049「48 まだまだ続くディナーの時間」
「48 まだまだ続くディナーの時間」
精神的なダメージの強いディナーが終わり、デザートと食後のコーヒーが
2本足で歩く、エプロンドレスを着用した羊の手によって運ばれてきた
配膳係の羊を眺め、ソラが『何で羊なんすかね…』と、呟き
『牧場主が、牛だからかもな…』と、レイブンが答え
『いやいや、違うだろ…執事が羊だからじゃないのか?』と
セレスも、何で羊が配膳やっているのかは知らない様子だった
「後で、雛芥子にでも訊いてみるか」
レイブンは、対面側に座る雛芥子を見てから
運ばれてきたケーキを食べ、必死でちょこまか走り回る
テーブルの高さと変わらない身長の羊をじぃ~っと、眺める。
『家の子達を視線で誘惑しないでよね…レイ君!
それと、そろそろビジネスディナーに突入して良いかしら?』
牧場主の雷の想定外な突然の言葉に、レイブンは驚きの表情を見せる
『誘惑って、まぁ…それは置いておいて、まだ食べる気か?』
『まだ食べるって…マジなんすか?』
同じく驚くソラに向かって、雷は微笑む
雷は、本気で言っていて…本当にまだ、食べる気らしい
『今、飯を食い終わってデザート食べてる気がするんだが?』との
レイブンの素朴な疑問に
『別にそんな小さい事は気にしなくても良くない?』と
雷は、小さくない筈の事柄を小さいと言いきった。
『いやいや、気にしてくれよ…俺は、もう食えないぞ!』
『俺もちょっと無理っす!』
レイブンとソラが抗議すると・・・
『それなら、レイ君とソラの代わりに私が食べて進ぜよう』
白い片翼を上げて、セレスが・・・
レイブンとソラの前に追加で出された小さな洋菓子を掻っ攫い
全てを引き受けてまた、最初から…
先程並んだコースメニューが運び込まれ始めた。
雷は、前菜の乗った皿を手に取り
『此処で育った、夢路ん所のイロハちゃんのさぁ~
小さい頃の服とか、持ち物とか、玩具とか預かってたんだけどね』
と言って、皿を斜めにして前菜を口に流し込んだ
雷の頭の大きさくらいしかない白い鴉のセレスは
3人前の前菜を飲み物の様に食べていく・・・
次に運ばれてきたのは、サラダボールに入ったサラダ
『そう言うのって、取敢えず当面…要らないでしょ?
だから箱に詰めて、倉庫に入れて放置してたらさぁ~』と…
前菜同様、雷は皿を斜めにして流し込み
『ドレッシングかけ忘れたわ』と、ドレッシングを飲んだ
セレスは『マヨネーズ大盛りで!』と、注文してい為
そのままサラダをガツガツ食べていた。
ブラックホールを体内に持っているかの様な、セレスの食べっぷりに
驚くソラを無視して
『放置してたらどうなったんだい?』と、レイブンが雷を促す
『そう!放置してたらね、何時の間にか倉庫の中って
蜘蛛の巣が張りまくってて、取りに行けなくなっちゃったの!』
と言ってから、熱いスープを口に流し込んで飲み干し
雷は、スープ皿をドンとテーブルに打ち付け
音に驚いた羊が何匹が躓いて転んで皿の割れる音が響く
更に、先程とは違う早い料理の進行に・・・
配膳する羊達は、苦しそうに息を切らして走り回って
食事をする者達の後ろで、大混乱が起きていた。
雷は、湯気の立ち上る魚料理も
前菜の時と同じ感覚で皿を斜めにして口に流し込み
『私ってば、か弱くって…蜘蛛とかって苦手でしょ?』と、言い
同じくテーブルに付く面々を無言にさせる
『「心」は、か弱い乙女だもんな』
セレスは、「心」の部分を強調して表面上、微笑んだ
その後、微妙な沈黙が有り
『これくらいなら食べれるんじゃない?』と
雷はシャーペットを1口で食べてから、レイブンとソラにも勧めた。
焼き時間が足りなくなってしまっていたのか?
温かい飲み物が振る舞われ
少しタイミングが遅れて、肉料理がテーブルの上に並ぶが・・・
『そうそう!あの「荷物」…
夢路も、必要になったからって言うし…私ってばさぁ~
取りに行くのが怖くて、困っちゃってるのよね』
雷は、羊たちの苦労を物ともせず
大きなステーキ肉を切らずに、一口で口に流し込んで食べてしまう
『噛まずに食べるなよ…』
セレスは似た様な食べ方をしておきながら
自分の事を棚に上げて、雷に突っ込みを入れた。
暫くすると、口直しにワインとチーズが運ばれて来る
『もうここまできたら分かるでしょ?』
これまた、一瞬で雷が食べ…セレスも一瞬でチーズを食べ尽くす
それを予測していた羊が、運んできたフルーツを
皿の上から素手でそのまま受け取り
『レイ君!私の代わりに
倉庫まで荷物を取りに行ってきてちょうだいよ』
フルーツは、雷にそのまま飲み込まれて
その隣で、セレスにも一瞬でフルーツは食べ尽くされてしまった。
『御願い出来るでしょ?』と
新たに運ばれてきたデザートとコーヒーを前にして
雷はレイブンを見詰め、返事を待つ
余りにも早い食事シーンにレイブンは唖然として、返答が遅れる
返事が遅れた為、おもてなしのつもりなのか?
雷の指示でコーヒーと小さな洋菓子が、レイブンとソラにも配膳される。
レイブンは、2杯目のコーヒーに手を伸ばし
『仕事を受けに来たんだから、仕事はするけど…
「どの箱に入ってる」とかは、ちゃんと憶えてるよな?』
雷の顔色を窺い、大きな溜息を吐いた
『箱に中身が外から分かる様に何か書いてたり
必要に応じて、印を付けてたり…も、そっか…してないんだね』
無言の雷から、声無き返事を貰い・・・
レイブンの表情が、少しづつ険しくなっていく
『レイ君!イライラする時は甘いモノを食べると良いぞ』
普段なら、率先してレイブンから奪ってでも
目の前の食べ物を食べてしまうセレスが・・・
レイブンの苛立ちを感じ取りレイブンに気を使う
それ程、レイブンは機嫌が悪そうに見えた。
執事な羊が出てきて、小さな羊達を密かに退却させる
『レイ君!ソフトクリームとかバニラアイス食べたくない?』
向かい側に座っていた雛芥子が・・・
「カルシウム不足になると苛立つ事が多くなる」と、言う事を思い出し
「雛芥子御自慢のアイスクリームの器械を持って来る」ように
逃げ遅れている羊達に指示を出す
慌てだす周囲にソラは、訳が分からぬまま
『行き成りどうしたんっすか?セレスさんらしくも無い』と
レイブンの機嫌を取ろうとする白い鴉のセレスに声を掛けた。
『あぁ~ソラは、レイ君の怒った所を見るのは初めてだったな
レイ君はね…本気で怒らすと、この屋敷を一瞬で壊滅させるレベルで
物に八つ当たりする事があるんだよ』
『マジッすか…』
『冗談で、こんなに皆が大慌てすると思ってるのか?』
『そうっすよねぇ~…』
ソラは此処に来てからの経験上、自分には何もできそうにないので
自ら進んで、その場所から退却する事にする
『おいコラ!ソラ!私も連れて行け!』
セレスに呼び止められ、ソラがセレスを連れて食堂の外に出ると…
『人様から預かった物の管理くらい、ちゃんとしときやがれ!』
レイブンの怒鳴り声と、大きな鈍い爆発音が轟いた。
食堂前の廊下にて、先客達が深い溜息を吐く
『あぁ~ぁ…怒っちゃったぁ~間に合わなかったね』
雛芥子がバニラアイスを作成しながら、残念そうに呟き
『いやいや、今回のはどうやっても間に合わなかっただろ?』
桜花が雛芥子を励ますかの様に、優しく雛芥子の背中を撫でる
『おぉ~…作りたてのバニラアイスか!
美味そうだね!折角だから私が味見をしてあげよう!』
セレスは、扉の中で雷を説教するレイブンの事は置いておいて
完成していないソフトクリームの様なアイスクリームを
作り手の雛芥子の許可なく、勝手に食べ始めた。




