046「45 慣れてしまうと意外と平気」
「45 慣れてしまうと意外と平気」
『やっぱり、活きの良い生き餌だと獲物の食い付きが良いなぁ~
でも、外側に寄生するタイプだけじゃなくて
内部寄生型の寄生蜂がいるから皆、気を付けろよ!』
『そうそう!内部寄生タイプに寄生されても
普通、一般的に死んだりはしないけど・・・
寄生された部分が凹んで、二度と元に戻らなくなるから
女の子にとっては一大事だな!気を付けろ!』
『待って欲しいっす!凹んだら女の子でなくても・・・
多分とっても、一大事っすぅ~!』
脱兎の如く逃惑う、ソラ定番の悲痛な突っ込みが響く中
レイブンはちょっと放置されていた子牛を拾って来て撫でながら・・・
セレスは、残りモノを食べながらレイブンの言葉に補足を付けて
楽しげに笑っていた。
少し離れた場所で・・・
『肉も虫も飽きたなぁ~!そろそろ、フルーツが食べたぁ~い!』
『そうね・・・私も同じ気持ちよ』
大きな鴉のチムナターと
丸っこいフォルムの大きな梟、遠征隊のリーダー雫が
倒した蜂を食べながら愚痴り、溜息を吐いている
『って、言うか・・・今までずっと食べてたのかよ』
レイブンの問いにチムタナーと雫は・・・
『あたりまえでしょ?』『当然の事です!』と
一致した意見を述べてくれる
雫は一歩前に出て
『狩ったからには、食べないでどうします!』
チムタナーも
『そうよ!無駄な殺生はイケナイのよ!』と・・・
鳥コンビは、意外と律儀な意見を持っていた。
その場を微妙な雰囲気が包む、特に雫の為に・・・
「だから、丸いんだ」って、そこにいた者達は地味にそう納得する
『それじゃぁ~そろそろ切り上げる?』
レイブンも虫を狩るのに飽きてきていたらしく
狩りの中断を口にしたのだが、しかし・・・
『いえいえ、まだ食べれますよ?
ただ、虫の生食に飽きたので・・・そうですねぇ~
もう少し狩って来るので、腸詰めを作って頂けませんか?』
『良いわね!それ!私達の分も御願するわ!』
なぁ~んて、とんでもない提案が出され
『私も食べたい!』とのセレスの要望もあり
虫の腸と肉を使ったソーセージを作る事が決定してしまったらしい
要望を出された方のレイブンは
毎度の事ながら、拒否権の無い事を実感し
『師匠!香辛料を貰って来て下さい・・・後、調理器具』
『燻製用の桜チップは?』
『燻製までさせる気ですか?』等のやり取りの末
レイブンは伸びをして、仕えそうな場所を物色し行動に移した。
『ソォ~ラ!手伝えよ!』
レイブンは、ソラを追掛けていた蜂を真横から一刀両断し
蜂の腹を裂いて・・・
『まず、腸を引張り出して水の入ったボールに入れて
皮下脂肪は別にして、残りの内臓肉と表皮からこそげた肉を
空っぽのステンレスのボールに入れてくれ』
虫の腹の表皮から、スプーンで削って肉を取り出して見せた
『何作るんっすか?』
『何だ、聞いてなかったのか・・・
この腸にミンチ肉を詰めて、ソーセージを作るんだよ』
有無を言わさない笑顔でソラを追い詰めるレイブンを見て
『ちょっと、怖いわね・・・追い詰め方がセレスと一緒だわ』
『そうですね、セレスが育ての親だからでしょうか?
子は親を見て育つって言いますし・・・』
鴉と梟、チムタナーと雫は
自分が子育てする時には「ちょっと気を付けよう」と、思った。
ソラは・・・と、言うと
1個目、怖々・・・2個目以降は・・・
事務処理的に肉を切り刻み続ける事ができるようになった
『慣れって怖いっすね・・・
此処まで行くと、普通の料理してるような気分になってきたっす』
ミンチ肉に香辛料を加え、腸詰め用の機械で腸にミンチを詰め
『原材料知ってても、ちょっとだけ美味しそうに見えるっす』
ソラは、できあがっていく大きなソーセージを見て
セレスとレイブンに苦笑いをしてみせる。
『見えるんじゃなくて多分、美味い筈だぞ・・・
セレスが調合した香辛料をセレスの指示通りに入れてるからな』
『何で、多分なんっすか?』
レイブンは曖昧に笑い、ソラの質問に答えないが・・・
セレスの態度が、その理由を物語っている様だった
「やっぱり、頑なに虫料理は食べないからなんすかね?」
多分、それで当たりなんだろうが・・・
そこで、それを追求する事は得策でない事が分かっていたので
ソラは、黙って作業を続けた。
遠くで、2種類の鐘の音が鳴り響いた
一つは元いた街の・・・もう一つは、最初の目的地の鐘の音らしい
セレスが『飯時だぞ?まだ出来ないのか?』と催促に来る
『どれくらいか前に「腹減った」とか言うからカレー作って
カレーライスを十分に食べさせた筈なんだがな!』
先程の炊き出しの事をレイブンは言っていたのだが
『あれから2~3時間経ってるぞ!腹も減るさ!』
その後に残り物も食べていた筈なのに、セレスは引かない。
レイブンは早々に説得を断念し、肉の取り出し作業で出た脂身を
巨大な中華鍋に集めて火にかける
油が溶け出して、脂身が縮んで小さな半透明な塊を残すだけになる
『あぁ~もぉ~我儘な師匠だよ!
本当は・・・
揚げジャガとソーセージをバジルソースとバターで炒める
予定だったんだぞ!その方が絶対にうまい筈なのに!
それ用のソーセージが無くなっても知らないからな!』
レイブンは即席の揚げ油の中に、詰めたてのソーセージではなく
燻製途中のソーセージを突っ込んだ
『何で態々・・・遠い場所にあるのに、そっちから使うんっすか?』
『あぁ~、詰めたてのは、表面に水分残ってて
油がはねるから嫌なんだよ』
『そうなんすっか・・・危険なんすね
自分がやらなきゃいけなくなった時の為に憶えておくっす!』
此処で初めてソラは、揚げ物の揚げ油がはねる事を知った。
ソラはちょっと気になった事を口にしてみる
『所で先輩、先輩は自分が食べない料理にまで
拘り持って作ってるっすよね・・・何でなんすか?』
『ん?あぁ~・・・食べ残しが多い時は流石に気になるからな
食べてみる事もあるんだよ・・・
でも、その時に不味いの食べるの嫌だろ?
食べてみるのに不味くない方が良いから、拘って作ってるんだよ』
隠す程の理由があった訳ではなかった様子で、意外と素直に
レイブンは答えてくれた・・・
『凄いプロ根性っすね』
『何のプロだよ・・・っと、出来た!』
レイブンは、揚がりたてのソーセージを穴あきオタマですくい
焼肉に使う様な金網の上にがさっと転がす
『良い匂いっすね・・・』
『ソラ、お前も食べるのか?食っても良いけど
お前の場合、生モノを触った手で食うなよ!
ちゃんと手を洗って、箸使って食え!そして火傷しないようにな!』
レイブンは先にソラの分を取り分け
親切丁寧に指示し、注意を促してくれる
「俺の母さんより・・・先輩ってば、母さんぽいっす」
ソラの目の前では、ソーセージを揚げ続けながら
皆が火傷しない様に気遣うレイブンの姿があった。
一足先に、美味しくソーセージを頂いたソラは
一息付いて、ソーセージを作る方の手伝いを再開する
肉と腸の切り出しは、何時の間にか桜花と雛芥子がやっている
どうやら「腸詰め用の香辛料の配合レシピ」をネタに
手伝わされている様子だった。
今更な話だが、ソーセージを求めて並ぶ者達の姿にも
ソラは自分が何時の間にか慣れ親しんでいる事に気付く
「最初、この世界に来た頃は・・・
全ての住人の姿が気味悪くて、怖かったんっすよね
今はもう、平気で違和感すら覚えなくなってるんっすけど」
原材料「昆虫」なソーセージを作りながらソラは・・・
この世界にやってきて、半月程度しか経たない内に
この世界が「自分の本来いるべき世界なのではないか?」
と、思う様になっている事に気付いた。
ジャコウネコの糞から作ったコーヒー・・・
最初、飲むのに抵抗があったんですけど…慣れると美味いですね!
値段が高いだけあります!「コピ・ルアク」w
慣れてしまうと意外と平気なんですよ!
糞から作ったコーヒーであったとしてもw