第五話 悪の中の悪役
この間、足立の彼氏、那衣都が警備をしていた辺りに。
五色の英雄が、颯爽と歩いて来ている。
泉南朱琉
柏原紺
堺緑冴
和泉黄乃
岬桜奈
またの名を、ヘルトゼクス。
「あ、あいつらはっ!」
「ひ、ひいい!」
「どうするんだ、殺される!」
社員達が戸惑い、混乱の中。
「落ち着け!」
渋谷業の声に、空気が静まり返った。
渋谷は、ゆっくりと部下達を見回す。
「僕が奴らを倒すから。君達は足止めをしててくれ」
「……そ、んな! 無茶ですよ!」
「副社長!」
「やめて下さい!」
提案には、誰も賛同しない。
やがて、見兼ねたように溜め息をついた。
「…………ちっ、うるせぇな、やれっつってんだろ!! ああもう、この際だから言わせてもらおうか。この出来ぞこない共めがよ!!」
突如、態度を豹変させた渋谷に、部下達は身をこわばらせた。
「君らが今ここに居るのは、血のにじむ様な努力をしてきたからだろ? 本当馬鹿みたいにな!!」
悪の組織ラムネリアンの役職に就くには、数々の困難を潜り抜けねばならないはずだ。
彼は、多分知っている。
「僕はな、なーんにもしてないんだ!! どんなに胡座をかいても、君達の上に立っていられるんだぞ!!」
前に「悪口で人生が終わる」と言っていたが、そんな事で、親が息子という関係が切るはずがない。
彼は、それを親になって、よく分かっているのだろう。
「ははは!! どうだ、憎いか!? 今やっと腰を上げてるんだぜ!? その思いを存分に込めて、僕を送り出すがいいさ!!」
「へたくそー」
不意に、そんな声が聴こえた。
「は?」
「パパ、へたー」
発したのは、渋谷心亜だった。
「え、なんで? 何が下手だったの、心亜」
「あらら、やっぱり演技なんじゃないですか。迫力はありましたけど」
「うんうん、一瞬怖かったけど、良かったぁ。演技で」
「ずびっ、渋谷さん、無理してるのぐずん、バレバレですよずるずるっ」
次第に部下達も口を開き始める。
「あれ……? 嘘だろ、こんな速攻でバレるとは思わなかった……」
渋谷は「あちゃー」というように、額へ手をやった。
「普段から、部下への悪口を言っておかないからですよ。言ったと思ったら、社長のばかりでしたし」
「ていうか、自分が二世だって事、気にしてたんですね」
「送り出すって、卒業式みたいでしたよ?」
「渋谷さんこそずずっ、大丈夫ですかすすんっ」
「何で、わざわざ憎まないといけないんです? そこは
(悔しいか)ではないんですか?」
「流石、娘には分かっちゃうって事でしょう。ね、心亜ちゃん」
「そーだよ! パパ、ちゃんとしなくちゃだめでしょ!」
ぼろくそ言われてんじゃん!!
「ありがとう」
それでも、朗笑する彼らの上司。
「もう、何でお礼を言うんですか」
「そういう所、天然だと、思いますけど」
「まるで危機感無いですね?」
「ずずずっ」
「ありがとう、ですか。それは、さっきの万言を全部聞き取れてから言うべきかと」
「副社長! 悪からの一転、ギャップ萌えです! 心亜ちゃんはどう思う?」
「ここあも、パパにもえ〜! なの!」
渋谷は、己の拳をぎゅっと握り締めた。
「でも、僕は戦うよ」
真っ直ぐな立ち姿。
部下達は、もう声を掛けられなかった。
「君達の為にも、全力を注ぐ。だから……」
既に、時間は無いだろう。
外から敵が迫って来ている。
「心亜を、頼んだ」
そう言い残すと、振り向かずにB館へ駆けていった。
江東
副社長秘書。女子。口調が丁寧。
目黒
部長。喋ると息継ぎが多くなる。
品川
課長。女子。いつも疑問系。
中野
係長。女子。自身が気付いていないタイプの毒舌。
大田
課長。微妙に進化した女子力(おかん力)を持っている。