第六話 社長と棒付きアメ
渋谷の姿が角を曲がり、見えなくなった。
「それでは、行きましょう」
あのさ、今更だけど喋ってるならさっさと行った方が良かったんじゃないのか、と思う。
「は、い」
「行きます?」
「けほけほ」
「当然ですね」
「レッツゴー!」
「らじゃー!」
大田が、右腕を上に伸ばすと、心亜もぴしっ! と敬礼した。
「いやいや、心亜ちゃんはだめだよ!」
「ええー、そーなのー?」
「社長の所へ預けましょうか」
心亜はシュン、と肩をすぼめた。
うわ、めっちゃ可愛い!! やっとみんながデレる訳が分かった。
「私が連れて行きます。皆さんは速く出向いて下さい」
江東が、心亜の手をとる。
目黒、品川、荒川、中野、大田の五人は、それを見て散っていった。
「さてと」
江東が、心亜の手を引っ張った、その時。
チン。
「あー、じぃじだ!」
【噂をすれば影】の言葉通り、到着したA館のエレベーターの中から、白髪かかったオールバックで彫りの深い社長、
渋谷闇市が出て来た。
「おはようございます、社長」
って、おや? 渋谷副社長? デブでもないし、禿げてもないじゃないッスか。
「んぱっ、心亜! よく来たな!」
って、棒付き飴舐めながらやって来るんじゃねーよ!! 威厳とかイメージとかが台無しだろ!!
「社長、この娘をお返し致します」
「ああ、分かった」
「がんばってねー!」
江東は、コクンと頷き、エレベーターの脇の階段から降りていった。
「うむ……ヒーローが来たのか。一応、補強してある社長室に行こう」
「パパ、だいじょーぶかなぁ? ぜんぜんしっかりしてないもん」
眉毛をハの字にする心亜。
闇市は、頭をポンポン、と撫でながら言った。
「心配するな、私の……息子だ。大丈夫に決まっている」
「…………うん、そうだよね!」
ニッコリと笑う心亜を見て、彼も微笑んだ。
「それでは、お菓子を食べに行こうか」
「パパのぶんものこしておかないと、パパ、おこっちゃうかな?」
「ううん、たくさんあるから平気だよ」
二人は、エレベーターに乗っていった。
扉がバタン、と音を立てて閉まった。
渋谷闇市
悪の組織ラムネリアンの社長。
大の甘党で、特にラムネが大好き。
いつも舐めてる棒付き飴もラムネ味である。
そして、ラムネリアン開発の「ラムネ饅頭」の原案者でもある。
ラムネ饅頭 :検索
ラムネの粉が練り込まれた餅で、ラムネとゼラチンを固めて出来た餡と、まるごとのラムネを包んだ饅頭。
しゅわしゅわソーダ味、あまあまイチゴ味、せいしゅんレモン味、なんごくオレンジ味、きたぐにメロン味と現在、全五種類好評発売中。
期間限定だった、ちのいけジゴク味も、ネットで話題をさらった。