058「57 子守りロボット」
「57 子守りロボット」
ソラが、機械人形のプリムラに何故だか興味を持たれ
観察されていた事が発覚した、今日この頃…
レイブンが帰ってきて、通常運転に戻った家の中
今日もソラは・・・
何時もの様に地下にあるクリーニング屋の店番をしている
この世界に来てから、掃除と洗濯がソラの仕事になってるのだ
因みに、ソラが持ち帰った荷物についての話しは・・・
夢路さんの本業だと言う噂の
喫茶店の裏でやっているらしい雑貨屋の仕事が忙しいらしく
『もう少し待っていて下さいね』と、引き延ばされたままである。
ソラは客足の少なくなった店の中、店内清掃をしながら
『母さん大丈夫っすかねぇ…』と、母親の事を思い出す
『相手が子供じゃあるまいし…
ソラの母親は、心配しなきゃならない様な生き物なのか?』
ロボット犬のナナシが・・・
引取り期限を過ぎた洗濯物の持ち主宛てにメールを打つ為
PCのキーを爪で叩きながらソラを見る
『確かに子供じゃないんすけど、母さん…家事が苦手なんっすよ
俺が居ないと、直ぐに散らかして
数日で、家の中をゴミ屋敷にしてしまうんすよね』
ソラは、小学校の時の林間合宿と修学旅行が終わって帰った時の
家の中の状態を思い出して、目尻に薄く涙を滲ませた。
『凄いな…桜花みたいな女が他にもいるとは思わなかった』
『は?何でナナシが桜花さんのそんな事知ってるんすか?』
ナナシの発言にソラが怪訝そうな顔をすると、ナナシがニヤリと笑う
『知ってるも何も、俺様はジャンゴの前任者だぞ!
更に言うなら桜花にミルクを飲ませて、オムツを替えてたのは俺様だ』
『マジッすか!でもどうやって?』
ソラが不思議そうな顔をすると
『俺様…元は子守り用の兎さんロボだったんだぞ!』と
PCの画面をソラに向けた。
画面には、育児グッズの広告が表示され・・・
2足歩行の赤い目の大きな兎が、育児をしている画像が映っている
ソラは一瞬、言葉を失い
『最初会った時、玩具の犬ロボットだったっすよね?何で犬ロボに?』
『本体が駄目になって、新しいボディーに入れ替えて貰ったら
俺様、桜花に嫌われて壊されて捨てられたんだ…』
『まじっす?それ?』
ナナシの告白に、ソラは暗い顔をして
『空気読めなくって訊いちゃってすんません・・・』と謝る
『いやいやいやいや…謝んなよ…
でもまぁ~俺様ってば、運が良いから
ジャンゴがリサイクル部品で作った犬ロボの人格に採用されて
セレスの物になって
ハイガシラに作りかえられて、今はソラの物になってるだろ?
悪くないちょっとレアで楽しい人生だぜ?そう思わないか?相棒!』
ナナシの意外な経歴を知り
『そうっすね』
ソラはちょっと、多々複雑な気分になった。
ナナシの方も、自分の過去を話してみて
何となく気不味くなったのか?次の会話が見付けられず
黙って仕事の続きを再開し始める
客足の途絶えた店内を支配するのは
クリーニング作業をする機械達の音と
ナナシのPCのキーを打つ音だけになってしまった。
『ナナシにも色々あったんだな、初耳だったよ
セレスは知っていたのか?』
カウンターの奥にある階段から
レイブンとセレスが音も無く、気配もなく姿を現す
『私も知らなかったよっつ~か、ジャンゴからもそんな話
全く、全然聞いてないぞ!何故、黙ってた!』
御機嫌斜めなセレスが、レイブンの肩の上から飛び立ち
ホバリングしながらナナシのボディに数度、蹴りを入れた。
『セレスさん駄目っす!そんな事したら…』
ソラが慌ててセレスを抱締め捕まえ
『今日の引き取り商品、黒いのが多いから掃除したのに
白い羽毛で汚れちゃうっす!』本音を零す
『なっ!汚れるだとぉ~!失敬な!』
セレスは怒って、自分を抱締めているソラの腕を嘴で突き
『いっ…痛いっすぅ~!』
ソラの悲鳴を静かな店内に響かせた。
地下にあるクリーニング屋でソラとセレスが騒いでいると
レイブン達が降りてきた階段から
猫耳カチューシャを付けた髪色の薄い女の子が駆け下りて来て
ソラをジィ~っと見詰め、凝視したまま立ち止まる
『ん?どうした?イロハ?』
レイブンが声を掛けると・・・
『あ、レイおにぃ~ちゃん!』と、嬉しそうな顔をして
イロハはレイブンに抱き付き『こんにちはぁ~』と、挨拶をした
レイブンは少し困った様子でイロハの頭を撫でる
『こっちに来るなんて珍しいな、何か用事か?』
『夢路がねクリーニング屋さんの手伝いに行きなさいって
「ソラ」って人を呼んでるの…
それと、レイお兄ちゃんの事も捜してたよ』と、言ってから
また、イロハは無言でソラを見詰めた。
ソラも見つめ返し
「この娘…俺の妹かもしれないんっすよねぇ~…」
ソラは「いろはちゃんの!」と書かれた箱の事を思い出し
『えぇ~っとぉ~…仕事を交代して貰ったらいいんすかね?』
イロハと長く、無言で見詰め合ってしまった事に照れて
何となくレイブンに救いを求める
『それを俺に訊くのかよ…つぅーか「手伝いに来た」って言われて
「呼んでる」って言われたら普通、交代して貰うもんだろ?』
レイブンはイロハの頭に手を乗せたまま、呆れ顔でソラを見
『そう言えばそうっすよね』
ソラはクリーニング屋のエプロンを脱いで、壁に掛ける。
レイブンはそれを見て、少し考え…
『イロハ、服が汚れたら不味いだろ?これ使えよ…』
店の隅にある、棚の中央の引き出しから
薄い紙の袋に入った、子供用のエプロンを出してきた
『お!懐かしいな!
それって、レイ君がクリーニング屋を始めた時に作ったヤツだろ?』
セレスの台詞にソラは少し驚いて…納得する
「流石、先輩…御子様の頃から凄い人材だったんすね」
イロハは『えっそうなの?うれしぃ~!ありがとぉ~!』と
エプロンを受け取って、本気で大喜びしている
『えぇ~っと…そう言うのが欲しかったのか?』
レイブンは喜ばれ過ぎて驚き、呟く…
『女の子ってやっぱり、良く分からない生き物だな』
それが聞えたイロハ以外のメンバーは・・・
レイブンに対して「鈍い…鈍過ぎる」と心の中で呟くのであった。
そんな事は梅雨知らず
喜ぶイロハは、いそいそとエプロンを頭から被り・・・
その拍子に、エプロンに引っ掛かって髪に結んでいたリボンが解け
リボンがパサリと床に落ちる
『嘘!どうしよう!私自分じゃ出来ないのに!
ねぇ?夢路の代わりにレイお兄ちゃん…リボン結んでくれる?』
イロハが目に涙を溜め、レイブンに目で訴え
『悪い…そう言うのはちょっと苦手だ』と
レイブンは早々に御手上げだと言うポーズを取り
セレスも、無言で首を横に振った
勿論、犬ロボなナナシも・・・
『やり方は知ってるんだがな…俺様、ワンコだから…』と
結ぶ事が出来る筈もなく、イロハの気分を急低下させる
名乗り出て良いのか?ちょっと躊躇していたソラは
『俺、意外と上手いっすよ』と、名乗り出た。
オロオロするイロハからリボンを受け取り
『どんなのが御好みっすか?このリボン長めっすから
三つ編に編み込んで、後ろにリボン結びも作れるっすよ』と、言う
想像がつかない一同は首を傾げ
『それって…私、可愛くなる?』と、イロハに言わせた
『きっと、その猫耳カチュウシャにも似合うっすよ』
ソラには自信がある様だった
そしてその出来上がりは・・・
『凄い!何でこんな事出来るの?今度、教えてね!夢路に!』
と、イロハ大絶賛
『これから、イロハちゃんって呼んでいいわよ!
更にソラから、ソラおにいちゃんに格上げしてあげるわ!』との事だった。
『さて、夢路ん所に行くぞ』
イロハの髪が綺麗に纏り、ソラを待っていたレイブンが立ち上る
『うっす!あ…そうだ!イロハちゃんナナシの頼むっす!』と言い
ソラは小声で『ナナシ…後の事頼むっすね』と、言うと
ナナシは『安心しろ!俺様、子守りは大得意だ!』と
大きな声で返事をした
この後の事は誰もが想像できるかもしれないが・・・
イロハが怒り、ナナシと喧嘩を始めたりしていたりして・・・。
相手に配慮して伝えても、相手が「配慮されてる」と、気付かなければ…
意味が無いんですよぉ~
(;一_一)相手に配慮を台無しにされる事ってありません?