第四話 ココアは やっぱり♪
またもや言うが、俺は、窓ガラスだ。
最近は、この下にある敷地内専用道路を通行する車を数えたりしている。
五台目…………六台目。
それよりも、今は、すぐ近くに幼女がいる。
「キャッキャッ」
この娘は副社長、渋谷業の娘の
渋谷心亜ちゃん、五歳だ。
「わああぁ! パパのおしごとのかがみおおきーい!!」
「あはは、そうだね」
違う。
窓ガラスだよ、心亜ちゃん。
そこの父親も訂正しろ。
「副社長のお子さんですか? 可愛いですね!」
「うん、もう目に入れても痛くないよ」
心亜ちゃんの周りには社員がわらわらと集まっていた。
そして、短髪のいかついおっさんも声をかける。
「おー、可愛いでしゅね! こっちおいで!」
「いやああぁぁ!! パァパー! こわいよぉ!」
「う、うぅ……」
「すまない、荒川」
【おっさんあるある】
・近所の子供が避けて歩いてくる
・近所の子供が目を合わせてくれない
・夜だと若い女の子が小走りで逃げていく
周りの社員、超戸惑ってるぞ。
「ここあ、じぃじにあいにきただけなのにぃ……おじしゃんキライ!」
「こ、こら心亜!!」
「ううっ、ぐずんっ、ふひゅ、ずびずびっ」
「わあ、荒川!? 一体どうしたんだ!?」
「ひっく、渋谷さんすみません、うっく、この間もぉ、うぅ、息子に嫌いとぉ、はひゅっ、言われたのをぉ、ずず、思い出じでじまっでぇ、えぐっ」
メンタル弱っ!!
「ねーねーパパァ、はやくじぃじにあいにいこーよぉー」
「うん、そうだね……荒川、大丈夫か」
「し、渋谷さん……ぐずん、ぎにじないで……ずびっ、ぐだざいっ」
渋谷の手を引っ張る心亜。「悪いな」と言いながら、渋谷が歩き出そうとしたその時。
ジリリリリリリリリリリリリッ!!!
突然、サイレンが鳴り響いた。
渋谷心亜
渋谷業の娘。朝春幼稚園のたんぽぽ組。
先日、仲良しのふぅちゃんと、積み木で作ったお城の屋根を「これかーしーてー!」と持って行かれてしまい、「これ、ここあのおしろのだもん!」と喧嘩になってしまった事に悩んでいたが、ふぅちゃんが「ごめんね」と謝って来てくれたので、「いいよ」とちゃんと仲直りした。
荒川
部長。一児の息子の父親。シングルファーザー。
最近、息子に「お父さんきらいだから、じゅ業さんかん来ないでよ」と言われた為、もの凄いショックを受けた。後日、隠れて見に行ってみたら、【あこがれの人のしょうかい】で「お父さんです! 家事をいつもしてくれているので、ぼくが人生で一番そんけいしています!」と発表していた。泣いた。