私。
そこにはすでにほとんどのクラスメイトがいた。
その中に紛れて、柚葉や白鳥さんが何人かと談笑している。
「なんか、聞こえなかった?」
「気のせいだよね?」
「空耳じゃない?」
「幻聴? やだー」
「ついに、このクラスに幽霊が現れたとか?」
「やめてー。幽霊が出たら、学校に行けなくなっちゃう!」
クラスの女子が周囲を見回しながら話している。
えっ……?
私は「おはよう」って言ったのに、みんなに無視された?
しかも、柚葉や白鳥さんは私が教室にきたことすら気がついてない?
私はショックで仕方なかった。
いつもなら、みんな、嫌な顔しないで私に「おはよう」と言ってくれたのに……。
「おっ、カンニング女がやってきたぜ?」
「本当だ」
「もういい加減カンニングしたと認めればいいのにな」
「だよなー」
例の男子達も相変わらず、私に対して、カンニングしたと言ってくる。
「だから、私はしてないから!」
私が彼らに言い返した瞬間、
「木野さん、もう諦めて認めたら?」
と誰かが冷淡な口調で私に言い放ってきた。
「えっ!?」
「カンニングしたことを素直に認めたらって言ってるの」
「し、白鳥さん……」
嘘……。
あれだけ、白鳥さんは「あたしは木野さんの味方だから」と言ったのに。
柚葉もその隣で何人かと一緒にくすくすと笑っている。
まるで、人を馬鹿にするような視線を私に向けていた。
彼女らは私の大切な友達だと思っていたのに、裏切られた。
そのうち、凪や早紀からも裏切られそう……。
その時、朝の学活の始めを告げるチャイムが喪失感でいっぱいになりかけた私の心に降りかかるように鳴り響く。
*
「遅くなってごめんね!」
チャイムが鳴り終わり、数分ぐらい経ったあと、早川先生が教室に駆けつける。
私達は慌ただしく自席に着いた。
「起立!」
松井くんが号令をかけ、私達は椅子から立ち上がる。
「松井くん、今日の学活の号令はいいよ」
早川先生は松井くんにそう言うと周りからどよめきが起こった。
「……? 着席!」
なんだろう?
私達は何も知らずに、椅子に座る。
「みんな、おはよう。今日の6限目の学活だけど、私は急遽、出張に行かないといけないので、代わりに学年主任の田口先生がくるからね。何かあったら田口先生に言ってね」
「ハーイ」
「分かりました」
素直に返事をする私達。
しかし、私は先生の話に素直に返事をする彼らの裏を知っているから信用できない。
「問題が起こらないことを願ってるよ」
先生がこう言った時、私は彼女はきっとこのクラスの全員のことを心配してくれているのだろうと思っていた。
*
朝の学活が終わり、私はトイレに行った。
用を済ませ、トイレから出ようとした時、突然、バシャと音を立て、バケツの水が降ってきた。
私の髪はもちろんのこと、制服のブレザーを濡らす。
「きゃっ!」
もう、誰!?
誰がそれをやったのかは大体推測がつく。
おそらくクラスの女子がやったんだろうと――。
私がトイレから出ると、
「木野さん、制服が濡れてるよ?」
「うわー。こんなところで雨降ったんだ」
「狭い空間なのにね」
とくすくす笑いながら言う。
その様子を他のクラスの人に見られたくないと思っていたやさき、たまたまトイレに入ってきた凪と早紀に見られてしまった。
「……友梨奈……?」
「……友梨奈ちゃん……?」
彼女らは私の名前を呼び、全身ずぶ濡れになった私を見て、私と他の女子を交互に見ていた。
「……早紀、凪……」
「友梨奈ちゃん、大丈夫?」
「あーあ……ずぶ濡れじゃん」
早紀と凪が気を遣ったかは分からないけど、心配してくれた。
「ヤバッ!」
「早く教室に行こっ!」
その女子のグループの1人が「木野さんの友達をすべて奪ってやる」と誰にも聞こえないくらいの小声で言い放つと彼女らはそそくさと教室に戻った。
2016/02/27 本投稿