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066「065 モノは言い様、伝え様」

「065 モノは言いようつたえ様」


公園を出た時より日がかげ

世界は薄暗くなって、急ぎ足で夜へと向かっていく


『カーテンを開けたら、帰ってきて良いよって合図あいずだから』

ソラは、何度いつも繰り返し母親に言われていた言葉を思い出す

「でも…母さんってば時々、閉め忘れるんすよねぇ~

最初からカーテンが閉まってなかった…なんてのが

俺の気の所為せいなら、良かったんすけどね」


嫌な予感が的中してしまった事を残念に思いながら

ソラはひざかかえてうつむき小さくうずくまっている、小さな影の元へ向かう

『イロハ…ちゃん?』

ソラには何となく・・・何があったか経験上、分かっていた。


動揺どうようかくせず、オロオロする白い渡りがらす

イロハは、心を閉ざしているのか?声を掛けても無反応で

差し伸べられた手を取る事も、拒絶きょぜつする事もしない


ソラは「誰にどういう対応をされたか」が、容易よういに想像付くだけに

掛ける言葉を見付ける事が出来なかった。


下手へたに…イロハちゃんに対して、ひどい対応をした人の事を

非難ひなんする事はできないんすよね」

ソラは、自分が同じ経験を幼少ようしょうころにした事があり

周囲の人間に同情され、自分を虐待ぎゃくたいした相手を非難されて

すご不愉快ふゆかいに思った事がある…だから、掛ける言葉を見失う


「この時期って…

あぁ~んな鬼畜きちくな生き物でも、絶対的な存在なんすよね

どんなに求めても、絶対に手に入らないって事が理解できなくて

さからう事も、否定する事も、嫌いになる事も…

ましてや、逃げ出して誰かに助けを求める事なんて

アリエナイんすよね」

ソラはイロハの正面に座って、まずは優しく頭をでてみた。


イロハは、大きな反応を見せなかった

ソラは、イロハの顔を正面に向かせて

かみれて前髪を分け、髪に隠れた顔を…その表情を見る


髪に隠されていたのは、人形の様に表情を失った顔

何もうつしてないかもしれない、うつろな瞳

痛々しさを演出するかの様に、イロハの片方のほほ

ほんのり赤みが差している

薄暗くなってきたのにもかかわらず、赤み発見できると言う事は

明るい所で見れば、酷い状況に違いない


『あぁ~やっぱり…やったのは、母さんなんすね』

自分の守り方を知らない

母親に「自分を大切にするよう変わって欲しい」と

願う事も知らない

虐待される事を「ヤメテ」と、言う事も出来ない

幼児特有ようじとくゆうの反応に、ソラはしずかに涙をこぼ


たたかれそうになったら…

「叩かれるのはいやだ」って、言っても良いんすよ

「痛い」から「ヤメテ」って、大きな声で言って良いんすよ』

ソラが赤みが差している方の頬に触れると、イロハは一瞬だけ顔をしかめる

どう考えても、痛かったであろう


頬を力任ちからまかせに強く・・・でも、あざが残らない程度に・・・

痣にしない知識と、悪意を込めて「叩きたい」と言う意思を持って、

母親が叩いたのであろう事は明白だった


流石さすがは、元ヤンっすよね…」

ソラが触れた頬のしんかたく、熱を帯びていて

見た目には分からなかったが、明らかにれていた。


ソラの想像の通りなら・・・

声を掛けても返事が無く、話し掛けても何も言わなかったのは

口の中が切れて痛いから、軽く返事すらできない

つらい状態にあったからに違いない


ソラは、それをまえて

「あの人の事だから

手を上げるだけじゃまなかったはずっすよね」少し、思案しあん

ある事を思い出して、思い立った。


『もしかして、イロハちゃん…

母さんに「帰って来るな」って言われなかったっすか?』

ソラの問い掛けに、イロハは頷き


『それは大変っす!まだ、こんな場所に居たら…

母さんに「帰って来ようとした」って勘違かんちがいされてまた

すっごく怒られてしまうじゃないっすか!』

ソラは、大袈裟おおげさに言葉をつむぐ・・・

イロハは母親に嫌われる事をおそれ、涙目になって身をふるわせる

そんな「ソラとイロハ」を

白い渡り鴉が何か言いたげに見詰めていた。


白い鴉の視線を感じ、ソラは鴉に向けて一瞬だけ意味深に微笑む

『イロハちゃんがのぞむなら…

俺がイロハちゃんを「この場所」から連れ去って

「母さんが怒る事の出来ない場所」まで、送って行ってあげるっすよ』


イロハはソラの言葉に反応して

助けを求める様な眼差まなざしを向けて、何度も何度も頷く


『俺にさらわれてくれるんすか?』

ソラは、更に頷くイロハに優しく微笑み

イロハの首にベビーリングをぶら下げたくさりをかけ

軽々と片腕でイロハを抱き上げた。


日が沈み、黄昏時たそがれどきを越えて暗くなった夜道・・・

傷付いたイロハをいたわる様に、イロハのきずいたまない様に

ソラが夢路ユメジの元へと続く道をゆっくり歩く


それでも、うでの中のイロハの薄いキャラメル色の毛が

やわらかそうに、フワリフワリとれていた


れ違った塾帰りらしき女子中学生達の集団がヒソヒソと会話し

『あ、ワンコ連れてる』『御散歩おさんぽかな?』『パピヨン可愛かわいぃ~』等と

小さくさわいでいる


イロハが中学生の娘等のワンコトークに反応し

『ワンコ…どこにいるんだろう?』と、周囲を見回す

ソラは素知そしらぬ顔で、微笑を浮かべて

『ホント、何処どこに居るんすかね』

イロハの背中を優しく撫でた。


ソラは夢路の店ではなく、何時もの空き地へやってきた

『君は何を考えているんだ?此処ここには何もないだろ?

もしかして、此処で母親が来るのを待つつもりか?』

白い渡り鴉が、説明を求めソラの頭上を旋回せんかいする


『俺ってば昔、お兄ちゃんなレイに此処から連れってって貰って

弟なレイを此処から夢路さんの所に連れってった事があるんすよ』

ソラは白い鴉に明るく笑い掛けて、空き地の奥へと進む


ソラが進むと、空き地の奥に森が姿を現した

イロハは景色の変化に驚くも、子供らしく大喜びする


『此処って、夢路さんの店の裏側になるんすよ

今、夢路さんの店…

営業時間外だから裏からの方が良いと思ったんすけが、如何いかがっしょ?』

ソラは、腕の中で騒ぐイロハを落としてしまわない様に抱き直した。


『ちょっとせない部分は有るけど

君って、ひそかにあの店の常連客だったのか?言っといてくれよ』

ソラの説明を聞き、白い鴉が溜息ためいき


『それは無理っすよ

俺もそれを思い出したのは、ついさっきなんすもん』

ソラは、イロハの首に掛けたベビーリングに触れ

られた文字を見て苦笑にがわらいする


「親父は自分以外の事に無頓着むとんちゃくだから

コンナ事になっているだなんて、思いもしないんすよな…」

そこには名前と生年月日、産まれた時の身長体重が彫られている

これをイロハの為に注文したのは、ソラとイロハの父親だった。


ソラは繰返すタイムトラベルの中でその事を知り

母親が貰って早々に売り飛ばしていた事も、見て知っていた

森を抜けた先で待つ夢路にソラは、自嘲気味(自嘲気味)な笑顔を向ける

『後の事、よろしくたのんで良いんすかね?』


夢路はソラから、イロハを受け取り微笑む

『おやおや…これはどうも、ありがとうございます。

イロハを「そろそろ迎えに行こう」とは思っていたんですよ』


受け渡された当のイロハは、不思議そうな顔をして

『お姉さん?迎えにってママに頼まれたの?』と、言う


『そうですよ…でも、大分前に頼まれていたんです

この度は迎えが遅れ、私直々に迎えにも行かず

本当に申し訳ありませんでした。』

夢路はイロハに真剣にあやまった。


謝られたイロハは若干じゃっかん、動揺し

『そっか…それで帰ったから怒られちゃったんだ』と

勘違いして納得し、糸が切れた操り人形の様に眠りに落ちる


夢路は『貴方達の願いは何ですか?』と、質問し

ソラと白い渡り烏に対して、微笑み掛けた


質問されたソラと白い渡り烏は躊躇ちゅうちょなく

『イロハの幸せっす』・『イロハの幸せです』と

声と願いを重ね合わせ、互いの同じ願いに笑い合う


かしこまりました、イロハの母親の願いを破棄はき

それ相応の対価と交換に私が、その願いをかなえましょう』

夢路はイロハから・・・

母親願いと一緒に、イロハの首に掛けられたベビーリングを外した。

物語には関係ありませんが・・・


他人様の勘違いをも利用する会話術

誤解を解かない方向で会話を続ける話し手の技量


それに初めて気づいた時、友達選ばなくちゃなって思いましたw

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