050「49 知らない事はまだ、意外と多い」
後半、深入りし過ぎたソラの台詞の件は…
大昔の作者の学生時代の友人の秘話
及び、作者の飛散系「腐女子時代の名残」ですので
気にしない方向で御願いしますw
「49 知らない事はまだ、意外と多い」
扉の向こうから、レイブンと雷の口論が微かに聞えていた
皆が皆…この喧嘩は見なかった事、聞かなかった事にして
廊下で雛芥子の作った、美味しいアイスを食べ終わり
その場で座り込んで寛いでいる
『そろそろ終わるかな?』と、桜花が呟くと同時に物凄い音が響き
何が起こるか知らなかったソラ以外の皆が頭を隠して蹲る
所々で、大小様々な小石が降ってきて・・・
運悪く数人が、その小石に当たって怪我をしたらしい
あちらこちらで、屋根を吹き飛ばした犯人に対する愚痴が飛び交った。
見上げると・・・
屋敷の天井が姿を消し、照明を下げた鈍色の薄暗い天井が
屋敷の屋根があった場所より、遠く高い場所に見える
『マジッすかぁ~…』
ソラは溜息混じり現状に驚き、途方に暮れる
そこへ…扉を開けて、屋敷の屋根を吹き飛ばした犯人のレイブンが
何時もと変わらぬ人当たり良さそうな雰囲気で姿を現した。
にこやかでも無言のまま、レイブンはソラの近くで膝を折り・・・
白い鴉なセレスをすくい上げる様に、優しく抱き上げる
セレスの様子を見て・・・
レイブンは、何処からともなく聴診器を取り出しセレスの背中を撫で
『医務室に行こうか』と、言って
何時もより大人しいセレスを連れて行ってしまった。
屋敷の天井付近では、予測でもしていたのか?
既に羊達が補修工事の準備におわれ、補修を始める者までいた
時々、羊が落ちて来ては・・・
ゴム毬の様にバウンドして、何気ない様子で階段を上って行く
『アレって大丈夫なんすか?』
ソラの質問に答える者はいなかった、誰しもが何も言わず
危険回避の為に、離れにある少し小さな屋敷の方に移動する事にする。
移動した先には・・・
一頻り暴れて、雷を怒鳴りつけて…気が晴れたのか?
何時も通りのレイブンが、食べ過ぎで腹を下したセレスの世話をしていた
怪我をした者、ただ何となく付いてきた者達は
何時もながらに遠い目をして、2人の関係を見守っている。
レイブンは何時もの様にセレスに微笑み掛けている
『4人前の食事+aを一人で食べるからだぞ
師匠は体が一番小さいんだから…2~3人前くらいで我慢しとけよな』
セレスが鴉だと言う事を無視しても
師弟らしからぬ、逆転した関係がそこにはある
ソラは、不思議そうにセレスとレイブンを見ていた。
レイブンに怒鳴りつけられた…又は、レイブンに虐められた
この場所、牧場の主である「雷は?」と、言うと・・・
一緒に来ていて、部屋の隅っこにて
でっかい図体を小さく丸めて、床に「の」の字を書いている
ソラは窓の外を眺め、この地下都市の高い鈍色の天井を眺めながら
『先輩…何をしたら、こんな事が出来るんすか?』
自分で勝手に信じていた・・・
「レイブンが人間である」と、言う仮定への明確な問題点を経て…
「考えを全て改めた方が良いんっすかね?」何て事を
思いながら呟いていた。
セレスはレイブンの腕の中、仰向けになって
湯たんぽでお腹を温めて貰いながら白い翼をパタパタ動かし
『余命削って、命懸けでドーピングするつもりがあるのなら
ソラもレイ君みたいになれる可能性はあるぞ?
なりたいか?なりたいなら…
ソラも完全に、私の実験の被験者にしてあげよう』
ちょっと微妙な提案をしてくれる
ソラは一瞬、戸惑い…レイブンはそんなソラを見て
『余命がどうなってるかは、知らないが…命懸けなのは確かだ
ソラも一応、軽くは体験してどんな実験かは知らない事無い筈だぞ?』
「どう言う実験なのか?」を連想されるヒントを
レイブンがソラに渡し
その言葉でソラは、命落としそうな程に不味い
セレス特製の各種それぞれ胡散臭い名前のジュースの事を思い出して
『すんません…俺、精神衛生の環境と命が惜しいっす』
苦笑いしながら、暗い顔で断った。
『それが賢明だ、元いた場所の企画から外れると
その為に、元いた場所に帰れなくなる可能性があるからな』
レイブンの言葉に、ソラが過剰反応する
『セレスさん!俺を罠に嵌めるつもりだったんっすか?!』
怒った様子のソラに対し、セレスはそっぽ向く事で答える
『如何して…何のつもりなんっすか!』
更に、セレスに詰め寄るソラを見て
『ちょっと、俺の話を聞いてみないか?』と
レイブンはソラをセレスから離した。
『帰って、そのままの生活に戻れる事もあるんだが…
帰りたい場所が、帰れる場所とは限らない
もう別の場所になってて、帰りたい場所に受け入れて貰えない
そいう事もある、これは経験から来る意見なんだが…
師匠は、受け入れて貰えない理由を知って
苦しむ姿を見たくないから、ちょっと卑怯な方法ででも
引き留めたがるんだよ』
レイブンは笑いながら
『代わりに俺が謝るよ、ごめんな
「元いた場所に帰れない」と、決まった訳じゃないのに
師匠は、ちょっと心配性なんだ…許してやって欲しい』と、続けた。
ちょっと微妙な成り行きに
『先輩に謝られても俺、困るっす
それと、ちょっと卑怯って…今さっきのセレスさんのは全然
全く、マジでちょっとじゃないっすよ』と、言いながら
対応に困ってこれ以上、ソラは追及しない事にした。
『そりゃそうだ、帰りたい者にとってはとんでも無い事だな』
レイブンは、そう言いながらも
セレスの方には、とっても優しい態度で有り続けている
『先輩にとって、何でセレスさんが師匠なんっすか?』
ずっと疑問に思っていた事をソラは、何となく口にした。
レイブンが普段、セレスにだけしか向けない笑顔をソラに向ける
『俺、さっき言ったろ?経験から来る意見なんだって…
帰る場所を亡くした俺を師匠が拾ってくれて
この世界で生きれる様にしてくれた
これで師匠の事を師匠と崇めず、誰を崇めましょう?』
『誰を崇めましょうって…崇めちゃってるんすか?』
「崇めるって、こんなんだっだっすかね?」
ソラは、セレスを可愛がってるようにしか見えないレイブンの態度に
若干の間違いを感じつつ、気付かなかった事にして
ただ、その場のノリでソラは笑う事を選んだ。
ソラがネタを振った事で女性陣達がざわめいていた
女性陣の気持ちを代弁するかのように
『そんな理由で、セレスの事を大事にしてたんだ
こんな事なら、私がレイ君を引取っておけばよかったわ』と、言って
何時の間にか復活した雷が、大きな図体で近寄って来る
『雷叔父さんは、無理でしょ?ずっと独り身だし』と、雛芥子が笑う
『おじさん?おじさんって、雷さんってば…男の人なんっすか?』
ソラが1人だけ驚いていた。
『あら知らなかったの?
あぁ~もぉ~それなら先に言っておいてよぉ~!
こんな事なら、最初の内に
誘惑して既成事実を作って、結婚まで持ち込んでおけばよかったわ』
雷がとんでもない事を口走る
周囲はクスクスと笑いを洩らし、誰もソラを助けようとはしない
『き…既成事実って、何するつもりっすか』
『勿論、ナニするつもりよ!何なら、今から別室でどう?』
『断固拒否させて貰うっす』
ソラは御尻を隠して、レイブンの後ろに逃げ避難する。
『失礼ね!工事済だからオカマ掘ったりしないわよ?』
雷はそう言ったが・・・
『いやいや…勘弁して下さい!俺がオカマ掘りたくないっすよ』
ソラは拒絶する
『穴の違いで怖気づくなんて、まだまだね』と、雷・・・
『穴の違いが一番の問題だと思うっす!』と、更にソラは否定した。
『じゃあ!人工物でも、それ専用の穴があったらOK?』
ニヤニヤ笑う雷に腕を掴まれたソラ
『専用の穴って、なんすかそれ?』と
深入りし過ぎた質問をするソラ…それに伴う、周囲の空気
『それ、訊いちゃうの?馬鹿な子ね、もう逃がしてあげない』
次の瞬間、ドガタァ~ンと大きな音がした。




