悪の帝王と大天使
「おじちゃん………行ってきます…」
「うむ」
日課の玄関前の掃き掃除中に少女Aが挨拶をし、学校に向かっていった。
あの日からを境に少女Aは明るくなったと思う。
なに?別に変わってない?むしろ、沈んでるだろ?
ーーーークソが…!
挿絵と表紙が無いと容姿すら思い浮かばんとは情けない!
これだから現代人どもは…!!
「と…、始まって早々に言っている場合ではないな」
今日は掃除やら買い出しやらで忙しいのだった。(卵が安いのだ!)
「さて、まずは床掃除……」
ーーーージィィ……
「ムッ?」
部屋に戻る途中、何かの視線を感じ振り返ってみたが誰もいない。
「……気のせい、か?」
そう思ったが……何故か妙に気になり、辺りを見渡し確認する……
あっ、ご近所の奥様おはようございます。今日もいい天気ですねぇ。
むー、やはり気のせいのようだ。
私は深く考えるのを止め、部屋に戻ることにした。
「……まずは洗面台の水あかを掃除せねばな」
ーーーーこの時はまだ…私は事の重大さに気づいていなかった……
洗面台の水あかよりも厄介な出来事が待っていようとは思いにもよらなかった…
ーーーーーーーーーー
「よーし、必要な物はこれでいいな」
買い物の際はメモをしていれば余計な物を買う事がないから便利だぞ☆
エコバッグ良し!財布良し!
「さて、時間だ……」
意気込んで玄関のドアノブに手を掛け、私は部屋を出た。
いざ行かん、近所のスーパーへ…
意気揚々と私は下に降りる階段に差し掛かった。
ーーーーその時だった…
ーーードン!!
「むぉっ!?」
ーーーズデデデデン!!!!
背中から強い力で押され、私は階段から転がるようにして落ちた…
おふっ!!膝を打った!超いたい!!!
「ぐ、ぐぐぐ…!!一体誰だ…!!危ないでは……!!!!」
すぐさま私は起き上がり、階段を見上げるが不思議な事にそこには誰もいない。
「む…むぅ??」
誤ってつまずいたのか?いや、そんな感じではなかった…
“誰か”に押された。私は突き飛ばされたのだ。
ーーーーーーーー
「む…むむぐ…っ!!」
階段から落ちはしたが時間通り、遅刻することもなく近所のスーパーには着いた私だったのだが…
『本日のセールは品不足により本日は終了とさせてもらいます』
そう、セールはすでに終わってしまっていたのだ。
その証にほくほく顔で大満足した主婦たちがたくさんいる。
………卵。
「た、卵が買えなかったのは残念だが…他にも必要な物が……」
『洗剤』
「売り切れ……」
『歯ブラシ』
「無い…?」
『トイレットペーパー』
もはや、置いてない……と言うか。
「品物が……ほとんど無い?!」
ギリギリ、買えて豆腐とかつおぶし……冷やっこしか作れんぞ!?
なんだ?!店じまいするつもりなのかこの店は!!?
売り切れ売り切れ売り切れ、私の欲しいメモの物全部が売り切れとは……何故だ?
「むむむむ……朝の視線といい、階段といい…」
「おや、サターンさん……」
「ん?これは八百屋の魚田さん…」
彼は近所の八百屋をしている魚田さん。
スーパーで買うより安いから私はよく利用している、いわゆるお得意さんと言うやつだ。
台風も逃げ出す気の明るさは町内の太陽と呼ばれる方だが…
「いいや…今日はダメだね。卵と日常品が買えないのは………辛いね…」
今日は沈んでいる。それもものすごく落ち込んでいる…
それはもう、この世の終わりを見たかのような…そんな顔だ…
「ど、同感です、卵と日常品が買えなかったのは痛手ですな」
「これじゃ……母ちゃんにどやされちまうよ…」
「…お気の毒ですな、それは」
「ははは……」
残念そうに空笑いをした後、八百屋の魚田さんの顔は…実に見るに絶えない…
と言うか…少しばかり異常な落ち込みかただ…
「………じゃぁ、サターンさん……またうちに買いにきてね……」
「む、むぅ…?」
肩を落としながら店を後にしていく魚田さん…
「…………むっ?」
見間違いだろうか。今、魚田さんの足元に光る羽根のようなモノが見えたような……
ーーーーーーーー
「………また…工事中…」
買い物の帰る道中、行きには無かった筈の工事に道をはばかれていた…
それもこれで五回目の迂回、強いて言えばアパートに帰る道全てが塞がれてしまっているのだ。
「これでは家に帰れん上に……」
帰れない依然の問題点が出てきてしまってもいる…
見間違いだと思っていた“光る羽根”が今、工事中の看板の前にポツリと落ちているのだ。
(……他の者には見えていないようだな)
いや…正確には“人間”には見えていないようだ。
現に人が来ては工事中かよと口々にしては昼間でも分かるくらいに輝き光る羽根に気づかずに去っていってしまう…
「…この神々しい輝きを放つ白い羽根…まさか…」
ーーーーーバサッ…
見覚えはあった…思わず口にした疑問に応えるように羽ばたく音が響き、白い純白の羽根が舞い落ちてきた…
私は振り返ると同時に空を見上げ、口にした。
「やはり、“お前”か…」
ーーーー大天使ミカエル…




