悪の帝王サターン、少女Aを知る3
------ここまでが……少女Aの話だった。
衝撃的事実は…余りにも悲惨なもの……と普通ならば思うのだろう。
-----だが、私は悪の帝王だ。
それ故に、少女Aに掛ける言葉は無い。
憐れみも、慰める術も------私は持ち合わせていない。
それに、私は、人間ではないのだ…
-----だから……
(貴様が望むようなことは……私には出来ない)
喉から出掛かった言葉を堪え、飲み込んだ。
「おじ、ちゃん…?」
少し感ずかれたのか、少女Aが顔を覗き込んできた。
----なんだその顔は…
少女Aの瞳は心配と不安でいっぱいだった。
両親の話をしたから、気を悪くしたのではないか、そんな表情だ。
「…そんな顔をするな」
先ほどまで今にも泣きだしそうな顔をしていたくせに…この人間は…
「…おい、少女A」
「?はい…」
「私は悪の帝王だと前にそう、貴様に言ったな?」
突然の事に何のことか分からず困惑した様子で、少女Aは小さく頷いた。
「分かっているなら良い。そう理解した上で…私に話してくれたと言うことなのだな?」
「??????」
話が見えていなさそうな顔で首を傾げさせ、少女Aはより一層、困惑しながら頷いた
「なら、私とお前は友だと言うことだ。だから…」
-----お前の傍にいてやる事に決めた。
「……うん」
ほんの少しだけ間があったものの、理解した少女Aは…今度ははっきりと、それでいてしっかりと頷いてくれた。
「……もうすぐ日が暮れる。帰るぞ」
知らない内に日は落ち、辺りはもうすっかり薄暗くなっている。
早く帰らなければ…そう思っていた時だ。
「おじちゃん…」
私の服の袖にすがる様に小さな少女Aの手に掴まれ、引っ付いてきたのだった。
相変わらず、表情は無表情で何がしたいのかは全くもって読み取ることは出来ないが……
「……仲直り、だな?」
「うん…叩いたりして……ごめんなさい」
「気にするな。私だって同罪なのだからな」
----この時ばかりは…言わずとも理解できた。
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「おい、少女A」
それは互いの我が家に到着し、部屋に入ろうとした時の話だ…
「…なに?」
「…今度、食事にでも行かないか?」
「!…良いの?」
これは私の謝罪の意味も合わせてだ。
決して、素直に言えないとかじゃないぞ?
「あぁ、代金は私が持つ。だから遠慮せずに……」
「焼き肉…!」
容赦ないなこの娘…!!
「ま、まぁ、良いだろう。今回くらいは……」
「おじちゃんは……」
この時、私は財布の中身を思い浮かべ計算していた為、少女Aの言葉に反応が遅れてしまった。
------悪の帝王なのにとっても優しいんだね…
「………は?」
「…おやすみなさい」
バタン!と少女Aの部屋の扉が閉まるが…
「や……さ…し、い……?わた、悪の帝王、なのに…?」
そう言って……私の意識は散漫し、目の前が真っ暗になった…
「おじちゃんと……デ……ふがふが…」
悪の帝王サターンがサターン自身の部屋の扉の前で血だらけで倒れていることなど知る由もない少女Aだが…
悪の帝王サターンもまた、ベットの上でうつ伏せになり、無表情の顔を枕に埋めながら足をばたつかせる少女Aの姿など悪の帝王サターンが知る由もないのだった…
ーーーーーー同時刻……
「………………みぃ~つけた♪」
高いビルの柵の上に腰掛けながら、意識を無くして倒れているサターンを一人の人物が見つめていた……
いや、正確には“人”では無い…その者の背中には月夜に照らされ、神々しい純白の翼があり、頭には金色に光る輪が浮かんでいる。
そして、その綺麗に整った美しい顔には三日月の如く裂けた笑みを浮かべていたのだった…




