060「59 繋がり」
「59 繋がり」
最初から家にあった物と
ソラが夢路に依頼されて持ち帰った物
レイブンとイロハが、この世界にキープしていたモノは
幼い頃の微かな記憶と、繋がりを証明する証拠
分かった事は、ソラとレイブンとイロハの血の繋がりと
レイブンとイロハの育った過去の環境に、ソラが存在していなかった事
そして、ソラが元の場所に帰る方法が
分からないままである…と、言う事だった。
『帰れるんすかね…そもそも、帰ってもいいんすかね?』
あった証拠と持ち帰った証拠の検証をした日から
ソラは自問自答を繰り返す
『俺が帰ったら、レイ君とイロハちゃん…どうなるんすかね?
過去が変わったら、今も変わるんすかね?
そもそも今いる今って何時なんっすかね?未来?
それとも別世界?別世界なら…』
取り留めの無い呟きだけが零れ落ちては消えていた。
『それ以前の問題で俺って、本当に帰りたいんすかね?』
「義務教育だから」と、強引に通わされていた学校・・・
『アレに「通い続けたい」とは、今も思えないっすね』
行く場所が無くて、他に帰る場所が無くて帰るしかなかった
母親と一緒に住む小さなアパートの一室・・・
『ゴミ屋敷状態になって無いかが気掛りっす』
恋人がいない間だけ母親に戻る「ソラの産みの親」
でも、その母親は恋人が出来ると恋人に捨てられるまで
ソラを蔑ろにし続ける習性があったりする
でもでも、ソラの母親は恋人に捨てられると
何処の誰よりもソラを「必要としてくれる」存在であった。
でも、レイブンとイロハは
母子家庭で何時も「母親と二人きりだった筈」だと言う
ソラの記憶の中の母親は、恋人を切らす事の少ない女性だった
『俺の母さんと、2人の言う母さんは本当に一緒なんすかね?
同じ世界の同じ人なんすかね?』
家もゴミ屋敷程には散らかっていなかったらしい・・・
『別世界の同じ人だけど、同じじゃない人みたいなの
だったりしないっすかね?』
ソラの答えの分からない問題に対して、答えられる者は
この世界に存在していなかった。
更に延々と、ソラの中で繰り返される自問自答
『俺…母さんに「会いたい」のとは、ちょっと違うっすよね?』
それは自分の中での確認
今いる世界は、それなりの居場所が存在していた
ちょっと前まで、それは誰の居場所でも良くて
ソラの代わりに誰が居ても居なくても
もしかしたら、変わらないかもしれない場所だと思えていた
「ソラ自信を強く必要としている訳ではない」と、思えていた
世界と…そこに住む人々は、ちょっと置いておいて
「すずき いろは」と出会い…レイブンが弟だと判明して
それは、とても大きくソラの中で変化してしまった。
「どちらに居るのが幸せなのだろうか?」と言う疑問
『何よりも、俺はどちらに居たいんっすかね?』
前よりももっと深くなった迷いのあるソラの独り言
『そもそも、どちらが正しい俺の居場所なんすかね?』
誰も答えをくれる事の無い、自分の自分への質問
ソラは一人で考え過ぎて、虚しくなって溜息を吐き
割り当てられた今日の分の掃除を終わらせて
掃除道具を掃除道具入れに終い、食堂へと向かった。
『ソラ!遅い!待っていたのよ!』
ソラが食堂へ行くと・・・
イロハが、ソラの腹に体当たりをして抱き付いて来た
因みに・・・
年はレイブンのが上だけど、ソラが一番上の兄だと言う事実は
『そうなんだ…でも、よくある事らしいよ』と
軽くイロハに受け入れて貰えていたりする。
但し、受け入れて貰う事はできたのだが
イロハ曰く・・・
『私に「お兄ちゃん」って呼んで欲しかったら
私より強くなって、私を守れる存在になってから言うのね』
ソラは密かに最弱の部類に入る程、体力が無く弱いので
ソラがイロハに「兄扱い」して貰える可能性は
「極めて低い」と提示しておこう。
ソラはイロハに呼び捨てにされながらも
『今日も店、御休みなんすか?』
懐いてくれているイロハのあり方が嬉しくて頬を緩ませる
『喫茶店の方は営業中だけど、雑貨屋はお休みなの
そうだ!聴いてよソラ!
夢路が喫茶店の方で仕事しちゃ駄目って言うのよ!
私の御仕事、勝手にレイ君の御人形にあげちゃったの!酷くない?』
イロハの方は頬を膨らまして怒っていた。
イロハの付き添いで来ている夢路が、茶碗に抹茶を点てながら
『最近、地面に突き立った飛行機が
この周辺の観光の目玉に成っているのは知っていますか?
その為に観光客が増えてしまって
裏路地になる、この周辺の治安が悪くなってしまっているんです
客層も悪くなって来ましたし
無防備にイロハを喫茶店に置いておけなくなったんですよ』
事情を話し、苦悩の表情を見せる
『イロハちゃんは可愛いから、狙われそうっすもんね』
『そうなんです、頻繁に狙われてしまって大変で…』
ソラと夢路が溜息で会話していると
『でも私、客に押し負けたりしないわよ?』と
論点が分からないままイロハが会話に参加してきた。
『客を簡単に押し負かしちゃ駄目っすよ…
相手は御客様なんすから、もうちょっと平和的に…』
ソラは一度、イロハが御客様を食材にしてしまったのを見てから
イロハの見方を少し変化させていた
見た目可愛い少女でも
この世界に染まり、適応してしまえば…危険な存在なのです。
『でも、それも難しいんですよね
御客様には丁寧に接客してあげて欲しいのですが…
丁寧にしていて隙が出来てしまうと
御客様が襲って来て、接客する側が危ないんですから』
ソラは夢路の言い分と苦悩を聞いて
この世界の怖さと、接客をする難しさを何となく実感した。
『所で、裏の店の方は何故に休みなんすか?』
『身内を殺した罪で警察沙汰中の御客様が
頻繁に来店するのは好ましくないので、閉めてます』
『何か大変っすね…でも、そんな経営状態で大丈夫なんすか?』
『大丈夫ですよ…裏の店は所詮、裏の仕事ですから』
夢路の意味深な言い方が気になるモノの
ソラは夢路から感じる「これ以上は話すき無いですよ」と言う
雰囲気に負けて話題を変える事にする。
『それじゃ…
イロハちゃん仕事無くて不都合があるんじゃないっすか?』
この世界のルールは「働かざる者食うべからず」だけでなく
「働けるのに働かない者は食べ物になる方向」なので
ソラはそっちも気になっていた
『そうよ!そうなのよ!
今までの仕事が駄目なら、他の仕事を探さなきゃ駄目なの!』
イロハもその事で気を揉んでいる様子だった。
夢路がイロハの肩をポンと叩き
『その事なら、大丈夫ですよ』と、微笑む
『喫茶店の方…
レイ君が最近、持って帰ってきた機械人形の性能が良くて
キッチリ、イロハの分の仕事を引き継いでくれていますよね?
レイ君的にそれって機械の機能テストだから
そこの所は「イロハが働いた事にする」って宣言してました。』
『え?良いのそれ?』
『その代わり、空いた時間でスキルアップして欲しいそうですよ
将来的にレイ君とハイガシラとでやってる会社の
秘書としてイロハを雇いたいそうです。
私もその会社に出資しているので、頑張ってほしいと思っています』
そう言って夢路は、何処からともなく大量の本と
見た事の無い機械人形を2体、連れてきた。
『こちらの「優しそうな御兄ちゃんモデル」の機械人形が
イロハの家庭教師です。
そして、この「熟女風、女王様モデル」の機械人形が
ソラの家庭教師になるので2人とも、しっかり勉強に励む様に!
因みに、ソラ…これは、ハイガシラからの伝言なんですが…
「機械人形に、エッチな事しようとしたら
鞭でビシバシされるので手を出さない様に…」だそうです。』
夢路の発言にソラが『なんすかその伝言!』と叫ぶ
『つぅ~かマジすか!それより何より家庭教師…俺にもっすか?』
『ソラにも、です。
最近、事業が上手く行っていて、自分に余裕ができたので
身内だし、先に来た者として
レイ君は、兄と妹の面倒をみたいんだそうです…』
夢路はソラとイロハの手を取り
『これは余談ですが
ハイガシラがレイ君の養父として、それを援助したいと言ってました
だから、この件に関して2人に拒否権は有りません』
機械人形にそれぞれを引き渡した。