第二話 かくれんぼの天災VS正義の警備員
もう一度言うが、俺は窓ガラスだ。
失敗をした奴でも真顔で見つめる事が出来る、俺の日常がまた始まる。
社会人が、書類とにらめっこし合う午後五時。
当然、この場所は誰も居ない。
……とか言うはずがないな。何も始まらんし。
「うしし、仕事サボるとは流石俺! 悪い奴だぜ」
……お前は体育の時「教科書置いてきた〜」とか言って教室で準備体操をふける中学生か。
コイツこそ、中学生並みのアホまる出し平社員、
杉並。
今、ここの渡り廊下の隅に貫く柱の陰に隠れている奴である。
「ふおぅ、トイレ、ロッカー、シャワールームと隠れて来て、遂にここまで来てしまうとはなぁ」
どんだけ逃亡してんだよ、仕事しろ。
「まあ? 俺天才だし? いっか」
何に対してそんなに自信満々なんだ。
しいて言うならお前は〔かくれんぼの天災〕だろうが。
「よーし、このまま永遠に逃げ切ろ……」
「おーいそこの君、こんな所でどうしたんだい? もしかして、体調が悪いのかい」
「あ」
そこに居たのは、悪の組織でも良心で悪人を取り締まる正義の使徒。
警備員さんだった。
「…………マズイ」
さあ、かくれんぼの天災VS正義の警備員の一戦がまもなくスタートだ!
すりー、とぅー、わん…………レディ、ファイト!! カーン!(コング音)
「あの、大丈夫かい?」
「いえいえ! ダイジョーブでっす! 平気元気やる気のスタミナ充電してあるんで!」
「何語か知らないけど、元気なんだね。それは良かった」
「ういっす!」
「じゃあ、君の部署探して落とし物の社員をお預かりしてます、っていう連絡をするから」
「……すんませんした」
カンカンカンカン!!(コング音)
勝者、警備員!
光の様な速さだ。
「仕方ないっすね、敗者は大人しく引き下がりますよ」
意外にも、杉並はB館に戻ろうとしたが。
「ちょっと、話を聞いてくれないかい?」
「なんすか」
「君は、馬鹿ではないと思うよ」
警備員さんは、微笑した。
「いきなり何を……」
「だって、体調が悪いフリをしなかったじゃないか」
「……は?」
杉並の目が開く。
「あそこでそのフリをしたらどうなる。元々の嘘が更に延びていくだけだろう?」
「……それはそうすっけど」
「君は、その展開になるのを察して、誤魔化さなかったんじゃないのかい?」
まさか杉並が、少しでも事の予測をした…………?
「すんません! そんなの考えてもみませんっした!!」
「え、あれ?」
警備員さん………………
杉並
平社員。逃亡癖有り。
しかし、戦闘兵となる社員をこれ以上クビに出来無い、と上司達の悩みの種。けして杉並区お住まいの方々に逃亡癖があると言いたい訳では無い。
小笠原
警備員。もうすぐ還暦。よく人の相談を受ける。
昔、とある社員に「なんで警備員をやっているのか」と聞かれ、「じゃあなんで君はここに居るのかな」と逆に質問し、泣いて逃げられた事からどんな質問でも真剣に答えるようになった。