069「ソラとレイブンの…とある日常」
「ソラとレイブンの…とある日常」
この世界での、普通の日常が戻ってきた
但し此処は、何処かで運の悪い誰かが色々な意味で食べられる
弱肉強食の世界、皆それぞれ必死て生きているが
ソラとレイブンは、安穏とした時間の中で・・・
『平和って良いっすね』と、会話をしながら昼食を楽しんでいる
『ソラ…お前にとっての平和ってコレで良いのか?』
ソラの「平和発言」に、少しばかり不安を感じるレイブン
『え?良くないっすか?レイは意外と我儘っすね…
自分がトラブルに巻き込まれてない状態なら
俺的に何時も、平和だって思えるっすよ?』
世界に馴染めば馴染む程、段々とズレて行くソラの感覚に対し
レイブンは事ある毎に呆気にとられるばかりだった。
目の前・・・
2人が昼食を楽しむ、夢路の営む喫茶店の前では
精神的なメンタル面での
壮絶な、女同士の血で血を洗う戦いが繰り広げられている
『それにしても、皆さん健気っすよね
「後継者できたから、落着いて家庭でも持とうかと検討中です。」
って言う、夢路さんの一言で集まって
夢路さんの理想の「御淑やかな女性像」に近付く為に
物理的な暴力で解決しない方向で、競い合ってらっしゃるんすから』
ソラの解釈を聞いたレイブンは
『何処をどう見て健気だよ…コイツ等、陰険でマジヤバイ戦いしてるぞ』
顔を顰め溜息を吐いた。
『まぁ~でも確かに、俺達には関係ない事か』
レイブンが、遠い目で争う女達の姿を見てから
『さてと…今日も店が暇になりそうだし、行くか?』
『そうっすね』
2人はイロハと御供のアジュライトに挨拶をして会計を済ませ
夢路の店とハイガシラとフィンの家を結ぶ地下道から
この地下世界最大の書庫へと向かう
時間ができると、ソラとレイブンは・・・
ソラの苦手な蛇女のブームが管理する書庫へ足を向けて
夢路の後を継ぐ後継者としての勉強をしに行っていた。
全ての時間には、同じ時間枠の中に
似て非なる幾つかの歴史が束になっていて
複数の同じ日が同じ場所で、違う歴史を紡いでは
引き合い、1つの流れを作り・・・
纏まっては、何かの拍子に分かれては纏まるの繰返しをしている
そんな世界を学ぶには憶える事が沢山あって、厖大過ぎて・・・
厭きない様に知って行くのは、本当にとてつもなく難しい
一度厭きて逃げ出していた経験のあるレイブンは・・・
その経験をソラに伝え、共有して・・・今はまた、勉強に励んでいる
そして今日も、ソラとレイブンが書庫に辿り着くと・・・
白い大きな犬と白い渡り鴉がソラとレイブンを出迎えてくれた。
夢路曰く、夢路が後継者と呼ばれていた時代から
後継者の御目付け役をしていたらしい
白い渡り鴉のセレスが、レイブンの腕に舞い降りる
『偉いぞレイ君!最近、皆勤賞物なんじゃないかってくらい
ちゃんと勉強しに来ているじゃないか!』
セレスは御弁当を食べていたらしく少し汚れている
『師匠…そんな状態で書庫に入ったら
怒ったブームに一飲みにされちまうんじゃないのか?』
レイブンが楽しげにクスクス笑う
それに気を取られていたソラは、白い大きな犬の体当たりされ
その場に顔面から倒れ伏した。
『ソラ!聴け!食べ物ってこんなに良いもんなんだな!
俺様、マジで幸せ過ぎてショートしそうだよ!ショートしないけど!』
ロボット犬から、セレスと同じナノマシンで出来た生き物になった
ナナシが、ソラを下敷きにして暴れて幸せを体で表現する
ソラからヤバそうな呻き声が聞こえてくるが
ナナシは気にせず気が済むまで暴れ、気が済むと・・・
『あれ?ソラ?なんだ!寝てんじゃん!仕方が無いなぁ~』と
書庫の寛ぎスペースの応接セットの大きなソファーへと
ソラの首筋ラインの服を銜えて、スキップする様に走り運んで行く
『あぁ~ナナシまで汚れてんじゃん…ブームが見たら怒るぞ』
レイブンは床の食べかすを掃除しながら
何故か自分でも分からないままに、楽しげに笑っていた。
そんな、新しい日常・・・そんな日常を繰り返し・・・
過去の時代を学んで行く中で、変わらない事実と変わった現実を見付ける
ソラは学ぶ事に飽きると
時々・・・自分の身内であったモノ達の事を検索する
『あ・・・どうやってても一緒なんすね』
ソラは地域のローカル新聞に載っていた
「とある日」の「同じ事件」の新聞記事を幾つか確認する
『どうあがいても、母さんってば自分の子供をたくさん産んで殺して
児童手当の不正受給で捕まるんすね…』
ソラは溜息を吐く
『俺的には、最初から殺人扱いじゃないのが不思議だな…』
レイブンは特には気の無い様子で、タブレット端末を使い
ソラと同じ記事を読んでいた。
『虐待し殺された母さんの他の子供等がウカバレナイっすね
全部「疑いで捜査中」って事になってて…結果もグレーゾーン扱いで
まるで存在した事が嘘だったみたいっす』
ソラの静かな声色が、書庫の冷たい空気に掻き消されて行く
『罪を裁いて欲しいって、正義感持ってのアレじゃないっすけど
悔い改めて後悔して、二度とさせないだけの
教育だけはして欲しかったっすね』
これは叶えられそうもない、ソラの悲しい願い・・・
『ソラ、それは無駄な事だよ
世の中には更生できる人間と、どうやっても更生できない人間がいる
母さんは「更生できない方」の人間だ』
レイブンは、その願いに諦めを与える言葉を何時も口にする
ソラとレイブンが座るソファーの向かいのテーブルには
ブームと家庭教師ロボのカグヤが見付けて持って来てくれた
幾つかのタブレット端末に表示された資料が置いてあった。
そこに書かれている内容は・・・
更生する事無く、社会に復帰した女が死ぬときまでやらかし続けた
同じ様な罪での犯罪の記録である
ソラは「ある新聞記事」を読んで自嘲気味に微笑んだ
『俺が戻って必死に頑張っても、何一つ意味は無いんすかね』
『無いだろうな…それ読んでまだ、あの生き物を信じたいのか?』
『そう言う訳じゃないっすけど…ちょっと残念すよ』
暗い空気が2人を包む
空気を呼んだセレスが2人の元に舞い降りた。
『変わる未来もあれば、変わらない未来もあるんだよ
全部取り換えの効く未来ばかりだったら、秩序が無さ過ぎだろ?
自分の今、所属している現在以外の事を嘆いていても意味が無いぞ
これからの未来を見て見据えて、頑張れよ』
セレスの言葉にソラとレイブンは微笑を浮かべる
『そうっすね』
何となく救われた感を漂わすソラの首に、レイブンが腕を回し
軽く締めてレイブンが呟く、呟きを耳にしたソラは
レイブンに身を任せる様に体の力を抜いて体重を掛けて倒れ込み
ソラはそこから窓の外に見える鈍色の天井を眺めた。
『何か…青い空が恋しいっす』
ソラの呟きにレイブンはタブレット端末で何かを検索しながら
『そうだな…欲しい機械人形のパーツ情報も無いし、暇だし
海水浴にでも行ってみるか?』と、言った
『え?地下世界の何処かに海があるんすか?』
驚くソラに対し、レイブンが表情を崩し笑いを零す
『ある訳無いだろ?でも、行こうと思えば行ける場所もあるだろ』
『あぁ~そっか…あったっすね』
青い星にある海に反射した青い空を思い出し、ソラは起き上がって
レイブンと同じ様にタブレット端末で何かを検索する
ソファーの背凭れにいたセレスが、レイブンとソラの持つ端末を覗き込んで
『あぁ~いぃ~ねぇ~…夢路に許可を取ってやろう
レイ君!御弁当の準備を始めておいてくれ!』と言って、飛び立った。
勿論、許可は簡単に取れて
彼等は御供と保護者と友人引き連れ、海水浴に行くのだが
行った先で、それなりにトラブルを
起こす事になったり、起こさなかったりしたり・・・しなかったり
行った先とその事に関しては、読者様の御想像に御任せします。
余談として・・・
多分だけど毛艶の良い白い渡り鴉は、海水浴に行った先で
空と海の色を映して、飛びまわる予定ではあります・・・御仕舞w
誤字脱字、表記ミスがあるかもしれないコノ作品を
読んで頂きありがとうございましたw
楽しんで頂けていたら嬉しいなって個人的に思っています。




