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065「64 幼いイロハ」

「64 おさないイロハ」


時間をわたぎて、感覚が可笑おかしくなってきたころ

まち景色けしきが少しづつ、見覚みおぼえの無い物に変化していく

ソラが学校に通っていた時、建設予定だった建物が完成し

運営を失敗したのか?すでにちょっとさびれている


そんな街並に、ソラの良く知る面影を残した女が歩いている

その後ろには、必死で追い付こうとするピンクのスモックを着た

色素の薄いかみの小さく幼い子供の姿

『母さんと…あれは、イロハちゃんっすかね?』ソラがつぶや

白いからすが『間違い無い、イロハのにおいがする』と

つらそうな表情でイロハを一度だけ見て、目を閉じ

顔をらし視線を逸らした。


ソラの母親は、少し肉付が良くなり

相変あいかわらず、値段の高そうな若作りな服装に身をつつんでいる

それに引きえ、その後ろに付いて歩く子供は

よごれた衣類いるいに身を包み、御金を掛けてはもらっていない様子だ


『母さんは・・・

本当にどうしようもないくらい、子どもを愛せない人っすね』

ソラから聞いた事が無いほど、冷たい声色が発せられる

『ソラ、目的を間違えるなよ』

白い渡り鴉は、心配そうにソラを見詰めていた。


何処どこからともなく、携帯の着信音が小さく短く

イロハと母親の後を付けていた、ソラと白い鴉は躊躇ちゅうちょなく

立ち止まる母親とイロハを追い越した


ソラは追い越しざまに見た・・・

暗くしずみ、全てをあきらめた様なイロハのうつろなひとみに胸が痛くなる


それとは打って変わり

後ろから、うれしそうにはしゃぐ母親の声が聞こえて来る

『今から?良いわよぉ~待ってる、早く来てね』


ソラはだまって、アパートの近所に今も存在していた

木がれ雑草が自由気ままに育つ、遊具がこわれたまま放置された

管理が行き届いていない寂れた公園の中に入る


白い鴉は居場所にこまり、公園内を旋回せんかい

その公園に昔からある石でできたベンチの背凭せもたれに舞い降りる

ソラは、白い鴉が舞い降りたベンチに腰掛けた。


ソラは見たくないモノから目を逸らすかの様に

背凭れに大きく持たれ、首を後ろにれて腕で目をおお


遠くから『呼ぶまでに、帰ってきたらゆるさないから!』と、言う

母親の辛辣しんらつな言葉が、聞き耳を立てなくても聞えて来る

白い鴉は、公園に置き去りにされるイロハの様子をうかが


近所に駅もバス停も無く、通学路からも外れた人通りの少ない通り

日が高くとも、はいした寂れた陰気いんきな公園で遊ぶ者はいない

公園にはソラと白い鴉、イロハしか存在していなかった。


小さな足音が、ソラと白い鴉の元にゆっくり近づいて来る

『こんにちは!えっと…鳥さん、さわってもいいですか?』

予想外のイロハの行動に、白い渡り鴉はたじろぎ・・・

ソラはおどろきつつ、あわてずに姿勢しせいを正して目の前の幼い少女を見る


長袖の園児服にかくされた・・・

あざり傷の多い、小さくせ細った身体

手入れすらされていない、もつ毛艶けづやの悪くなったかみ

痛んだ長い髪に隠された目には

ソラ達に対する好奇心こうきしんと、小さな期待が映し出されていた。


ソラは、言い様の無い切ない感情にさらされ・・・

白い鴉に目でうったえ掛けてから、やっとの事で

『いいっすよね?』と、白い鴉に対して強引に同意を求める

白い鴉はちょっとこまった様子で・・・

溜息混ためいきまじりに『仕方が無いなぁ~』と、言葉を発する


イロハが目を驚きで見開く、白い鴉は失態しったいに気付いたが既に時は遅く

『しゃべった!すごい!鳥さん、もしかして「きゅうかんちょう」?』

イロハに一瞬で捕獲ほかくされ抱締だきしめられ、鴉はもみくちゃにされた。


『鳥さんお名前は?ドコから来たの?近くにすんでる?

まいにち、この公園にあそびに来てるの?おなかすいてない?』

答えを待たないイロハの質問攻撃に、話し掛けられた白い鴉は

イロハに捕まえられたショックから抜け出す事も出来ていなくて

目を白黒させて慌てふためいているだけだった・・・


ソラはそれをながめ、少し笑って

九官鳥きゅうかんちょうじゃない事、何時いつ教えたらいいんすかね?」

白い鴉の名前も知らない、教えて貰ってもいない

白い鴉に、名前があるであろう事にも気付かなかったソラは

イロハの質問が、どれも答え辛い質問なので無視する方向にして

かつて自分も住んでいた、アパートの一室の窓に目を向けた。


「何て言うか…古くてボロイっすねぇ」

それでも、一度は外観を改装かいそうされたのであろう・・・

記憶の中にあるアパートとは違う色の屋根と窓の手摺てすり

ただし、改装してからの時を告げる様に

ペンキは浮き上がり所々、はがれ落ちてびた地を晒している


「前の俺は、何にかれて家に帰ってたんすかね?

帰るメリットも、あの人のため頑張がんばる価値も無かったのに」


『コレ美味しいんだよ!』

気付けば、ソラが意識を過去に飛ばしている間に

姿を消し、戻ってきたイロハが『スカンポ食べる?』と

白い鴉に詰め寄っていた。


公園の…蛇口が錆びた水道で洗ったであろう

れた若い植物のくきを突き付けられて白い鴉は・・・

本気で困って、ソラの目を見てソラに助けを求めている


その様子を見てソラは『1本貰っても良いっすか?』と

イロハからスカンポと呼ばれた「イタドリ」の若い茎を1本分けて貰い

『わぁ~なつかしいっすねぇ~…

俺もイロハくらいの時、オヤツにしてたっすよ』と

鴉に食べるのをすすめるかのごとくにイタドリ食べて見せた。


口の中にさわやかな酸味と、ちょっとした青臭さが広がる

「懐かしいとか言って、割と最近まで食べてたっすよねぇ~

後、躑躅つつじの花のみつってたりとか…」

周囲を見回し、生き残っていた躑躅の木を見付け

ソラは背の高い躑躅の木にいた、濃いピンク色の花をみ取る


『あぁ~!ズルイ!』イロハが一際ひときわ、大きい声を出す

イロハは、すごいきおいで走って寄ってきて

『それ!イロハもほしい!』と、言う


躑躅の花は、イロハの手に届く木の下の方に咲いてはおらず

地面に枯れた花が茶色く積もるだけとなっていた・・・

「これってまさか…

イロハちゃんが花を摘んで、蜜を吸い尽くした結果だったりして』

もしそうなら、世知辛せちがらい現実である

ソラは新しそうな、蜜の詰まっていそうな綺麗な花を

上の方から選んで摘み、イロハの手の上に積んだ。


躑躅の花の御蔭で白い鴉は開放され

ソラとイロハは世間話・・・と、言っても

食べられる野草情報と簡単調理法で盛り上がり、夕刻の時を迎える


何処どこからともなく夕食の香りがただよって来て

満たされない腹の虫が鳴り始めた。


イロハは電気の明かりがれる、自宅の窓に目を向け

『カーテンが開いてるから、帰るね』と言って

嬉しそうに公園の奥へ走って帰って行く


ソラはちょっと違和感いわかんおぼえて、白い鴉に問い掛ける

『あの部屋の窓のカーテンって、閉まってたっすかね?』

『知らんし…

君は誰もが自分の見たモノに興味きょうみを持つと思っているのか?

理解に苦しむよ』と、返される


『…イロハちゃんの後を追いかけよう!』

ソラは何故なぜか嫌な予感がぬぐえずアパートの正面へと向かう為

イロハが行った方向とは逆の方向に走り出した


『え?そっちに向かうのか?こっちから行けるんじゃないのか?』

白い鴉はイロハが向かった方向をつばさした

『抜け道あるんすけど、小さい子しか通れないんすよ

悪いけど、空からアパートの正面に回って欲しいっす!

俺もそっち向かうっすから!』

ソラは全速力で公園から、アパートの正面入り口に向かい

一番奥に有る、嘗て自分が住んでいたアパートの前までやってきた。


『ソラ!こっちに来てくれ!』

白い鴉の悲痛さを感じさせる声が

ソラ的に思った場所とは、違う場所から聞こえてくる


ソラは声のした方向へ向かう

公園への抜け道のある駐車場の片隅かたすみに、白い渡り鴉と

無表情な幼い子供の姿を見付けた。

育ってアクが強くなったイタドリや

若くても収穫して時間が経ったイタドリは、アクが強くなってしまうので

体に悪いので食べちゃ駄目です!


なぁ~んて無駄知識、最近の若い子にはイラナイ知識ですかねぇ~・・・

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