059「58 ブレイクタイム」
「58 ブレイクタイム」
じゃれ合う様に、遊んでいるかの様に2人だけで喧嘩する
ナナシとイロハをクリーニング屋の店内に残し
ソラとレイブンと…レイブンの肩に乗ったセレスは
地上階へ続く階段を登る
『大丈夫っすかね…イロハちゃん
御客様の御飯になったりとかしないっすかね?』
ソラがイロハの事を心配していると
『ん?あぁ~大丈夫だろ?
夢路の所有物に手を出す勇気のあるヤツは早々いねぇ~し
プリムラにメールしといたから大丈夫だ』
レイブンは携帯画面の送ったメールの内容を見せ
『御客様の範囲を越えた事をする客が不審な行動をしたら
自動でプリムラがミンチ肉にしてくれるぞ』
ちょっと怖い事を笑顔で、言ってくれた。
『ミンチ肉だと!』
白い翼で嘴の縁を撫で、セレスが微笑み
『じゃぁ!今夜はミートソース掛けたハンバーグになりそうだな』
何だか大喜びしている
『えっと…セレスさん
ハンバーグにミートソースは変じゃないっすか?
そこは、ケチャップとかデミグラスソースじゃないんすかね?』
ソラのささやかな突っ込みも無視するくらい
『ふッ…ソラ!甘いぞ!ミンチ肉が腐る程、手に入る時にまで
肉を節約する必要があるだろうか?いや!無いだろう!
そこはやっぱり、無駄に肉を使わなきゃ損ではないか!』
セレスのテンションが上がっていた。
『師匠…一応、伝えておくけど
家の店は御飯を捕らえる為の罠じゃないからな!
余所で変な事を言うなよ…客が聞いたら誤解するだろ?
変な噂がたったら、洗濯物を依頼に来る客が減って俺が困る』
レイブンは自分の経営するクリーニング屋を心配し
ソラは、やっぱりイロハの事を心配する
『イロハちゃん怖い目に遭わないと良いんっすけどね…』
レイブンとセレスが微妙な表情をした
『まだ、知らなかったのか…それなら大丈夫なんだよ
イロハは、夢路が育てた最高級の暗殺者なんだからな!』
セレスとレイブンの声がハモった。
『まじっすか!』驚くソラ
『マジだね』自分の事を自慢しているかのような様子のセレス
『俺達がそんな嘘吐いて何の得があるんだよ
そもそも、一人で店番できない女の子に店を頼まねぇ~よ』
そうレイブンに言われて、ソラは暫く閉口し
『俺は?俺の時はどうなんすか?どう思って店を頼んだんすか!』
ソラが矛盾に気付いて食い付いた
『俺!何度も襲われたっすよ!為す術もなくヤバかったんすよ!』
身振り手振りを付け加えて
ソラ自身がどれだけ恐ろしい目に遭ったかを自分で説明したが・・・
レイブンはそんなソラを見て微笑む
『そんなの決まってるだろ?性的に食われても死なないからだよ
この世界、雄少ないから雄の命を取る奴が少ない
だから大丈夫かどうか考えたら、大丈夫な方だと思わないか?』
レイブンの説明を聞いてソラは
『全然大丈夫じゃないっす!それ、違う意味でピンチっす!』
目頭を熱くし、目尻に涙を滲ます事になった。
ソラが理不尽さの涙する中、1階のリビングに到着する
先に来ていた夢路が手招きし、ハイガシラが軽く挨拶してきた
レイブンは軽く挨拶を返し
『久し振りに自分の店で仕事しようと思ってたのにイロハが来て
ちょっと驚いたよ…それにしても、俺の店に派遣して良かったのか?
夢路さんの裏っ側の店…プリムラでは店番できないんだろ?
店を休業して良かったのか?』心配事を口にする
レイブンに心配された夢路は、とっても楽しそうに
『今は良いんですよ!店を開けるだけ無駄なので…
最近、相応の対価を払えない御客様に困ってましてね
その御客様ったら、払える対価以上の恩恵を要求して来るんですよ』と
世間話を始めた。
一時…放置されたソラは、ハイガシラに促されるまま
「いろはちゃんの!」と書かれた箱の前
ソファーの上座、御客様用の席に座らせられ
レイブンもハイガシラに促されて、同じ長椅子のソラの隣に座り
向かいに座り御茶を楽しんでいる、夢路とハイガシラに対峙する
世間話が終わり、ソラとレイブンが席に着くと一呼吸置いて
『何処から話しましょうか…』と
本題に入ろうとしたのは夢路だった。
天井から蜘蛛の様なロボットが、レイブンにコーヒーを配膳し
何処からともなくプリムラの声が聞こえて来る
『ソラは、何を飲みますか?』
始まろうとした話しが中断する
顔立ちの何処にも和が無いのに、着流ししか着用しない
夢路が湯呑で飲んでいるのは多分、茶の色から見た感じ緑茶であろう
ハイガシラはフッサフサの耳と尻尾の毛を揺らし
尻尾では床の掃除をしながら
ティーカップで、レモンの浮かんだ紅茶を飲んでいた
今、セレスに配膳されたのは
カップに、クリーム色の粘度の高そうな液体・・・
『セレスさんのって何すか?』
飲み物に悩んだソラは、参考までにセレスに訊いて後悔した
『カスタードクリームだが…何か問題でも?』
言わずと知れた事かも知れないがソラ的な気分的に、胸焼けするだけで
セレスの答えは、何の役に立つ事もなかった
ソラは少しだけ考え
『じゃぁ~あったかいカフェオレを御願するっす』
何時もと同じ飲み物を注文する
『畏まりました』
抑揚の無い、プリムラの声が響いた。
ソラの注文したカフェオレは
準備されていたのか?割と直ぐ配膳される
『ソラは休憩する時、何時も同じ物を注文しますね
宜しければ、ブレイクタイムの注文を固定されますか?』
プリムラの声の雰囲気から「準備されていたのか?」ではなく
それなりの理由があって、準備されていたらしい…
『あぁ~じゃぁ~御願するっす…』
ソラはプリムラの御期待に添う答えを返して
「最近、グロくて怖いのを見たから
蜘蛛みたいな仕様のロボは今、御目に掛かりたくなかったっす」
躊躇いがちに、蜘蛛の様なロボットに配膳された
湯気の立ち上る熱そうなカフェオレに手を伸ばした。
ソラが飲み物を迷っている間に
ハイガシラとレイブンの2人と話していた夢路が
テーブルに青い園児服を広げ、裏の名前を記入する欄を露わにする
それは、名前を記入する欄は囲む線も擦り切れ
中に書いてある文字も掠れて、読める状態ではなかった
そこで、何故かアイロンと…
香水を入れておくアトマイザーの様に小さいスプレーボトルを2つ
手にした夢路が『見てて貰っていいかな?』と、ソラに声を掛ける。
スプレーボトルは1個づつ色が違い、赤と青であった
夢路はまず、赤いスプレーボトルの中身を御名前欄に振り掛ける
スプレーボトルの中の液体で、布地が濡れ
御名前欄に、ソラにとって見覚えのある名字と
2回は書き直されたであろう、一文字の名前が浮かび上がる
驚くソラを余所に
『忘れないで下さいね』と、夢路は言ってからアイロンを掛け
乾いた御名前欄からは、文字は消えてしまった。
続いて今度は、青いスプレーボトルの中身を御名前欄に振り掛ける
今度は、さっきと違う名前が浮かび上がってくる
また、ソラは驚き…今度ばかりは息を飲んだ
『俺の名前っすね』
そこには「すずき そら」と、平仮名で書かれている
『この服はね…
レイ君がこの世界に来た時に着用していた服なんですよ』
夢路の言葉に、理解するには難しい現実が居座っていた。
『先輩ってば、俺の弟なんすね』
『納得いかない点は色々あるけど…そう言う事もあるんだろうな』
ソラとレイブンは2人で黙って見詰め合い
『兄貴なら、俺を先輩と呼ばずに名前で呼べるよな?
ずっと言おうと思ってたんだが…先輩って呼ばれるのって
好ましくなかったんだ』
レイブンが本音を零し
『そうだったんすか…気付かなかったっす
じゃ、何て呼んだらいいっすかね?』
『適当に…』
『・・・』
この時「先輩って呼び続けてやろうかな?」なぁ~んて事を
ソラが思ったりしてた事は、公然の秘密です。
「適当に呼んでくれ」と、言う人って
適当に呼ぶと「それはちょっと」って否定して来ますよねぇ~w