067「66 対価」
「66 対価」
何も無い時間と場所、青い星の海に反射する青に包まれて・・・
白い渡り鴉の白い翼が、空色に染まる
ソラは対価を支払い、帰路を進む
進行方向の遠くから、ソラの御供の白い渡り鴉とは違う
同じく白い渡り鴉が飛んでくる
『ソラ?なのか?』
『え?俺、ソラっすよ?
セレスさん?どうしたんすか?俺、何か変っすか?』
ソラは飛んできた方の渡り鴉「セレス」に声を掛けられ
不思議そうな顔をした。
セレスに続き、レイブンもやってきた
レイブンは最初、ソラの姿を見て目を見開く程に驚き
『ちゃんと兄貴として帰って来たんだな…御帰り、ソラ兄さん』
本当に嬉しそうに微笑む
『何すかそれ?ずっと呼び捨てできたんすから
「ソラ」のままでいいっすよぉ~…キモイじゃないっすか!
「ソラ兄さん」とかやめて欲しいっす』と、ソラが言うと・・・
『もしかして、自分の変化に気付いていないのか?』と
セレスがソラの足元に飛来し、肩を竦め
『帰ったら、鏡を見て驚くなよ』と、意味深な事を言う。
『何すかそれ!俺どうなってるんすか?』
ソラが動揺して、鏡も無いのに自分で自分を見ようとして
一人ジタバタしていると、レイブンがクスクス笑う
『何やってんだか…
そんなの帰ってから、鏡を見て確認すれば良いだろ?』
『そうなんすけど…あ、そうだ!』
ソラはレイブンの肩を捕まえ、レイブンの目を覗き込む
暫く、静かな時間が流れた。
『君は、何をやっているんだ?』
ソラの連れの白い鴉が・・・
セレスの横に並び、怪訝そうな顔をする
『え?あぁ~…レイの瞳に映った自分の姿が見えないか?
って、思ったんすけど…意外と、見えないもんっすね』
ソラは、無駄な努力をしていた様子だ
レイブンが呆れ顔で大きく溜息を吐く
『帰るぞ、ソラ!…イロハが待ってる』
何か言いたげな雰囲気ではありつつも
レイブンはソラの手を捕まえ、その手を引き…歩き出した。
2羽の白い渡り鴉が空色を纏い飛び立ち、2人を先導する
長い様な短い様な時が流れる
『俺って何を対価に願いを叶えたんすかね?』
素朴な疑問をソラが零すと
『色々と搾取されてるんじゃないか?
トキノネ堂から奪われる対価は、分かりやすい物から
取られた事すら分からないモノまであるからな』
レイブンが、苦笑いを零した。
疲れる事無く歩き、辿り着いた雑貨屋の前
『御帰りなさい、待っていたんですよ』
夢路が微笑を浮かべ、着流しの袖を片手で押さえ手を振っている
ソラは夢路の姿を見て、レイブンと繋いだ手を離し
一人、立ち止まる
ソラを母親の元から救い出したのは、まだ子供だったレイブンで・・・
乳児・乳幼児・幼児なレイブンを救ったのは、子供の頃のソラだった
そして、体を白い鱗に変化させた夢路の願いを聞く代わりに
イロハを…夢路の営む雑貨屋に預けたのはソラ
『今の夢路さんは、今回の事…どの辺まで知ってるんすかね?』
ソラの遠くから囁く独り言に対して、夢路が・・・
『守秘義務がありますので、それは秘密です。
でも…重ね重ね、すみません…
そしてソラ、ありがとうございます…御苦労様でした。』と
物理的な距離感を感じさせない、不思議な状況を作り出し
皆を雑貨屋の店内に移動させ、扉を閉めた。
一番後ろ、雑貨屋から一番遠い場所に居た筈のソラの背後で
扉の閉まる音と、明るいドアベルの音が響く
ソラとレイブンは振り返り、前に居た筈の夢路の姿を見付け
言葉を失い、沈黙する
何をどうしたらこんな事が出来るのか?は、不明だが
2羽の白い渡り鴉も、知らない方が良さそうな雰囲気に口を閉ざす
『今、何をしたんすか?』
ソラの口にした疑問に対し、今度の夢路は何も言わず微笑んでいた。
遠くから何かが近付いて来る音が聞こえて来る
ドアベルの音を聞きつけてだろうか?
雑貨屋の店の奥、喫茶店の方から何も知らないイロハが
喫茶店から雑貨屋の方へ顔を出し、ソラを見て沈黙してから
『何で、でっかくなってるの?!』と、叫ぶ
ソラ的に色々、夢路に聞きたい事はあったのだが
新たな疑問に相殺され
『俺、でっかくなってるんすか?!』
イロハと同じくらいソラは驚く
レイブンが・・・
『自分の目線の高さの変化に気付かなかったのかよ?』と、呆れ顔になり
『それが、ソラの支払った対価に伴う現象なのかもしれないな』と言う
外見や体格が、レイブンと変わらなくなったソラに対して
イロハは理不尽にも
『ソラ!ずるいよ!私も早く大人になりたい!』と、怒る
怒られつつソラは、存在を残す事に成功した妹を抱締め
『御姫様みたいに抱き上げられなくなったら寂しいから
イロハは、成長を急がないで良いっすよ』と、イロハの耳元で囁いた。
『何それ!意味分かんない!』と、更に怒るイロハ
少々、混乱状態に陥っている雑貨屋の店内
「帰りたいと思っていた場所に帰ってきた」と
実感するソラは・・・
視界の端っ子で、セレスではない方の白い渡り鴉が
飛び立とうとしているのを見付ける
ソラは白い渡り鴉に声を掛けようとして
その白い渡り鴉の名前を知らない事を思い出す…と、同時に
名前を嘗て知っていた様な…名前を呼び掛けた事がある様な…
微妙な感覚に戸惑った
ソラは、イロハを解放し
今度は、白い渡り鴉を…鴉の背後から捕まえて抱締める
『もしかして、名前を…
願いを叶える対価に取られてたりしないっすか?』
ソラは、その白い渡り鴉にしか聞こえないくらい小さな声で囁き
白い渡り鴉は、大人しくなって
『君には関係ない事だ!離してくれ』とだけ、言った。
ソラは虚空を眺め思案し
『この渡り鴉には、名前が無いそうっすよ
イロハちゃん…こいつに名前を付けてやってくれないっすか?』
人知れずソラも知らずに、白い渡り鴉への救済を口にする
『名前を付けて飼っても良いの?』
イロハのテンションが上がった
傍から見ていた夢路は、少し困った様子で『飼いたいんですか?』と言う
イロハは笑顔を振り撒き
『飼いたいに決まってるでしょ?私もペットが欲しいもの!
レイお兄ちゃんにはセレス、桜花にはジャンゴ
ソラにはもう、ナナシがいるんだもの!ソラにもう一匹はズルイ!』
そう言われて夢路は・・・
『そうですね…ソラには、ナナシって手もありましたね』と、言い
『じゃぁ~ちゃんと仲良くするんですよ』と
イロハに白い渡り鴉を引き渡す
その近くで、セレスが『誰がペットだ!』とか
ソラが『ナナシって俺のペットだったんすか?』とか
レイブンが『機械人形もペットに入るのか?』等
疑問を口にしているのは無かった方向で・・・
イロハは大喜びして、渡り鴉に名前を考え
『そぉ~ねぇ~…じゃぁ~
「アジュライト」ねぇ~?アジュライトってどうかしら?』
無邪気に微笑む
『最近読んだ海って言う場所を旅する、冒険小説に書いてあった単語よ
航路に迷った海賊が進む方角を決める為の石の名前なの!』
イロハの言葉を聞いて『良い名前をありがとう、使わせて貰うよ』
セレスではない、白い鴉が優しく微笑んだ。
予定のストーリーを書き終わり・・・そろそろ、この御話は終わります。
他ので書くけどw




